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しおりを挟むマリー嬢はえぐえぐと泣いており、パリス侯爵令嬢に慰められているけれど……なんでわざわざ俺が縁談を断ったことを、公衆の面前で言っちゃったの?
こんな大事になった後、彼女の嫁ぎ先に影響があるかもしれないのに、侯爵令嬢は責任を取れるのかな?
「聞いてくださいまし、シルファ様。この男、淑女を誑かす悪い男なんですのよ!?わざわざこの!わたくしが!縁談を用意してやったと言うのに、この仕打ち。到底許されませんわ」
そう言い募るパリス侯爵令嬢に向けるロドリックの顔は……なんて変な顔をしているのか。
怒りと歓喜の入り混じった、なんとも言えない顔をしている。
「パリス侯爵令嬢。私がレイを愛していると知っていて、なぜ彼に縁談を?その上に、彼が断ったのを糾弾するとは、どんな立場で言っているんだ?彼らの関係に貴女は関係ないだろう」
「でもッ……!あの男を野放しにしていては、危険だと……」
「はは、ある意味そうだ。だが、これからは問題ない。彼は私のものになった。手出しはさせない」
ロドリックはそう言い放つと、おもむろに俺の肩を抱いた。ちょっと痛いんだけど。
そう抗議しようと見上げた途端、ちゅぅ、と柔らかな感触が唇に当てられて固まった。
……え?今、みんなの前で、何を?
「レイジーン・アクアは、この私、ロドリック・シルファのものだ。手出しをする者には容赦しないから、覚悟をしろ!」
「……え?……は?!」
顎を取られ、再びぶっちゅううとキスされた。目の前にいた侯爵令嬢や、マリー嬢が絶句しているのに。
野次馬たちから、茶色い悲鳴が上がった。
汚ッ!なにその声!そこは黄色でしょ!?
と、思うのに、熱烈な口付けに腰砕けとなった俺は、へたりとロドリックの腕に抱かれる他無かった。は、なんなのそのテク。やっぱり納得いかない!
俺はロドリックの胸ぐらを掴み、顔を押し付けて隠す。恥ずかしいじゃねぇか、こんな大勢の前で……!
ざわざわする周りを無視して、小声で抗議した。
「おい、ロドリック。こんな大っぴらに……!お前に羞恥心というものはないのか!」
「……!く、レイ……!かわいい……!」
「聞けよ!」
全くこいつってやつは!
顔の火照りを取ってから、まだ涙の跡の光るマリー嬢へ向き直った。俺が近づくと、恨みがましい目で睨まれる。
「こ、断るのなら、どうしてあんなに優しくしたのですか!わたし、わたし、婚約が成立するとばかり……!」
「すみません、マリー嬢。貴方に非は全く無いんです」
「……!どうしてまた、優しくするのですか……っ!酷い……!」
泣きながら怒れるマリー嬢に、困ってしまった。だって女の子には優しく、男には雑でいい、ってのが俺だもの。
「貴女は素晴らしい女性です。きっと結婚したのなら、温かな家庭が出来るでしょう。戦いで疲れても、支えてくれるでしょう。ただ問題は、俺が、それを求めてないということなんです」
「……どうしてですかっ!?もしレイジーン様の言う通りなら、わたしと、結婚するべきです!」
「俺は、支えてくれる人じゃなく……隣で一緒に戦ってくれるような人が、いいんです」
「……!」
「ロドリックなら……彼は、俺にとって唯一の、パートナーになると、思っています」
マリー嬢はわなわなと震え、俺と、多分背後にいるであろうロドリックを交互に見ていた。
うん、そうなんだよねぇ。俺、けっこーロドリックが好きみたいで。
相棒として最高だし、同居人としても最高だし、今の生活に何の不満もなく満たされているからこそ、女の子と婚約したい気分にならなかったんだろう。
ってことに、遅ればせながら気が付いたんだ。ロドリックが暴走してから。……遅いって?
「レイ……!」
ぎゅむ、と肉厚なハグに捕まった。少し苦しいけど……満更でもなかった。
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