Signal――シグナル――

神月 一乃

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吟遊詩人、旅する

欲望の果て1

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 山賊を狩り終えれば、あとはここを離れるだけだ。首から上だけ近くの集落へ持っていけばいい。残りは魔獣の餌だ。
「さて、これに食らいつく『欲』のある者はいるかな?」
 吟遊詩人は独り言ちる。

 山賊の持っていた麻袋、首を入れてゆっくりと歩きだす。

 二つほど無人になった集落を通り過ぎ、寂れた集落へたどり着いた。
 ここは吟遊詩人が通り過ぎた集落から逃げてきた者たちが住まう場所。そして山賊の脅威にさらされていた。
 そんな集落に住む者たちへ、吟遊詩人は狩りとった首を差し出した。

 分かる者には、何なのか分かったようだ。

 集落あげての祭りと化した。
 他人ひとの死を喜ぶとは。人間とは強欲なものだとつくづく思う。そして、己たちで狩ればいいものを。

 一人の村人が言った。
「山賊は魔獣も狩ってくれたから」
 だから何だ? 魔獣を狩ってもらうのはありがたかったから、不便なのを受け入れてでも山賊にいて欲しかったのか?
「これで村さえ襲わなければ……」
 なんとも強欲な。吟遊詩人はくつりと笑った。

 それは冒険者の仕事であって、山賊の仕事ではない。そして、冒険者を雇えばいいだけのこと。それをこの集落と、領地は怠っただけのことだ。
 そういえば、と吟遊詩人は思い出した。
 噂の「呪われた」領主とやらの領地だったと。
 あの無責任な男ならば、報酬をケチって討伐依頼など出さないだろう。税収だって、代理人がやるものだと思っている男だ。
「いやぁ、吟遊詩人様のおかげで助かりました!」
 口々に村人が礼を言う。
「礼で腹は膨れぬ」
 吟遊詩人は冷たく突き放した。

 吟遊詩人の曲にも歌にも報酬が付いて回る。もちろん、魔獣狩りや、山賊狩りにも報酬はつきものだ。
「だって、山賊たちの首を町のギルドに持っていけば……」
「それまでに無一文でいろ、と。この集落はそう言うわけだ」
「ここにはそんな金はないよ!」
「私の知ったことではない」
 かたん、と吟遊詩人は席をたった。

 宿屋の親父が言う。「宿代と食事代はせめてものお礼です」と。
「この先、何度こちらに宿泊なさろうとも、吟遊詩人様とご一緒の方には宿代も食事代もいただきません。それが今、私にできる礼です」
 親父だけが割を食っていた。

 他の村人は何かをしようとすらしなかった。
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