Signal――シグナル――

神月 一乃

文字の大きさ
5 / 12
吟遊詩人、旅する

欲望の果て3

しおりを挟む

 人が寝静まる頃、かちゃりという音と共に、吟遊詩人の宿泊する部屋の扉が開いた。

 一応本人は音をたてていないつもりなのだろうが、野宿する機会の多い吟遊詩人からし
てみれば、丸わかりである。
 侵入者が己の近くに来る前に、枕の下へ手を忍ばせる。目的のものはあった。

 しゅるりと衣の擦れる音がした。
 一歩ずつ吟遊詩人へと近づく。
「ひっ!」
 吟遊詩人の上に乗ろうとしていたのは、裸の女だった。
「何のつもりだ」
「私はただっ! 吟遊詩人様を慰めようと」
「要らないと言っただろう」
 先ほども来た豊満な身体つきの女だった。
「お前のような色欲にはこれで・・・十分だな」
 声色もがらりと変わった吟遊詩人が、何かを虚空から掴んだ。

 そこにあったのは、女にとって見覚えのないものだった。

「ゆっくり相手してもらえ」
「ひっ」
 ずるり、女に一歩ずつ近づく。そして、それは女に絡みついた。
「安心しろ。死にはしない。ただ、永遠とわの快楽に誘うだけだ」

 吟遊詩人が呼んだのは、女性に快楽をもたらす触手の中でも上位のもので、女が枯れ果てるまで離れぬものだった。
 ぐちゅり、女の秘部へと一気に侵入していく。
「ひぃぃ……あぁぁぁ」
 恐怖はすぐに快楽へと変わり、女を地獄へと落とした。

 女の悲鳴のような喘ぎ声を聞きつつ、吟遊詩人はベルを鳴らした。

 来たのは、宿屋の親父ではなく、村長だった。
「お前か? このくだらぬ遊びの主犯は。服を寄越せ。
 ……聞こえなかったか? の服を寄越せと言ったのだが」
 ガタガタ震えるだけで、動こうとしない村長に嫌気がさした。直接・・宿屋の親父へ声をかけた。

 親父の顔は腫れており、何があったのかを物語っていた。
は大事ない。あなたの方が酷そうだな」
「いえ……客人の部屋の鍵も守れねぇ宿屋の親父なんざ、気にしねぇでください」
「そうもいかない。さて、服を持ってきてくれた礼だ。この傷薬を……」
「要りやせん。それは俺の娘にやってくだせぇ」
「?」
 娘がいたのか。一度も顔を出さなかったが。

 階下に行けば、そこも地獄だった。
 少女の服は破かれており、それを囲む男たちは欲望に満ちていた。
「……なるほど。要らぬと言ったのは、娘の安全のために鍵を渡したからか」
 吟遊詩人は呟く。怯えつつも気丈にした少女は、男たちを睨んでた。
「けっ。親父の前で俺らが美味しくいただいてやるよ」
「まったくだ」
「光栄に思え」
 馬鹿げたことを口々に言う男たちに、吟遊詩人の記憶がよみがえる。
――あなたの命と引き換えなら――
――なりません! あなたはこちらに来ないで!!――
 考えるよりも先に、吟遊詩人の身体が動いていた。

 たたたん! 次々に男たちを沈めていく。
「安心しろ。殺してはいない。朝になれば起きる」
「あ……ありがとうございます」
 怖かったのだろう。父親の顔を見るなり泣き出した。
「宿代だ。この薬を受け取れ」
「いただくわけには!」
「このあと、こやつらの対応があるだろう。私はここを出る」
 今後、宿屋の親父たちは村八分になるはずだ。
「……だったら、娘を連れて行ってくれませんか? 村の慰み者にはしたくない」
「お父ちゃん!」
 押し問答が続く二人を眺めつつ、吟遊詩人は一人思案していた。
「よかろう。娘、ついてくるがいい。ただし、旅は過酷だ。……とある町に着いたら、そこに保護を求めよう。それまでは野宿の際、飯の用意を頼む」
「!!」
「久しぶりなのだよ。そこまで性根が清らかな者は。……最近は欲にまみれている。その代償だ。
 早く用意しなさい」
「は、はいっ」
 親父がすぐさま動き、少女の服やら必要なものを用意し始めた。

「……これは、お前の母ちゃんの形見だ。持っていきなさい」
「父ちゃん!」
「俺にはこの店がある。
 ……娘をよろしくお願いします」
 どこまでも娘を案じる親父に、吟遊詩人は頷いた。
「よかろう」
 動かぬ娘を抱きかかえ、吟遊詩人は宿屋を後にした。

「追手が来ぬように急ぐ。……好きなだけ泣きなさい」
「うぁぁぁぁ!!」
 泣きじゃくる少女を宥めつつも、吟遊詩人の足は止まることがなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...