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天高く陰謀巡る秋

お話合い その三

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「いいところの、お嬢さんでしたか」
「そういうこと。今回は『娘も連れてきてくれ』って阿呆なことを頼まれた。それが出張に同行した理由。今になって思えば、既成事実を作りたかったんだろうね」
 そのはずなのに、何故か藤城さんも一緒と。
「取引会社の創業者一族から無理難題を言われて押し付けられなければ、雇わないような輩だよ。仕事できない、礼儀作法もできていない。よくあんなのを外に出す気になったと、評判だよ」
 それってどちらかと言えば、悪評ですよね。
「私のところには仕事のできる高部に藤城、それから明日ぬくいという三人の秘書がいる。特に明日は、仕事しない輩に対して遠慮ない。しかもあの馬鹿たちも逆らえないような人物だ。だから私付きの秘書になったともいえる」
 そんな理由で旦那様付けの秘書さんですか。……何だかなぁ。

 ちなみに、妊娠騒動を起こした女性の父親は、この会社で役員をやっているとか。今回の一件で、その父親、開き直っているらしく、「性病を移したのは旦那様だ」と言ったそうです。
 もちろん、旦那様も病院で検査して、病気もちじゃないことは実証済みで、そのあたりも含めて役員会議で話し合われてるとか。
「明日もいいところのお嬢さんだった人物だけどね」
 ほうほう、明日さんは女性ですか。彼女の実家は厳原うちよりも大きいところだよ。とにっこり微笑んでおっしゃってました。

 明日さんのご実家のことはどうでもいいので。
「なにゆえここまで大ごとに?」
「麻帆佳が私に報告しなかったことと、あいつらの話を鵜呑みにしたから」
 ……う。耳が痛いですが、それだけじゃないと思います。
「あとは、あの二人が親の影響力を自分の力だと妄信して色々したというのもある。あとは、私が独身だった・・・のをいいことに『自称婚約者』として触れ回っていたし、親睦会の時は付いて回ろうとして、自分の家に頼んで・・・いた」
 それだけじゃない気もしますが。……考えるのが面倒になってきました。
「というわけで離婚はしないし、あの二人と一切仕事以外で話したことはほとんどない」
 さすがに親睦会とかで声をかけられれば、答えなきゃいけないとか。大変ですねぇ。
「まぁ、二度と縁故雇用で需要部署への登用はなくなる。今回の一件で人事部も梃入れされるし」
 何故に人事が出てくるのでしょう。
「いくつか理由はある。一つ目。私があのマンションに移ったのは、麻帆佳と結婚してから。でもって、人事部に住所変更出した以外で、新しい住所知ってるのは、人事だけ」
 あとをつければ、住所くらいわかると思うのですが。
「二つ目。部屋番号まで知られていたこと、三つ目、私の妻である麻帆佳の名前も漢字も相手に知られていた。ストーキングをしても、部屋番号まではわからないし、表札も出していないわけだから、名前なんて通常では分かるはずがないんだ」
「どこかの調査会社に依頼したとか……」
「無きにしもあらずだけど、二人が偶然・・一緒に動くと思うかい? それならばどちらかが社内で調べて、そのおこぼれを預かったと見たほうがいい。しかも、人事には件の役員がねじ込んだ社員がいる」
 ……納得しました。というか、足つきまくりですね。ほんっとうに、私、自分が情けないです。

 別の意味で離婚したくなってきました。何もいらないです。身一つで出ていきます。
「麻帆佳、馬鹿な事考えないでね。離婚はしないから」
 ……今のは絶対口に出していなかったと思うのですが。
「そのあたりのこともあって一か月かかった。あとは私以外の上層部の判断待ち。
時々店に顔出していたのは、時間があるときでいいから、麻帆佳に会わないと、なおさら麻帆佳が暴走する気がして」
「何ですか、その言い分は!」
「実際、今回の一件は私に黙っていたことでなおさら暴走したでしょ。反論は許さない」
 暴走したつもりはなかったのですが。
「こっちだって身に覚えのないことばかり言われると、どうしていいか分からなくなる。しかもこっちが梃入れしようとしているところに変な妄想付きだと」
 妄想って断言されました。でも、引っ搔き回したので、反論できません。
「兄さんとお義姉さん含む、実家関係からは『麻帆佳を囮に使った』って怒られるし。そんなつもりまったくないのに」
「すみません」
「そのあたりのお仕置きはあとで。それから……」
 ん? 今お仕置きって言いました? いやな予感がひしひしとするんですが……。

 すすっと、思わず後退りすると、旦那様がその分距離を詰めてきます。
「少しでも麻帆佳に会いたかった」

 その言葉に処理落ちした私が復活すると、旦那様に抱きしめられておりました。

 どうしてそんなことをサラッと言えるんですか!!

「そこまではっきり言わないと麻帆佳に通用しないみたいだし」

 ……その言葉にぐうの音も出ませんでした。
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