訳ありオメガは罪の証を愛している

カシナシ

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後編

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「な、な、何をしているの!?キール!」

「は……ぁ、クソッ、バレたか……」

「貴方、ついにそんな事にまで手を染めるように!?どこまで落ちぶれて……っ」

「ち、違う!断じて違う!その、あの子供がふらふらしていたから、保護していただけで……!」

「本当に!?リオに聞いたらすぐに分かるよ!?」

「ああ、本当だ、聞いてくれていい。だから……その……退いてくれないかい……?」

「あっ……」


キールの赤い顔。そして僕のあられもない体勢に気が付いた。サッと退いて、ぱんぱんと神官服を整える。僕は模範的な神官だもの。男に馬乗りだなんてしないよ?


キールを引き連れたままリオのところに戻れば、確かに『迷子になりそうだったけど、あのお兄ちゃんにおかしもらった』と言っていた。キールの疑惑は晴れたけど……でも、何でここへ。


「私は、ずっと影から見守っていたんだ、ココルを。君は危なっかしいし……、君が幸せなら、私も嬉しいから」

「……ずっと?え、いつから……」

「君が出て行って少ししてから……ずっとだ」

「ストーカーじゃないか……!」

「ああいや!騎士の仕事もあるから、その隙間に、だ。まだ一般騎士から抜け出せてはいないのだが」

「それは、そうでしょう……キールは、大変なことをしたから。僕もだけど……」

「うん。すまない。私のせいだな。君を巻き込んだ。……私に償えることは、何でもする」

「……そんなの、無いよ。何にもない。けど……この間、助けてくれたのは……キール、だったの?」


僕は黒い影の人を思い出していた。テキパキとした動きで、人の粗相の後片付けをしたり、扉をサッと補修したりなんて、絶対にキールには出来ないはずだ。


「……ああ。合意だったら……何も、しない予定だった。だが、ココルの悲鳴が聞こえたから……」


そういうと、キールは痛んだように胸を抑えた。うっすらと、目に涙の膜が張っているような気がして、慌てて目を逸らす。


「そっか……そ、それは、ありがと……。その、あんまり手際が良くて、キールだとは気付かなかった。キール、家のこと、何にも出来なかったのに……」


キールと一緒に住んでいたあの頃。キールは廃嫡されたばかりで、何もしようともしなかった。僕ばかり負担を強いられて、思いやりもなく、ストレスで発情期も来なくなって、嫌になって出て来たのだ。

脱いだ服を放り散らかし、家は勝手に片付くと思っていたキールが、まさか、人の吐瀉物も片付けられるようになるなんて。人は変わるんだなぁ……。


「私は……あの家は売って、騎士寮に移ったんだ。そうしたら生活の一から一までミッチリ教えこまされた。布巾の畳み方一つ、少しでもズレたら説教。そういう生活を続けていたら、自然とできるようになっていたよ」

「そうなんだ……成長したね、キール」

「ココルは……、変わらない。13年前からずっと、私には眩しい存在だ」


ぐっ。胸が、鷲掴みにされた。

ああっ、もう!

そんな、凪いだ穏やかな瞳のキールは、いつぶりだろう。かつて大好きだった頃のキールみたいだ。それも、姿形はすっかり大人になって。

どんな人に何を言われたって、僕は再び恋をすることはなかった。身体的に無理というのを抜いても、心は自由な筈。それでも、キール以上に素敵な人は見つけられなかった。

俯いた僕を、キールが膝をつき、見上げてくる。そっと手を取って。


「ココル。私は、君をずっと愛している。君が誰を好きになったとしても、ずっと」

「~~キールッ!」


たまらなくなって、キールにしがみ付いた!
知らない人のように、太く逞しくなった身体。どれだけ苦労を重ねたのだろう。わざわざ僕に見られないように、影から見守ってくれていたのか。

ぼたぼたと涙がこぼれ落ちた。何の涙なの、これ。全く分からないよ……!


「ぼく、僕も、好き……っ、すごい嫌いだけど、好き……っ!」

「!?」

「ええ~っ!ココルせんせが泣いてる!だぁれ!?みんな、やっつけろー!」

「「キェェエエエ~~!!」」


抱き合って泣いていると、子供達に囲まれてしまった!……ふふ、本当に、格好がつかない。泣き笑いをする僕を、キールはひどく優しく見つめていた。











仕事を終えた夜、僕はキールを家へ招待した。


「……っ、ふ、ンンッ」


肌が、本能が。番を求めていた。
今まで死んだように息を潜めていた性欲が、キールを愛しいと感じた瞬間に爆発してしまったのだ。

それは向こうも同じだったらしい。家に入るなり激しく口付けされて、狭い家の中であちこち身体をぶつけたり、引っかかったりしながらやっと、ベッドに辿り着く。服を脱ぐ一手間すら惜しい。

キールの、少し痩けた頬も美貌のうちの一つでしか無い。先程まで穏やかだった瞳は、今や獣のように獰猛で、危険な輝きを灯していた。


「あっ、うっ、……あんっ、はぁっ、あ……っ」

「は、ぁ、ココル、ココル……っ!」


キールの舌が、手が、僕の肌を味わい尽くしていく。嫌悪感とは真逆の、酩酊するような快感。


「ひゃっ……、ああっ、あん……っ」


お互い素っ裸になると、キールの変貌に目を剥いた。身体中が傷だらけだった。優雅に繊細に整えられた身体じゃない。死に物狂いで生き抜いて来たような、そんな凄みを持った身体。


