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本編
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キール殿下は本当に、申し訳ない顔だけは本物だったみたい。
殿下から渡された鉱山は、採掘すればする程赤字になるという素晴らしい鉱山だった。知っていてこのクズのような鉱山を差し出すなんて、本当に演技だけはお上手だ。王族ならこうでなくちゃね。二枚舌め。
僕の父親は、もう完全に僕を捨て駒にするらしい。
「出戻りは要らん!急ぎお前の婿入り先を決めなければ……、隣国のゲヘルト王のところはまだ、募集はあったか……?たしかこのあたりに……」
「そんな!かの王の妃はもう、何十人も死んでいるじゃないですか!」
「お前の知識があれば、正式な妃として長く置いてもらえるだろう!王の好みではなくともな!それに死んだとしても見舞金が……いや、なんでもない」
「こ……っ!」
このクソ父上が!
ちゃっかり鉱山の権利書は受け取り、いそいそと資料を探し出す父親を、僕の方から見限った。いや、鉱山は要らないからいいとして。
いやぁ、収納魔法が使えて本当に良かった。
王城からも、公爵家からも居場所を無くした。僅かな荷物を抱えて。
「……ってことがあってね」
僕は、とある宿屋に来ていた。そこの一階は酒場になっていて、お酒を飲みながら、全く知らない人に愚痴を吐いていた。
「いや、顔は良いんだ、すっごく僕好みのどストライクの王子様顔っていうか、ライト背負ってるのかなってくらい輝いてた。だからめちゃくちゃ尽くしたよ。どんな時でも微笑みを忘れず、立場をわきまえ、それでいてさり気なく事前情報集めもやったりして彼の評価を上げさせたり、ね?そりゃ、『愛してもらえるかも』って打算があったことは認める。認めるけど、みんなそうじゃない?ああ、そうか、努力と愛は無関係ってことか。ははは」
「いんやぁ、そんなことはねぇ!兄ちゃん、可哀想だ……っ!慰めてやる……!」
目の前には、えぐえぐと泣く大男がいて、強めに頭をぐりぐり撫でてきた。痛い。
何の感慨もない。はぁ、何も考えられない。
ぼうっとしてきた頭に浮かぶ単語。
こども。
……かぁ。
ココルは確か、16だかだったと思う。
こどもってことは、体の関係があるということ。
発情期を迎えたオメガが、アルファ無しで越える事はとても困難だ。
抑制剤という薬を使うことも可能だけど、一番は婚約者、いなければ恋人でも友人でもただの知り合いでもいいからアルファに抱かれること。
僕は散々、キール殿下に言ってきたのに、全く取り合ってもらえなかった。
『ごめんね、大事にしたいから』
『私の憧れなんだ、初めてが初夜っていうのが』
今思えば、口から出た適当な誤魔化し。キール殿下は、口だけは上手いようだ。すっかり騙されていた。
別に処女性が問題になる訳でもない。だって婚約者だった僕には王家の『影』が張り付いていて、浮気していないことは明白なのだから。ちなみに浮気した時点で物理的に首が飛ぶけれど、僕は殿下に対して誠実に付き合ってきたつもりだ。あ、今はお役目御免になって、いつもの人の姿は無い。
だから僕は薬を飲み、副作用の吐き気や眠気に耐えながら、発情期を過ごすしか無かった。
なのに、あの子は、抱いてもらえたんだ。
僕もあの子もオメガらしい見た目ではある。だけど、全くタイプが違う。
僕は銀髪碧眼、クールに見られがち。フェロモンの香りは爽やかなシトラスとミントのような清涼さで、色っぽさはない。体付きも、体力作りの鍛錬をしていたから割としっかりしている。でないと広い王城を駆け回ったり、時として王子を庇う王子妃なんて無理だもの。
一方ココルは、蜂蜜色の髪に、ピンクの瞳。華奢で小柄で、甘い砂糖菓子のようなフェロモン。細腰に小さな尻、子供のように柔らかそうな体。
タイプがもう、違いすぎて失笑してしまう。
それが決め手になると知っていたら。
もう、全くもって、僕の13年の努力は無駄だった。
殿下から渡された鉱山は、採掘すればする程赤字になるという素晴らしい鉱山だった。知っていてこのクズのような鉱山を差し出すなんて、本当に演技だけはお上手だ。王族ならこうでなくちゃね。二枚舌め。
僕の父親は、もう完全に僕を捨て駒にするらしい。
「出戻りは要らん!急ぎお前の婿入り先を決めなければ……、隣国のゲヘルト王のところはまだ、募集はあったか……?たしかこのあたりに……」
「そんな!かの王の妃はもう、何十人も死んでいるじゃないですか!」
「お前の知識があれば、正式な妃として長く置いてもらえるだろう!王の好みではなくともな!それに死んだとしても見舞金が……いや、なんでもない」
「こ……っ!」
このクソ父上が!
