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番外編:バルカス 侵略できない男
しおりを挟むひょんなことから友人となったレイジーン・アクア。
容姿も座学も剣術も、完璧な彼。ちょっとおっちょこちょいだけど性格も明るく、爵位が低くて気兼ねしなくて良いということと、割と大雑把で細かい事を気にしない性質もあり、絶大な人気を誇っている。
「あっぢぃいい~……なぁバルカス、仰ぐもの持ってねぇ?」
走行訓練後、レイジーンの姿は騎士科の目の毒となっていた。
白い肌が火照って赤く染まり、滝のような汗が滴っている。皆が汗を拭きながら、ふらふらとレイジーンに近付いていく。あぁ、夜中の街灯に集る虫みたいだ。
……僕の、レイジーンなのに。
そっと大きめの布巾を、レイジーンの頭から被せ、色気を隠しながらわしゃわしゃと拭う。
「わっ、ありがとなバルカス!この布巾冷てぇ!気持ちいー!」
「冷やしておいたんだ。ありがたく使ってね?」
「あーひんやりする~!」
布巾の隙間からレイジーンの美貌が覗く。にかっ、と無邪気に笑いかけられ、僕は不覚にもドキドキしてしまい目を逸らした。
逸らした先には……ロドリック・シルファがいた。こわっ。睨まれてる気がする。ビビる僕のことは何とも思っていないのか、スッと視線を逸らされた。
「レイ。私の魔道具を使うといい」
「えっ?これ高え奴じゃねぇ?いやいや、いいよ、そこまでは」
「使ってくれ。でないと出番がない」
魔道具というものは総じて高い。それをこんな、普段使いするとは……さすが公爵家だった。僕では到底太刀打ちできない。
資金力もそうだし、他の面でもそう。僕ではシルファ様の足元にも及ばない。
シルファ様が動き出すずっと前から、僕はレイジーンが好きだった。綺麗な顔の割に色々と雑で、でも根本は優しくて温かくて、強い人。
レイジーンがそこにいるだけで、根拠もなく大丈夫だと思わせる。昼寝の時の可愛い寝顔も、代弁を頼む時のあざとい上目遣いも好き。あとなんかいい匂いする。
けれど意気地なしの僕は『親友』という関係を壊したくなくて、何もしなかった。出来なかった。彼は異性愛者だと思っていたし、何なら今でもそうだと思ってる。
けれどシルファ様は、強かった。レイジーンを身体から落としてみせた。そんなのアリ?って思う。僕ではそんな度胸もない。できない。
「じゃあ、有り難く。ふぁ~すげぇ!みんな見ろよ!」
「あ、ああ……」
「そうだな……」
レイジーンはその『冷風送風機』を浴びる。その体にぴったりくっ付くようにしてシルファ様が並んでいるので、その他の生徒は恐々と近寄るしかない。
あ、レイジーンの風下で匂い嗅いでる奴……真っ黒い炎で前髪燃やされてる。シルファ様だろうな。おお怖。
レイジーンの逆側の隣に図々しくも近寄り細腰を抱こうとした奴は、レイジーン自身にパシリと跳ね除けられていた。
『あちぃだろ、離れろ』って。そんな君、シルファ様は暑くないのか?特別ってやつかぁ……。
なんて羨ましい……!
僕は僕の臆病者っぷりに嫌気がさす。
石橋を叩いて叩いて、叩いているつもりが壊しているなんて気付かないタイプ。慎重に、親友としての立場を確立したのはいいものの、それから先に踏み込む勇気が無かった。
だってレイジーンは女の子が好きだから、とか、僕の気持ちは肉欲じゃなくて友愛なんだ、とか言い聞かせたりして。
今も失恋の痛みに、悲劇の主役を気取って自分を慰めている。敵前逃亡兵とは僕のことかもしれない。こんなグジグジした奴は、レイジーンに似合わない。シルファ様のようにぐいぐいといけるタイプじゃなきゃ、鈍チンのレイジーンは落とせないんだ。
もしも僕に度胸があったのなら、今のシルファ様のように、腕の中にレイジーンを囲い、腰を抱き、『近い』と文句を言われながらも照れさせることが出来たのかな……。
ひとかけらも想像出来ない。ということは、そういうことだろう。
「おい、バルカス!お前も来いよ!」
「あ~……うん。今行くよ」
~バルカスのその後~
卒業後、レイジーンやロドリックと共に騎士団へと入団。長らく失恋の痛手を抱えていたが、レイジーンの二番目の兄(騎士団所属)に食われる。
レイジーンの面影のある顔に抗えず、しかししっかりもののバルカスは年上の恋人を尻に引いた。レイジーンたちとは親友として長く付き合い、なんやかや幸せに暮らした。
番外編・End
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はー様、感想ありがとうございます!
主人公、全然気付きませんでしたね(´∀`;)ニヤニヤしていただき本望です!励みになります〜!´∀`*)
Madame gray-01 様、感想ありがとうございます!
バルカス損な役回りでしたので、幸せになってもらいたいなと……☺️
いつも応援していただき励みになります。最後まで読んで頂きありがとうございました〜!´∀`*)
tefu様、感想ありがとうございます!
公爵令息にあるまじき掃除好きになってしまいました(´∀`;)
楽しみにして頂き光栄です!ありがとうございます〜!´∀`*)