彼女と彼とお酒

神月 一乃

文字の大きさ
上 下
28 / 52
彼と彼女の秘密

安曇家、陰の実力者

しおりを挟む
 苛立つようにして出て行った桐生を愛が追いかけようとした時、当主の妻である千代ちよが止めていた。
「あの子には少し冷静になってもらわないといけませんよ。そのような言い方をしてしまえば、あの子は出奔してしまいます」
「お義母様!!」
さやさん。あなたは母親でありながら、それが分からないのですか?」
「しかしだな」
 当主のてつまでもが口を挟んできた。
「あなたはたつしの時で懲りたと思っていたんですが、違うのですか?」
 千代はぴしゃりと言い放った。
 二人の長男である達は、既に他界している。父親の重圧に耐えれず自殺したとことになっているが、実は違う。愛する女性を父親にずたずたにされたことで精神を崩壊させたのだ。
 何度言っても聞かない男だ。既に愛想を尽かしているが、千代は自分の持つ発言力を知っているために、この家を出ない。そして達を弔うためだけにいるのだ。
「桐生まで失うのはごめんですよ。彩さん。あなたも母親としての自覚ぐらい持ったらいかがかしら? かのう、あなたが選んだ女性は見てくれだけでしたわね。賛成するのではなかったわ」
 凄まじい言い方に、全員が黙った。千代は今まで表立って彩を非難したことはなかった。

 それがこれだけの不満を抱えていたなど、誰も知らなかったのだ。
「あなた。週末に初煮会がありますが、わたくし一人で行かせていただきます」
「千代!」
 それだけ言ってすっと立って部屋をあとにした。

 そのあとは、この部屋がある意味葬式のように暗かった。


 一部の人間はここぞとばかりに彩に気に入られるよりも、千代に気に入られることを望むだろう。
 千代はそれが狙いである。初煮会に今回はさらさら行くつもりもない。
「……というわけで、申し訳ないわねぇ。筑紫つくしちゃん」
『あらあら……千代ちゃんが来ないんじゃあ、寂しいわ。けど今回は我慢するから、そのうちお茶でもしない?』
「そのつもりで筑紫ちゃんに電話をしたのでしょう? それから……ふふふ。お願いね」
『あら、そんなに気に入ったの?』
「もちろんよぉ。渡しませんからね」
『あらあら……。こちらだって負けませんよ』
 ちなみに、電話をかけた相手の本名は都築つづき しおりという名前である。都筑興業の筆頭株主であり、千代の幼馴染だ。紫という色が好きなことと、都筑の名前をもじり、普段から「筑紫」という名前を使っている。「芸名みたいでいいじゃない」とはしゃぐ彼女も、実はかなりの腹黒である。
「ただでさえ、お姉ちゃんは取られちゃったんだから、妹ちゃんのときは全力よ!」
『こちらも全力でいくわ』
 ふふふ、と電話越しで笑う二人をその場で見ていた者がいたら、背筋が凍っただろう。


 ちなみに。
 その頃二人に噂されていた姉妹は寒気を覚えたとか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

秘密 〜官能短編集〜

槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。 まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。 小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。 こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。

処理中です...