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本編

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数日が経った。
日に日に寝ている時間が長くなり、食が細くなってきた。当然だよね、動いていないのだから、そんなに食べなくても問題ないもの。

それなのに、ルイが泣きそうな顔をするものだから、無理やり食べないといけない。うっぷ、となるまで食べて、ようやく食事の時間から解放される。


「アシリス……、」
「なぁに?」
「俺と、……いや、なんでもない」


横着に視線だけを上げる。

ルイの顔立ちは整っている。男臭いというか、精悍な容貌をしていて羨ましい。もしこう成長したのなら、父はもっと僕を大事にしていてくれたはずだ。

そして、ふと、ある考えが浮かび、するっと口から出た。


「ルイってさ、僕を抱ける?」
「は?………………………………は?」


キョトンとした後、ルイは一気に強面こわもてになった。わわ、その顔をするから可憐な子たちはルイに近寄らないんだって!

いや、でも友人から言われたらそうなるよねぇ。
僕としては悪くない考えだと思ったんだ。


「婚約は解消された。まだ貴族籍はあっても、後ろ盾が無い僕はほとんど平民。僕の知識を考えたら薬師とか教師とかも出来るかもしれない。けど、元貴族でオメガで、まともに働けると思う?いやぁ、無理だよね」


僕はこれまで、王子妃になるために、知識を習得し、自己研鑽してきた。それは5歳からずっと。18年の人生のうち、13年も、だ。

仮にルイに頼んで使用人として働かせてもらったって、出来る訳がない。いや、努力したら出来るかもしれない。掃除、洗濯、料理、接待。自分より下位だった貴族にも頭を下げて、偽りの笑顔を浮かべて。

それにオメガということは、発情期もある。これまで無事だったのは公爵令息かつ王子の婚約者という立場で守られていたから。これからはアルファに襲われることもあるだろう。そして、相手が貴族なら『慰めてくれてありがとう』とすら言わなきゃいけないかもしれない。

あー……無理ぃ。


「それでどう繋がるんだ?さっきの発言と」

「いっそ、…………旅に出てしまおうかなって。そしたらさ、いつかはどこかでヤられるだろ?それなら、初めては信頼出来るルイがいいなって」


いっそ、の次は、ちょっと考えた。流石に消えるとしょうじきに話したらルイは悲しむだろうからね!


「……初めて?」

「あー、いや、殿下にも抱いてくれって言ったのにさぁ、全く、指一本触れられなかったから。そりゃあ、あの男爵令息がタイプなら仕方ないかもしれない。でもね?婚約者でオメガで、しかもオメガ側から良いよって言っているラッキーチャンスだよ?それでも抱かないってどれだけ嫌われてたんだろって感じだよ」


肩を竦めてルイを見やった。
えへへ、ルイのごりごりに鍛えられた身体、エロいなぁとは思ってたんだ。婚約者がいたから見るだけに留めておいたけど、一口味見してから消えるのも悪くない。ルイなら僕を大事にしてくれ……あれ?そういえば。


「ルイってもしかして童貞?その、性交経験はある?」


目の前の男は、僕のズケズケとプライベートを荒らすような質問に、表情をすっかり無にしていた。ごめん。僕、ちょっとどころか、かなり、自分本位だね。


「……してる」

「ん?」


『してる』?したことが『ある』じゃなく?
妙な受け答えに首を傾げると、ルイがやっと僕を見た。


「間違えた。経験はない。あんまりお前の尻ばっかり見てたからすっかりしてる気になってた」

「……………………は?」


その答えに、今度は僕が固まる番だった。
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