「ふ、うわ、すごい……っ、きー、る、好き……っ!」

「えっ!?こんな、身体でも、……か?」

「うん、好き。格好いい……っ!」


もう塞がっているからいいよね。大きな裂傷痕を、ぺろりと舐める。ざらざらした感触を感じて、僕は余計興奮した。ああ、前も後ろも、しとどに濡れてしまっている。

クチュクチュと、キールの指が後孔に触れて、驚いたようなくぐもった声が上がる。


「ココルの……すごい、濡れてる……」


恥ずかしくなった僕は、キールにしがみついたまま思わず叫んでいた。


「だって!キールがしてくれなかったら、僕は誰ともセックス出来ないもの!気持ち悪くなっちゃうんだから!~っ、もう、う、う、」

「……っ!ああ、ごめん。本当に……っ!」

「ごめんはもういいから!行動で示して……!」

「……喜んで。お願いだ、抱かせてくれ。愛しているよ、ココル」

「……~~っ!」


あ……ッ!
その言葉にキュンときたのと、指が良いところにあたったのとで。
僕のオメガのフェロモンが、ぶわっと溢れ出したのを感じた。うわ、わ、わ、止められない!呑まれる……っ!


「あひ、ぃぃい、や、あっ!はやく、早くう……っキール!」

「……グッ!」


キールの瞳から、理性が無くなっていく。硬く大きく育った陰茎が、僕を突き刺すためにあてがわれて――

ぐ、ぐ、ぐ。――ぐちゅんっ!


「ひぁ――っ!あっ♡あ"っ♡」


チカッ、チカッ。視界が点滅する。
気持ちいいぃいい……!

僕のアルファ!僕の番!
全身の細胞が歓喜に騒いで窒息する……っ♡


「ココル……っ!ああ、ココルだ……っ!」

「うん♡キールっ♡もっと、もっとぉ……っ♡」


僕の脚を折り畳んで、しっかりとお尻に嵌め込んだまま、引き寄せられる。背中も後頭部も、逞しい腕に囲みこまれてキスされながら、下から激しく突かれる……っ!


「あ"っ♡だめっ、う、わぁっ!――イッちゃ、う……っ♡」

「イっていい!いくらでも……っ!」


パンパンパンパン!
すご……っ!かつてのキールは、こんなに激しくする体力は無かったはずなのに……っ!


「あ、ひ……っ♡――――ああんッ♡」


パンッ!
一際強く押し込まれたと同時に、快楽に陥落した。

耳が心臓になったみたい。
音が遠ざかり、鼓動の音ばかりやけに聞こえる――。

どくどくと注ぎ込まれる精液を、僕の内臓が『もっと♡』とぎゅるぎゅる引き絞っている。ああ……これ♡オメガ性が、喜んでる……♡


「はぁ、はぁ……んんっ……」

「ふぅ…………」


くったりと脱力した僕は、キールの逞しくなった腕で支えられていた。ふと起き上がり、その胸に顔を埋める。息を整えながら、すりすり、頬を寄せて。


「……ねぇ、キール、……まだ、いける……?」

「…………もちろん、いける」


僕たちは13年間を埋め合わせるように、長く、深く愛し合った。











それからというものの、キールは週末やって来て、僕のために食事を作り、家を綺麗にし、僕をたくさん抱いて満足させて、帰っていく。未だ騎士寮に住んでいるのは、僕にキールのお世話をさせない為、と言っていた。

もう、まるで別人だ。高かったプライドはどこかでポッキリ折れてしまったみたい。ちょっと哀愁漂って、それがなんとなく可愛い。

今のキールは、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる通い妻のよう。いずれ、騎士は騎士だから聖騎士に転向してくれないかなとか、まだ一緒に住むのは早いとか、色々あるけれど、僕たち、今度こそ上手くいく気がする。
同じ罪を背負う者として、支え合えると、今なら思える。


「……ふふ。悪くないなぁ……」

「ん?もう起きたのかい、ココル。朝食は出来ているよ」

「ありがと。お茶は僕が入れるよ」

「いや、ココルは寝ていて。まだ腰、痛むでしょう?」


身体が重怠い、朝。
香ってくるパンの焼ける匂いと、キールの穏やかな声は、ようやく訪れた僕のご褒美みたいにふわふわして、幸せだ。

…………まだもう少し、この関係を楽しみたい。大人になった僕たちには、その余裕があるのだから。

僕は頸をそっと撫でた。




End






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感想 9

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みんなの感想(9件)

毛玉
2024.05.30 毛玉
ネタバレ含む
2024.06.01 カシナシ

毛玉様、感想ありがとうございます!
長い年月をかけてボコボコにされようやく大人になったバージョンです(´∀`;)ココルも頑張りました!
最高の結末と言って頂き嬉しいです!ありがとうございます〜!

解除
もくれん
2023.12.28 もくれん
ネタバレ含む
2023.12.28 カシナシ

もくれん様、感想ありがとうございます!
別人ですね!😅ストー……ゲフンゲフン……ですけどとにかくココルを幸せにしたれ!と圧力かけておきました👍✨
お目に留めて頂きありがとうございます!

解除
いぬぞ~
2023.10.04 いぬぞ~
ネタバレ含む
2023.10.04 カシナシ

いぬぞ〜様、感想ありがとうございます!
紛らわしくてすみません!😅💦しかし元の方も読んで下さった&タイトルだけで読んで頂けたと思うと嬉しいです(*´艸`*)ありがとうございます!

解除

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