彼女と彼とお酒

神月 一乃

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彼と彼女の秘密

情報収集はしっかりと(?)

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「美冬!!」
 いったい誰からこの騒ぎを聞いたのだと、言いたくなるのを堪えて美冬は桐生を睨んだ。
「お仕事は」
「都築興産に来ていた。ついでに言うと、お義姉さんも一緒」
「え゛!?」
 かなりまずい。千秋が来ているということは、美冬を猫かわいがりしている千秋の夫、諒太も一緒の可能性が高い。
 一度仕事でこちらに来た時、遠目で春文を見て一瞬で「気に入らない」と豪語した男だ。その時だって社長と一緒に来社していたはずなのに、しっかり見ている。
「美冬の勘は大当たりだよ。お義兄さんと社長も一緒」
「何で!?」
「そりゃね」
 そういえば保証人の欄に都築の名前があったっけ、と今更に思い出した美冬である。

「桐生さんっ!」
 わざとらしく寄ってこようとした愛を、桐生は振り払った。
「そういや、桐生。今のあんたの自己紹介をして欲しいんだけど」
 そうわざとらしく言ったのは、真貴だ。
「自己紹介が遅れました。この度美冬と結婚しました、立花 桐生と申します」
 わざとらしく名刺を出して、真貴に渡していた。
「……ここまでせんでよろしい!!」
「お前が言ったんだろうが。それに合わせただけだぞ」
 という会話をしていた桐生の背後から、大きな影が。
 美冬はその影の持ち主が大好きである。
「僕の可愛い義妹ちゃんに何してんのさ」
 幼少期に柔道を、ある程度大きくなってからはラグビーをしているというその影の持ち主は、がっしがっしと美冬の頭を撫でまくった。
「……お義兄さん。髪が乱れるので今は勘弁して」
「はっはっはっ。悪いことをした。今度美冬ちゃんに特製パンケーキを作ってあげよう」
 義兄の作る特製パンケーキ。
 想像しただけで、美冬の食欲を刺激した。


 ガタイの良すぎる男の登場に、闖入者二人は言葉を失っていた。


「……有名だと思ったんだけどな」
 ぼそりと呟いたのは桐生で、頷いたのは真貴と千秋だ。

 現・都築興産社長の専属秘書二人は夫婦だ。夫である諒太は元ラグビー選手で、柔道黒帯。警察にスカウトされるほどの腕前で、国体へ出たこともある猛者。それゆえ、社長の外出には必ず付き添い、ボディーガードとしても優秀。色々と話題に事欠かない人でもある。見た目に反して可愛い物好き、というのが妻でありもう一人の秘書である千秋の言だ。千秋とて、もう一人が常に一緒に社長と出歩くため、二人分のスケジュールを社内外全て把握している。電話で話すのはまず、千秋だと思って間違いない。ただ、表に出てこないため、社内以外で顔を知られていない。
 ……それゆえ、都築社長と面識のあった桐生も千秋の顔を知らなかったのである。


「で、どうするんだ。コレ」
「社長が不法侵入者として警察を呼んだらしいわ」
 桐生と真貴の台詞を聞いた諒太が、二人の腕を掴んだ。
 右手に春文、左手に愛。片手で両腕を拘束するというある意味素晴らしいことをしていた。
「コレは、どこに放り込んでおけばいいですか?」
 諒太の言い分としては、「侵入者」として対応するつもりのようである。
「会議室も開いておりませんでして」
 しれっと真貴も答えた。

「あんなひ弱な男が美冬ちゃんの婚約者? 僕がひねりつぶしてあげるよ」
「……そこまでにしとけ、真壁。傷害罪で捕まえる気はないぞ」
 と、引き取りに来た警察官と話していたが、誰一人聞かなかったことにしたという。
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