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本編
間話:ココル
しおりを挟むココルは孤児だった。
ある日酷い怪我をしたシスターを助けようとして突然光属性に目覚め、それを聞きつけたシャンティー男爵に引き取られたのは、15歳の時。
それまで魔力操作の訓練などしていなかったココルは、自由に魔法を使える訳では無い。
それでも学園では、真面目に魔力操作の訓練に取り組み、ようやく出来たのは一種類の魔法。それが治癒魔法だった。
一人一人の症状に合わせて魔力を調整――など、出来るはずもない。出来るのは、数人怪我人を集めて、そこにドーン!と治癒魔法を降らせる、なんとも力技。
それも、変換効率が悪く、ココルの魔力の殆どは治癒効果よりも、目も眩ませる光へと変換されてしまう。
貴族であればあまりにも拙い、子供のような魔法。
ただ、その治癒現場を見た者の感想は違った。
『なんて神々しいんだ』と。
ココルはこれまで、勉強をするということに縁が無かった。孤児院にいたココルは、農作業や、庭の剪定なら得意だが、突然貴族の学園に入れられて大いに戸惑った。
何もかもが相容れない。意味もわからないし何から手をつけていいのかすら分からない。
そんな困惑の最中に、偶然出会ったのが、キールだった。
「君は本当に可愛らしいね」
「えっ……、そ、そんな。でも、嬉しいですっ!」
「ふふっ、君みたいなタイプは初めてだよ。癒される……」
(殿下にとってのペットみたいなものだろうな)
ココルはそう思っていた。それでも構わなかった。
フェロモンの相性も良かったのか、徐々に距離は近付き、共に過ごす時間も増えていく。
キールには婚約者がいた。それは、ココルでも知っているというより、学園通うにあたって真っ先に叩き込まれた事だった。
『いいか、婚約者のいる奴に手を出すな。特に王子には幼年からの完璧な婚約者がいる。……そうだな、狙い目は子爵か伯爵。侯爵なら奇跡だ!堅実に、しかし謙虚過ぎてもダメだ』
男爵は、ココルの容姿と光属性の素養だけでより良い縁談を待ち望んでいた。
だから、割と大人しい性格のココルでも頑張って人脈を広げようとしたのだ。
(優しい人がいいな。格好良くて、素敵なアルファならもっといいけど……そんな人は、もう婚約者がいるだろうなぁ)
王子だって、その内の一人。もし運が良ければ、良い縁談を紹介してもらえるかもしれない。
そんな考えもあって親密になればなるほど、キールに惹かれていく。それでも、まだココルの中では『分不相応だ』という意識はあった。
……まさか、初めての発情期を殿下の前で迎え、そのまま抱かれるなんて。それも、何度も何度も中で出され、妊娠するなんて。
ココルこそ、恐慌に陥っていた。
「こうなった責任は、とる。私は元々、君のことを好いていて……すまない、チャンスだと思い、抱いてしまった」
「そんな……っ、殿下。でも、ぼくなんかでは、とてもではないですが、王子妃なんて務まりません……っ!」
ココルは、あまり王族の慣例について知らなかった。ここで、『第二妃』や『愛妾』という存在を知っていたら、この後の展開は変わっていたかもしれない。
しかし、その言葉に、キールは目を輝かせた。
「ココル!ココルも、私のことが好きだったんだね……っ!?ああ、嬉しい!もう、私たちは運命としか思えない。婚約者の方はなんとかするから、どうか、私と結婚してくれ!」
「えっ……、な、なんとかって……」
ココルは、王子妃というものがどれだけの知識やどんな教養が必要なのか、全く知らなかった。
知らないということもきっとキールは知っていて、その上で『何とかしてくれるのだろう』と捉えたココルは、おずおずと頷く。
この、誰よりも頼り甲斐のあるアルファの王子なら、こんな自分でもなんとかしてくれるのだろうと信じて。
「好きです。キール様。大好きですっ……!」
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