ちゃっかり鉱山の権利書は受け取り、いそいそと資料を探し出す父親を、僕の方から見限った。いや、鉱山は要らないからいいとして。
いやぁ、収納魔法が使えて本当に良かった。
王城からも、公爵家からも居場所を無くした。僅かな荷物を抱えて。
「……ってことがあってね」
僕は、とある宿屋に来ていた。そこの一階は酒場になっていて、お酒を飲みながら、全く知らない人に愚痴を吐いていた。
「いや、顔は良いんだ、すっごく僕好みのどストライクの王子様顔っていうか、ライト背負ってるのかなってくらい輝いてた。だからめちゃくちゃ尽くしたよ。どんな時でも微笑みを忘れず、立場をわきまえ、それでいてさり気なく事前情報集めもやったりして彼の評価を上げさせたり、ね?そりゃ、『愛してもらえるかも』って打算があったことは認める。認めるけど、みんなそうじゃない?ああ、そうか、努力と愛は無関係ってことか。ははは」
「いんやぁ、そんなことはねぇ!兄ちゃん、可哀想だ……っ!慰めてやる……!」
目の前には、えぐえぐと泣く大男がいて、強めに頭をぐりぐり撫でてきた。痛い。
何の感慨もない。はぁ、何も考えられない。
ぼうっとしてきた頭に浮かぶ単語。
こども。
……かぁ。
ココルは確か、16だかだったと思う。
こどもってことは、体の関係があるということ。
発情期を迎えたオメガが、アルファ無しで越える事はとても困難だ。
抑制剤という薬を使うことも可能だけど、一番は婚約者、いなければ恋人でも友人でもただの知り合いでもいいからアルファに抱かれること。
僕は散々、キール殿下に言ってきたのに、全く取り合ってもらえなかった。
『ごめんね、大事にしたいから』
『私の憧れなんだ、初めてが初夜っていうのが』
今思えば、口から出た適当な誤魔化し。キール殿下は、口だけは上手いようだ。すっかり騙されていた。
別に処女性が問題になる訳でもない。だって婚約者だった僕には王家の『影』が張り付いていて、浮気していないことは明白なのだから。ちなみに浮気した時点で物理的に首が飛ぶけれど、僕は殿下に対して誠実に付き合ってきたつもりだ。あ、今はお役目御免になって、いつもの人の姿は無い。
だから僕は薬を飲み、副作用の吐き気や眠気に耐えながら、発情期を過ごすしか無かった。
なのに、あの子は、抱いてもらえたんだ。
僕もあの子もオメガらしい見た目ではある。だけど、全くタイプが違う。
僕は銀髪碧眼、クールに見られがち。フェロモンの香りは爽やかなシトラスとミントのような清涼さで、色っぽさはない。体付きも、体力作りの鍛錬をしていたから割としっかりしている。でないと広い王城を駆け回ったり、時として王子を庇う王子妃なんて無理だもの。
一方ココルは、蜂蜜色の髪に、ピンクの瞳。華奢で小柄で、甘い砂糖菓子のようなフェロモン。細腰に小さな尻、子供のように柔らかそうな体。
タイプがもう、違いすぎて失笑してしまう。
それが決め手になると知っていたら。
もう、全くもって、僕の13年の努力は無駄だった。
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