虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

文字の大きさ
83 / 95
第三章 三人の卒業、未来へ

16 最終話

しおりを挟む
 魔力腐敗症に罹る人間はもう、性行為なしには生きられない身体になっており、魔力を使うことは殆どないため別段問題もなく――治そうとはしないし、大体が館主によって『あいつももう末期だな』と判断されて亡くなる。ラヴァの元に『あいつを治してくれ!』などと言う人もおらず、研究はそこから進んでいなかった。


 そして魔力澱みの方……読んでいるうちに腹が立ってきたのは、やはり、魔力が澱んでいる本人に自覚症状は無い。

 別に魔力腐敗症の人間を求めるといった症状も無ければ、具合が悪くなるということもない。

 被害者は、リスティアのように、パートナーの方だ。

 魔力澱みを持つのは、人気男娼・娼婦を高頻度で抱きに行ったり、フィルのように大変・・奔放な人と密に通じる人。

 だから被害者がいるとすれば、そんな浮気者のパートナーとなる。……どちらも澱んでいれば問題は無いらしい。


「リスティアくんはこの症例が気になる?」


 ラヴァに聞かれて、リスティアは曖昧に肯定した。


「少しだけ。その、症例に当てはまる人間を知っているので」

「そうなのか!それならいいじゃないか、実験に使える」

「ラヴァ様……」


 ラヴァは知識欲に大変従順である。しょっちゅうマグマグにビンタされているのに、その点だけは学習能力が欠如しているらしい。


「なかなかこういうプライベートなことは、表に出てこないからねぇ、娼館の客を調べるのは国の力もいるし。その君の知人に、錬金術の発展にも貢献出来るよとか言えば協力を……」

「ああ……ラヴァ様……もうすでにパールノイアの薬師団長にお任せしていまして」

「なる程?じゃあ共同研究?おおっ、すごいね!さすがボクの弟子!」

 ラヴァの目は輝いていた。






 自分が話を持ちかけた責任感の一身で、リスティアは薬師団長と密に手紙のやり取りをすることになった。

 少し発展があったのは、フィルは魔力腐敗症になっており、他の患者よりも強い影響力を持っているという事。

 フィルと肌を合わせた令息達で、特に魔力澱みのある者は、その後フィル以外の者を抱いても物足りなく思ってしまうらしい。――それがオメガだとしても、だ。
 フィルのフェロモンが変質しているのか、それとも花紋を持つオメガとしての特化分野が『性技』なのか。おそらく、その両方だった。

(魔力を欲しがるオメガの生存本能でフェロモンが変質したのだろうか……、殿下も、その影響は受けていたに違いない)

 リスティアの発情期のフェロモンにも反応しなかったマルセルク。リスティアがあまり感じていなかったために濃くなかったとは言えども、番のフェロモン。多少はかき乱されるはずだったが、そういう事情だったのならば、あの『やっと終わった』みたいな表情にも納得だった。


 しかしオメガの娼婦や男娼は、高値で身請けされ囲い込まれる場合が多く、今のところフィルしか症例がない。フィルから多くの情報を得られるよう手段を選ばなさそうな薬師団長には、道を外さないよう人工精霊を送りたい。今のリスティアではまだ作れないが、数年かければ可能性はなくもないだろう。



 魔力澱みは、結局、時間経過で薄まることは無かった。

 予防策としては物理的避妊で十分だ。現在は飲用の避妊薬の方が流通しているため、なんとか周知するよう薬師団長は頑張ってくれているようだ。

 ただし、魔力澱みを治す方法は確立していない。また、治療をするなら、当然ながらもう二度と魔力腐敗症の人間を抱かない!と決意しないといけないが、娼館通いはなかなか辞められない人が多いので、難しい問題だ。



 魔力澱みのパートナーの方へのケアは、光属性魔力を供給するリングを開発中だ。それを澱んでいる側の根元に嵌めれば、浄化しながら精を受けられる。サイズに合わせて自由に伸び縮みする素材を使ったので、かなり高価な魔道具になるだろう。

 魔道具の完成の目処が立つと、リスティアはこれでようやく、過去の自分を救えたような気がして、ホッと息を吐いたのだった。

 今のリスティアには必要はないし、そんなリングを使う前に別れた方がいいと――自分で作っておきながら――助言したい所だが……そこまでは、お節介になってしまうだろう。


















 ノエルも順調にマーリンから様々な魔術を学んでおり、アルバートは屋敷周りの凶悪な魔物を狩るので力量がぐんぐん上がる。

 夜は師匠夫妻と、リスティアたちの寝室は端っこと端っこくらいに離れているため、安心して……が出来る。


(ああっ、もう、恥ずかしい!)

 修行中の身なので節度を持って、事に及んでいるつもりだが、彼ら二人はその時ばかりは腹を空かせた猛獣みたいに抱いてくる。それがまた、心から愛しい。

 代わる代わるに愛されたり、時には同時に。リスティアは体力作りをやっていて心底良かったと実感した。リスティアが苦しくなるようなことは一切無い――と言いたいところだが、快楽も過ぎると辛い、という新事実も発覚した。そんな時はチェチェが二人に猫パンチを繰り出してくれた。


 一回目の時とは比べ物にならない程に、真実溺愛され、幸せを噛み締めている。

 右にノエル、左にアルバートが、素肌のままでリスティアを抱いて眠っている。温かくて、少し汗ばみ吸い付くような肌。大好きな恋人たちに挟まれて、事後の気怠さと共に迎える朝は、何よりも贅沢で、幸せなひと時だ。


「ありがとう……二人とも、愛してる……」

「私もですよ、リスティア」

「俺も愛している……ティア……」

「!?」


 その小声をしっかり聞かれてしまい、朝から大変なことになろうとも、リスティアにとっては幸せな悲鳴でしかなかった。



 過去の、薄っぺらな愛を思い出している場合ではない。リスティアはもう、二人と共に満ち足りた生活を送るのに、大変忙しいのだ。






 End




 番外編へ続く……
しおりを挟む
感想 184

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...