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番外編(リスティアの花紋)
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しおりを挟む「つまりリスティアくんは、遅咲きのオメガって訳だ。ふんふん、あ~、スッキリしたぁ~!」
「な……何ですって?」
ラヴァの試作品に翻弄された翌々日。ラヴァはフェロモンのサンプルを分析、推測を立てていた。
「オメガに上位下位の区別は無いけど、公表していないだけで、実はあるとボクは思ってる。やっぱり所構わず発情する、なんて動物的じゃない?それで、最上の相手を選びたい理性的な個体は進化してきた。その結果、リスティアくんみたいに一見フェロモンの薄いオメガが出てきたものだから、社会的地位も上がってきたと」
「……ラヴァ様の目で見てきた時代の変遷ですか?」
「それもある。けどね、数値でもわかるよ~」
ラヴァの指し示す三つのサンプル。一つは『いつものリスティアくん』、隣に8、とかいてある。
もう一つには『エロいリスティアくん』、隣には553。
残り一つには『エロエロリスティアくん』、隣には1058と。
「この数値の変わりようが異じょ……んん、顕著なタイプはね、なかなかアルファを発情させられない。というか、フェロモンの制御が効きすぎるんだ」
「効きすぎる……」
「そう。理性が強くてフェロモンを放てない。だから、理性を吹っ飛ばすくらい絶頂しないといけないんだ」
その言葉に、リスティアはラヴァを凝視し、ニヤつく顔で返されて赤面した。
(それで……それもあって、殿下は僕のフェロモンでは発情しなかった……?)
「あれ、でも……発情期の時は、僕のフェロモンでふらふら近寄ってくる人もいたような……」
「うんうん。絶頂しなくても十分、普通の人なら誘惑するくらいのフェロモンは出てる。けれど、多分上位アルファなら対抗出来るくらいなんじゃないかなぁ。で、完全に理性を失えば、上位アルファも抗えない、と」
「……!」
「上位オメガと言ってもいいと思うよ~。まぁ、オメガは上位も下位も大事にすべきだから、これはあえて公表しようとは思わないけど。町中であの二人とセックスしたら周囲の人間やられちゃうから気をつけてね~」
「え……っと、はい」
町中でセックスをすることは無いだろうが、壁の薄い宿屋などでは危険だということだろう。二人にも伝えておこうと頷く。
ラヴァの的確な説明ならば、マルセルクがリスティアの発情期のフェロモンに耐えられたのも納得がいくし、開発されきった後のフェロモンに、上位アルファであるあの二人も抗えないのも無理はない。
やはりマルセルクは自分の意思で、リスティアを拒んだと分かった。
(もう、全く気にして無いけれど。理由が分かってスッキリしたな……)
「いやぁ、リスティアくんは相当理性で押さえ込んでるって分かるよ。普通のオメガなら50くらいは漏れているものだし、発情期で本能丸出しでも500から600くらい。ね?かなり数値が違うでしょ?」
「あ……た、確かにそうですね。僕は前からフェロモンが薄いと思っていたので、何か欠陥がある訳ではなくて良かったです」
「もちろんもちろん!まぁ、でもそんな理性ガチガチの君の快感を引き出せたのだから、ほんと愛されてるねぇ~。花紋もまだ謎が多いんだけど、開花するのは『愛されてる』って心底感じた時らしいから、遅咲きタイプの君は特に咲きにくかったんじゃないかな~」
理性が強いほど、なかなか快感を得にくいらしい。たしかに一回目の人生や、自慰を思い浮かべると納得だ。あの時は、それしか知らなかったから『こんなものか』と思っていたけれど。
今は違う。初めての時、挿入は痛いことだと思っていたのに、丁寧に丁寧に解され、欲しがってしまうくらいだった。
そんな優しすぎる二人を信頼して、身を委ねたからこそ、花紋も開花できたのかもしれない。
「そういえば、ノエルくんとアルバートくんってかなりのアルファだよね。ボクとマーリンより、アルファ性が強い気がするんだ……サンプル取らせてもらおうかなぁ」
「そうなんですか?確かに、彼らより強いアルファの方は見た事ありません。僕も興味あります」
「へへっ、そうだよね!今度お願いしてみる」
「はい。ところで、師匠。この三つ目のサンプルはいつ取ったのですか?」
ラヴァは、にっこりと笑ったまま、いつもよく動く口を閉じた。
その日の夕餉は、少し手の込んだ料理にしてみた。いつもありがとうの気持ちを込めて。
「僕、遅咲きのオメガって言うらしいんだ。だからその、二人には迷惑かけたなって思って……ありがとう。二人じゃなきゃ、きっと何も知らないままだったと思う」
「あぁ、薄々は知っていました。オメガには遅咲きと早咲きがいると、アルファの中で話されることは多いので」
「そうなの?」
「しかし、そんなにフェロモン数値が高いとは……納得ですね」
ノエルが事もなげに言った。リスティアの閨教育では習わなかったのは、俗語であり、オメガ側が知っていてもどうにもならないからだからか。
「過去に、わざと発情したオメガに近寄られたりすることもありました。何とも思わない訳ではありませんが、気をしっかり保てば退けられます。ですが……リスティアの時は、敵いませんでした。まぁ、抗う気も無かったのもあるかもしれません。本能が揺さぶられるような心地で」
「ああ。以前は本能に負けるなんてと思っていたが、今ではむしろ、あのフェロモンで発情させられることで途轍もない充足感を得られる。世界一幸せなアルファだと思う」
「ふふ。私もです。心の底から求められていると分かるので……アルファ冥利に尽きると言いますか」
ノエルとアルバートは何を思い出しているのか、二人してうっとりと頬を染めている。
リスティアもまた、発情期中の朧な記憶を思い浮かべていた。確かに、二人を求めているのは間違いないが、二人からもまた、求められているように感じて幸せなのだ。
「そう言えば、発情期の最中でも食事を運んできてくれますよね。その時、ラヴァ様から何か受け取ってませんか?」
あからさまに、アルバートが動きを止めた。
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