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 ものすごーく注目を集めている中、ロドリックは爽やかに俺を呼ぶ。


「次は昼休みだろう。さぁ、ほら」


 先ほどまでの冷たい声はどこから出してたんだ?ってくらい違う、甘く優しい声を出して俺を呼んだ。
 えっ、と。恋人は?もっと恋バナ展開しろよ!なんで急に俺を呼ぶんだ!

 ロドリックに強く肩を抱かれた俺を、侯爵令嬢がすごい目をして睨んでくる。引き攣った下手な笑顔を浮かべてみたけど、全く効き目はなさそうだった。











「ロドリック。なんであんなタイミングで俺を呼ぶんだよ。あの御令嬢にすげー睨まれただろ」

「聞いていただろう?そういうことだ」

「どういうことだって……あ、それもらい」


 今日はランチボックスセットにして、騎士科の鍛錬場で食べることにした。

 鍛錬場と侮ることなかれ。広い校庭に、小高い丘、砂地まである。丘には気持ちの良い青草がぎっしりふわふわに生えているから、青空の下食べるのも悪くない。


「やっぱロドリックのとこの肉は最高だな!うんめぇ……」

「なぁレイジーン、騎士科から肉を奪うなんて辞めなよ。シルファ様じゃなきゃ刺されてもおかしくないんだから」

「私は構わない」

「ほれみろ!ロドリックは優しーんだから」

「君限定だと思うけど……」


 なんてったってランチボックスセットの肉は、硬い。量と味の濃さだけで『オメーらこれ好きだろ!?』と食堂のおばちゃんが殴ってくるような肉感。顎を鍛えるのには向いている。


 それに比べて、ロドリックは毎朝侯爵家から弁当が届けられる。優しい味付けで、素材の味を引き出している。これは賞味期限の誤魔化しも香辛料による誤魔化しもない、純然たる素材の力。ランチボックスセットが逆立ちしたってこうはならない。

 そんな高級弁当を、『二人分ほどたっぷりと作らせてあるからなんでも食うといい』、と言ってくれたのはロドリックの方。

 弁当箱も保存魔術が効いているもので、今作ったん?てくらい出来立て。こんな高価な弁当箱を持てるのはお坊ちゃんだけだ。

 ロドリックに毎回『私のを食べればいい』って止められるけど、俺は安いやつを買ってる。だって全部ロドリックのものを食べてしまうのはねぇ、さすがにねぇ。分不相応てやつ。

 俺の舌が思い上がらないように、今度はパサパサの肉を噛み締めた。


「なぁロドリック、さっきの本当か?お前いつのまに彼女なんか出来たんだ」

「…………彼女はいない」

「かかっ!やっぱりな!見栄っ張りめ!」


 カラカラと笑うと、ロドリックはしかめ面に、バルカスは呆れたようにほそーい息を吐き出した。


「いやあのさ、レイジーン。分かってる?さっきの流れでいくとさ、」

「分かってるって!お前、彼女いる体で断りたかったんだろ?大丈夫大丈夫、口裏合わせてやるよ。で、どんなタイプって設定にする?」


 バルカスは『こりゃだめだ……』と、また天を仰いでいる。こいつは良くこんな仕草をしているので気にせず、俺はワクワクしてロドリックの言葉を待った。

 この時俺は、ロドリックが俺と一緒にシャワーをした時、勃たせていたことなんか、完全に忘れていた。



「地上の天使のように美しく、芯が強くて勤勉で、皆の羨望の対象。人気者が故にあちこちで牽制されあっているのに気が付かないど天然」

「……?変わった趣味だな?」


 ロドリックはそれほどまでに理想を細かく作っているらしい。モテねぇぞ。

 俺?俺は元気で愛嬌のある子がいいなぁ。ロドリックは熱心に俺を見つめてきたが、俺のタイプとは違いそうだから、ごめん、共感は出来ん。

 
「ロドリックのタイプと俺のタイプは違いそうで良かった。一致してたら女の子取り合うことになるもんな!安心してくれ、それはなさそうだ」

「…………レイは、女が好きなのか?」

「え?もちろん。むしろ違うのか?」


 俺が聞き返すと、ロドリックは身じろいだ。口を開けては閉めて、なんて答えるのか考えているようだ。


「あっ、いや別に、偏見があるわけじゃねぇよ!男も男を好きになるし、女の子も女の子を好きになることもあるよな。うん」


 手を振ってフォローをする。人の好みは人それぞれ。ロドリックの好みが男だって女だって、俺に口を出されたくないだろう。

 するとロドリックは何を考えたのか、なぜか俺に弁明をするが如く、語り始めた。


「先ほどの令嬢は、第二王子殿下の婚約者だ。しかしさっきのように、何かと絡んでくる。私の他にも殿下の側近や、宰相令息などにも同じらしく、外堀を埋める作戦か、あるいは単に男に囲まれたいか。と言うわけで、あの令嬢は私を好きな訳ではないし、私もそうだ」

「へぇ」

「……私は次男で血を継ぐ必要もないから、これはと思った人に生涯を捧げようと決めている。男でも全く問題ないし、むしろその方が性に合っていると思っている」

「へぇー、そうなんだ。いいじゃん」


 こいつって意外と熱い男らしい。見直した。

 さっきの御令嬢への対応を見たら、結婚しても『私は君を愛すことはない』なんて渋~い顔で言いそうな雰囲気だったから。

 ああでも、そうか。不特定多数にいい顔をする男より、一人だけを愛し抜く男はいい男だ。相手が女だろうが男だろうが、幸せになれると思う。

 そう思っての『いいじゃん』だったのだが、バルカスは額が痛むのか急に揉み出すし、ロドリックは遠い目をしていた。あれっ?

 ぽんぽん、とバルカスに肩を叩かれる。


「レイジーン。君のそういうところは好きだけど、ほんっと…………おっと、いや、なんでもない」











 シャワータイムは、これからロドリックと一緒に入ることになったらしい。なんか自然にそういうことになった。
 それは別に構わない。着衣の状態で裸を見られる方が嫌だから。

 でもさぁ……やっぱり、ロドリックのロドリック、つまりロディ坊やが元気。やんちゃな奴が俺の尻肉をつついている。

 それで俺は、思い出した。友人付き合いというものを。


「その、ロドリック……ソレ、俺が処理してやった方がいいのか?」


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