8 / 17
8
しおりを挟む咄嗟に庇ったのは、すぐ近くに座っていた女の子だった。数分後に飲むことを想定した紅茶は、きっと彼女の肌を傷付けてしまう。
焼けるような熱さ。けど、それよりも。
「……大丈夫、ですか?」
「……!は、はひ……っ!」
腕の中の女の子は、なんともないみたい。
髪の毛を捲って確認しても、火傷はなさそうだ。良かった……。
「怪我が無くて良かったです。あ、俺?俺のことは心配要らないですよ。男なんで」
正直、熱い。ヒリヒリ、ピリピリする。
――――けどさ、やっぱ格好付けたくなるじゃん。
「……これに懲りたら、シルファ様の周りをうろちょろしないことね。次はこの程度では済まさないわ」
うーん、今日は談話室を見れただけで満足だな!そう完結した俺は颯爽と立ち上がると、俺を視界に入れないように横を向く御令嬢へ礼をした。
「お招きいただき、ありがとうございました。それから、俺がロドリックの周りをうろちょろしているのではなく、アイツがうろちょろしてるんです。それだけはご理解を」
「なんなのよこの人!出て行って!もう!」
追い出されるようにして談話室を出た。すると、バタバタと出てくる人がいて……先ほど庇った、女の子だった。
「あっ、あの!」
「あ……さっきの」
「ありがとうございましたっ!アクア様こそお怪我が……!」
「え!あ、俺は……」
「ごめんなさい、わたし、何にも出来なくて……!これ、良かったら」
レースのハンカチが手渡されて、俺は感動した。し、刺繍入り!
刺繍入りのハンカチは、女の子が好意を伝える時に使われるらしい。けれどこれは、多分彼女は想定していなかったこと。たまたまだろうなぁ、でも嬉しい。
初めてのソレに気を取られて、背後からくる殺気じみた気配に気付かなかったんだ。
「あ、ありがとうございます。その、お名前は……」
「何をしている、レイ」
「へっ?」
女の子の背が縮んだ。違った。
俺がヒョイって、抱え上げられたんだ!
こんなことを出来るやつは一人しかいない。ロドリック……!
何をする!せっかくいい感じだったのに!
「……!レイ、これはどうしたんだ!?クソ、早く帰るぞ!」
「えっ?あっ?あの、あ~~っ!」
学年一位と二位の差は大きい。
俺は幼児のように抱え上げられ、顔を覆ったまま、自室へと連れ去られてしまった。
「レイ……!こ、これはどうしたらいいんだ、火傷か?薬傷か?ああ、レイの肌が……!」
慌てふためくロドリックに、俺は落ち着いて宥める。大丈夫。このくらいの火傷は、俺はなんともない。
鏡を確認すると、俺の額から瞼、首筋にかけて真っ赤に腫れて、皮が膨らみ始めていた。見た目が痛み以上に痛々しいからか、ロドリックもおろおろとしている。
「大丈夫、ただの火傷だから。……ほら」
水魔術を起動した。
俺、魔力が少ないからあんまり量産は出来ないんだけど……、俺の生み出した水は、一滴であっても効果を発揮する。
例えばこういった火傷なんかは、化粧水のように顔へぺたぺた塗るだけで治ってしまう。
「……………………………………は?」
ロドリックが間抜け顔をした。ぷふっ!
みるみる白さを取り戻していく俺の肌を見て、びっくりしたんだろう。“心配して損をした”とか思ってるかも。
「はい、もっとどぉーりー!な?心配するこたぁない、このくらい……」
「レイ。それ…………本当に、自覚がないのか?は?それ、完全に『癒しのヘレスティア』の力じゃないか!」
「いや、何言ってんだ?んなわけ」
「あるだろう。どうして今まで気付かなかったんだ。そうだ……レイ。この治癒の力は誰かに言ったか?」
「いや?だって、治癒ってほどじゃあねぇだろ。こういう表面の、火傷くらいしか治せねえし」
そう、俺の水属性魔術は、ほんの少ししか使えない。魔力量は少ないから。女神ヘレスティアは死者蘇生すら出来るらしいから、全然違う。
だけど一滴石鹸に混ぜるだけで肌はぷるぷるになるし、髪はつやつやになる。ちょっと塗り込めば、かすり傷もつるんと治る。そのくらいしか効果はないから、誰得?って話しだ。俺の銀髪の手入れには便利、ってだけ。
銀髪って、手入れを怠ると老人の白髪みたいに見えちゃうからさ。
「レイ。それは言わない方がいい。……急いで外堀を埋めなくては」
「言わねえよ、言った所でみんなの病気を治すとか出来ないし」
期待ハズレもいいとこだろう。で、最後なんて言ったんだ?
そんなことがあった数日後。俺の元に手紙が届いた。
珍しい、親父からだ。
内容を読んで、思わず声が出る。
「……お見合い……?!」
1,001
お気に入りに追加
985
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる