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第二章 二回目の学園生活

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「なんだ!?そのフェロモンは!リスティア!」

「……へ?」


 マルセルクに怒鳴るように話しかけられて、ビクッと身を縮こませた。食べかけのスープが少し溢れてしまう。
 すぐに両脇の席からノエルとアルバートに抱え込まれて、がっちりした包囲網の中にいた。

 しかし声は妙に遠い。どこから、と見渡すと、いくつか机を隔てて、十分遠くにマルセルクがいた。


「リスティアを怖がらせないで下さい、殿下」

「それは!そのフェロモンは……!まさか、二人がかりで!?」

「妙な誤解はしないで下さい。……全く、嘆かわしい」

「……?」


 リスティアはノエルたちに守られている状態だが、全く何のことだか分からない。マルセルクは食堂のテラス側の入り口に立ったまま。というよりそれ以上近付けないらしく、遠くからわあわあ言い、やがて悔しそうに立ち去って行くのを眺めていると、ノエルが神妙な顔をして黙っているのに気付いた。

(これは、怪しいね……?)

 ジト目で見続けていると、やがて観念したように話し出した。


「アルファの所有フェロモン付けています……その、受け入れて下さったので良いかと。アルバートも、リスティアに。所謂いわゆる『マーキング』なので本人には分からないはずです。リスティアには一切害はありませんよ」

「所有……」

「すまない、少し……やり過ぎたかもしれない。今度からは控えめにする」


 アルバートはしょんぼりとしていた。どうやら初めて肌で触れ合った感動で、加減が出来なかったようだ。
 そんなアルバートも可愛い。リスティアはほっこりしてヨシヨシしていると。


「ちなみに、殿下と婚約中は殿下から付けられていましたよ」

「えっ……」


 スプーンを落としそうになった。そんなに、前から?


「だから、誰も貴方に近付けなかったのです。けれど、同じ位強いアルファ――――私たちなら、問題ありませんので。ああ、でもこれでは支障があるようなので、もっと少なくしますね。すみません」


(それで、僕は遠巻きにされていたの……?)

 ノエルとアルバートは、マルセルクに匹敵する上位アルファだったらしい。


 アルファはそのフェロモンの強さによって、優劣が付けられてしまう。上位アルファはフェロモンによって殆どのアルファの上に立つことが出来る、らしい。
 リスティアが自ら纏う彼らのフェロモンに気づかなかったのは、敵対する対象ではないからだ。


 一方、オメガには上位や下位といった観念は無い。それぞれ固有のフェロモンでアルファを誘惑する。

 オメガもまた気に入ったアルファにマーキングのようにフェロモンを付けることも出来るが、オメガがやる場合、アルファに精液を飲ませなければならない。――――そのような関係性になっている時点で牽制の必要は無さそうだが。

 軽くなら服につけることも可能だが、それはこの貴族社会では許されていない。アルファは良くとも、オメガが独占欲を見せるのははしたないこと。

 王族だけに一夫多妻制が許されているのも、オメガの扱いが分かる。
 それでも王妃にオメガを据えることによって、オメガの地位は昔より向上し、大切にされているのだ。


「ちなみにどんな効果があるの?所有フェロモンは」

「リスティアに近付くと、二人のアルファに硬く守護されていると分かります。指一本でも触れれば痺れるでしょうね。喉元に刀を突きつけられているような恐怖を味わいます。威嚇フェロモンに似ているかもしれません」

「歩く凶器かな、僕は……」


 リスティアは慄いた。威嚇フェロモンは、昔々アルファ同士で序列を決める際に使われていたらしい。今や殆ど使われないが、アルファは護身のために出し方を訓練すると言う。
 オメガが浴びると失神するほどの強い力。この国では、オメガへ使用した途端、重罪犯となる。そのため、アルファ達は完全制御しなければならない。


「大丈夫だ。これはアルファにしか効かないから」

「……ちょっと待ってください。ということは、ベータとオメガが遠巻きにする理由はない、と……」

「ありますよ?リスティアは女神の如き美貌ですから、近寄りがたいのです」

「そんな訳が……」


 ある、のか?

 確かにパールノイアの真珠と言われたこともある。
 けれどもう表舞台に立つことは無くなるため、徐々に忘れられていくだろう。

 外面は整っていても、それだけだ。生真面目で面白みもない。友人百人に囲まれることはついぞ無かった。

 けれど、もう、拘るのはよそう。
 ノエルとアルバートが、側にいてくれさえすればいい。





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