44 / 120
天高く陰謀巡る秋
お話合い その三
しおりを挟む「いいところの、お嬢さんでしたか」
「そういうこと。今回は『娘も連れてきてくれ』って阿呆なことを頼まれた。それが出張に同行した理由。今になって思えば、既成事実を作りたかったんだろうね」
そのはずなのに、何故か藤城さんも一緒と。
「取引会社の創業者一族から無理難題を言われて押し付けられなければ、雇わないような輩だよ。仕事できない、礼儀作法もできていない。よくあんなのを外に出す気になったと、評判だよ」
それってどちらかと言えば、悪評ですよね。
「私のところには仕事のできる高部に藤城、それから明日という三人の秘書がいる。特に明日は、仕事しない輩に対して遠慮ない。しかもあの馬鹿たちも逆らえないような人物だ。だから私付きの秘書になったともいえる」
そんな理由で旦那様付けの秘書さんですか。……何だかなぁ。
ちなみに、妊娠騒動を起こした女性の父親は、この会社で役員をやっているとか。今回の一件で、その父親、開き直っているらしく、「性病を移したのは旦那様だ」と言ったそうです。
もちろん、旦那様も病院で検査して、病気もちじゃないことは実証済みで、そのあたりも含めて役員会議で話し合われてるとか。
「明日もいいところのお嬢さんだった人物だけどね」
ほうほう、明日さんは女性ですか。彼女の実家は厳原よりも大きいところだよ。とにっこり微笑んでおっしゃってました。
明日さんのご実家のことはどうでもいいので。
「なにゆえここまで大ごとに?」
「麻帆佳が私に報告しなかったことと、あいつらの話を鵜呑みにしたから」
……う。耳が痛いですが、それだけじゃないと思います。
「あとは、あの二人が親の影響力を自分の力だと妄信して色々したというのもある。あとは、私が独身だったのをいいことに『自称婚約者』として触れ回っていたし、親睦会の時は付いて回ろうとして、自分の家に頼んでいた」
それだけじゃない気もしますが。……考えるのが面倒になってきました。
「というわけで離婚はしないし、あの二人と一切仕事以外で話したことはほとんどない」
さすがに親睦会とかで声をかけられれば、答えなきゃいけないとか。大変ですねぇ。
「まぁ、二度と縁故雇用で需要部署への登用はなくなる。今回の一件で人事部も梃入れされるし」
何故に人事が出てくるのでしょう。
「いくつか理由はある。一つ目。私があのマンションに移ったのは、麻帆佳と結婚してから。でもって、人事部に住所変更出した以外で、新しい住所知ってるのは、人事だけ」
あとをつければ、住所くらいわかると思うのですが。
「二つ目。部屋番号まで知られていたこと、三つ目、私の妻である麻帆佳の名前も漢字も相手に知られていた。ストーキングをしても、部屋番号まではわからないし、表札も出していないわけだから、名前なんて通常では分かるはずがないんだ」
「どこかの調査会社に依頼したとか……」
「無きにしもあらずだけど、二人が偶然一緒に動くと思うかい? それならばどちらかが社内で調べて、そのおこぼれを預かったと見たほうがいい。しかも、人事には件の役員がねじ込んだ社員がいる」
……納得しました。というか、足つきまくりですね。ほんっとうに、私、自分が情けないです。
別の意味で離婚したくなってきました。何もいらないです。身一つで出ていきます。
「麻帆佳、馬鹿な事考えないでね。離婚はしないから」
……今のは絶対口に出していなかったと思うのですが。
「そのあたりのこともあって一か月かかった。あとは私以外の上層部の判断待ち。
時々店に顔出していたのは、時間があるときでいいから、麻帆佳に会わないと、なおさら麻帆佳が暴走する気がして」
「何ですか、その言い分は!」
「実際、今回の一件は私に黙っていたことでなおさら暴走したでしょ。反論は許さない」
暴走したつもりはなかったのですが。
「こっちだって身に覚えのないことばかり言われると、どうしていいか分からなくなる。しかもこっちが梃入れしようとしているところに変な妄想付きだと」
妄想って断言されました。でも、引っ搔き回したので、反論できません。
「兄さんとお義姉さん含む、実家関係からは『麻帆佳を囮に使った』って怒られるし。そんなつもりまったくないのに」
「すみません」
「そのあたりのお仕置きはあとで。それから……」
ん? 今お仕置きって言いました? いやな予感がひしひしとするんですが……。
すすっと、思わず後退りすると、旦那様がその分距離を詰めてきます。
「少しでも麻帆佳に会いたかった」
その言葉に処理落ちした私が復活すると、旦那様に抱きしめられておりました。
どうしてそんなことをサラッと言えるんですか!!
「そこまではっきり言わないと麻帆佳に通用しないみたいだし」
……その言葉にぐうの音も出ませんでした。
3
お気に入りに追加
1,299
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる