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彼と彼女の秘密
急な訪問
しおりを挟む次に根回しに走ったのは、美冬の姉である千秋に対してだ。
「どんなご用件でしょうか」
「今度挨拶に行くにあたって持ち込みNGのものを知りたかっただけですが」
「……妹に聞けばよろしいのに」
「彼女は逃げますから」
その瞬間、千秋が顔をしかめた。
「今度の日曜日にお伺いする予定をたてております」
「それ妹に伝えました?」
「いえ。ただ、あなたの弟さんにだけは伝えました」
「どうして弟だったのか聞いても?」
「今まで彼女と話をしていて、キーパーソンになるのがあちらだと思ったからですが」
そこまで言えば、優秀な秘書という猫をかなぐり捨て、千秋はテーブルを叩いた。
「ほんっと! 腹立つわ! 美冬はそう言ったプライベートをあまり話さないはずなのに!!」
やっぱり、桐生はそう思った。美冬が話した身内の話は、実の姉兄は下戸でその伴侶がいける口だということ。親戚が来て酒盛りすること、その時に独特のルールがあること。そんなものだけだった。兄と姉の仕事の話も、伴侶が誰なのかも一切口にしない。
桐生からしてみれば、一種の賭けでもあった。新年デートの時もだが、時折美冬は姉にコーディネートしてもらったという服で来る。ということは、姉はそれなりに賛成していると取ってもいい。
「……だからよ。普通は賛成してくれる人を取り込もうとするんじゃないの?」
「だから、そこは勘です」
本当にそれしか言いようがない。
「冬哉はシスコンよ。私も美冬が大好きだけど」
あなたもシスコンでは? その言葉を桐生は飲み込み、再度家族の好物を千秋に訊ねた。
「……ないのよ」
「え?」
「うちの家族。好物と呼べるものが。呑兵衛どもは、酒があればそれで満足って輩じゃないけど。出されたものを美味しく食べるのが流儀だから。
ああ見えて美冬は脂っこいもの苦手なの知ってた?」
「……初耳です」
大抵煮つけを肴に酒を飲むのはそのせいか。桐生は納得した。
「あ、脂っこいものっていうか、脂身が苦手なだけだから。お腹が膨れるからっていうどうしようもない理由だけど」
「彼女らしいと思いますが」
「……ごめん、仕事の休憩中に惚気聞きたくない。気持ちはわかるけど」
分かるのならそれでいいと思うのだが。
結局何を買えばいいのか分からず、「外れではない」と呼べる菓子折りを持って挨拶に行くことにしたのだった。
仕事を変えてからの方が、デートしやすいとはこれ如何に? と美冬は思ってしまう。今の方が出張もなく、役職手当もないが残業、休日出勤もないと桐生は笑って言っていた。
しかも桐生に「今日は絶対あけておいてね」などと念を押された。
が、具体的プランなど一切決まっていない。いつもなら「〇〇で待ち合わせ」とか「俺の部屋に来て」などと言われるのだが、それすらなかった。
ピンポーン
自宅のインターフォンが唐突に鳴り響いた。
母辺りが通販でも頼んだのかな、などと思っていたのだが。
「美冬、あんたの彼氏が来たわよ」
「はぃぃぃ!?」
桐生には自宅を教えていないのに何故!? という疑問が頭をよぎったものの、急に来たということに驚きそれどころではなかった。
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