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第二章 二回目の学園生活
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「そうだったの……」
リスティアもまた、しっかり覚えていた。ノエルと初めて挨拶して、それっきりだった事を。
あの当時、リスティアは毒殺の危険性について学んだばかりだった。王族に嫁ぐと言う事は、危険と隣り合わせということ。根は小心者のリスティアは、自分やマルセルクの安全を考えてひたすらに鍛錬をした。無属性魔術である浄化と隠蔽は比較的直ぐに使えるようになった為、常に練習をしていたのだった。
「僕も、覚えているよ。あれに気付いたのはノエルだけだった。もちろんそうそう毒なんて入ってないから、気付かれたら『臆病者すぎる』と言われるかなと思ってて……キラキラした目で褒められるなんて思ってなかったから、思わず照れてしまったんだ」
「とても、可愛かったです。息が止まるかと思いました」
「大袈裟なんだから……」
「まさか。……今は増して、私の息の根を止めるのに十分な魅力ですが」
ノエルはそう言うと、リスティアの両の頬に手を添えて、口付けをした。ちう、ちうと吸い付くような音。
アルバートも背後から抱き付き、ノエルから離れたリスティアを奪う。ぐっと引き寄せられると、食べられるようなキスが降ってくる。くちゅくちゅと嬲るように舌を絡ませられ、リスティアはもぞもぞと身を捩った。
暑い。肌が発火するように、カッカッと火照る。
(気持ちいいの……好き……)
「んっ……ぷ、はぁ」
アルバートとも顔を離したところで、いつの間にか周囲から熱視線を貰っているのに気付く。
恋人達はそれぞれの世界に浸っていたはずだった。何故こんなに注目されているのか。さっきのキスシーンもしっかり見られていた!
混乱と羞恥に顔を隠すリスティアに、一番近くにいたカップルが慌てて弁明する。
「すっ、すみません!ど、どうぞ!続けてください……!」
「その、とってもかかかわいくてかわいかったので、思わず魅入ってしまって……すみません!」
その言葉に、ノエルが『そう?ありがとう。私たちの恋人は最高に可愛いから仕方ないね』などと惚気ていたが、すっかり殻にこもってしまったリスティアの耳には入らなかった。
「そうだ……僕、言わないといけないことがあって」
その帰り道。顔を冷却し終えたリスティアは、ごくり、と喉を鳴らした。これだけは、言っておかなければならなかった。
口付けを交わし、服越しに触られるようになると、やはりその先のことも想像してしまう。しかしそこには、リスティアにとって大きな関門が聳えていた。
「その、この前、婚姻した時の記憶があると言ったけれど……つまり、その、僕には経験があって」
「……リスティア。辛いのなら、言わなくても……」
「いや、これは言わないと……。その、僕の身体は、あまり、具合が良くないみたいなんだ」
その言葉に、二人は身を固くした。
しかし歩いているリスティアは、二人の顔を見ないようにしていた。こればかりは、目を見て話す自信が無い。だからどれだけ瞳孔が開いていても、気付かなかった。
「その……すごく、痛くて。きっと可愛くない、し、つまらないと思う。フェロモンも、相性は良くても薄いかもしれない。花紋も、蕾のまま花開くことは無いかもしれない。だから、君たちも愛想を尽かしてしまったら、すぐに言って欲しいんだ。番にさえなってなければ、まだ取り返しはつくから」
本当は、嫌だ。二人に『やっぱりやめる』と言われるのは。ただでさえ、リスティアは傷物のオメガなのに、経験した記憶もある。王族の伴侶に処女性が求められるように、処女信仰を持つ人もいる。
厳密には処女でも、リスティアは色々と知ってしまっているのだ。
だからこそ、傷は浅いうちの方がいい。別れは早いうちの方が……。
ぐっと手を握る力が入った、と思えば、リスティアは左右から抱き締められていた。
「…………私は、あなたにそう思わせた元凶を罵倒したい気持ちでいっぱいです。私たちは、花紋を愛しているのではなく、貴方を愛しているのです。いいですか、リスティア」
「……はい」
「あなたに痛みばかり味合わせて自分の快楽ばかり追求した男の事など、忘れさせて差し上げます。ろくでもない!あなたは被害者ですよ。さぁ、言ってごらんなさい。『ろくでもない!ど下手くそ!』と」
「え……?ろくでもない、……ど、何だって?」
「その通りだ。ティアを大切にせず、何が愛している、だ。奴が愛しているのは自分自身だけ。そんな自分本位な奴の事など考えるだけ無駄だ」
「た、たしかに……」
アルバートの言葉に、心の底から同意する。自分本位。マルセルクにとてもしっくりする言葉だ。
しかしそれでも不安の拭えないリスティアの顔色を見て、ノエルは提案をする。
「それでは、リスティア。我々に触れさせてくれませんか?絶対に痛みを感じさせることはしません。ただの…………触れ合いっこを」
リスティアもまた、しっかり覚えていた。ノエルと初めて挨拶して、それっきりだった事を。
あの当時、リスティアは毒殺の危険性について学んだばかりだった。王族に嫁ぐと言う事は、危険と隣り合わせということ。根は小心者のリスティアは、自分やマルセルクの安全を考えてひたすらに鍛錬をした。無属性魔術である浄化と隠蔽は比較的直ぐに使えるようになった為、常に練習をしていたのだった。
「僕も、覚えているよ。あれに気付いたのはノエルだけだった。もちろんそうそう毒なんて入ってないから、気付かれたら『臆病者すぎる』と言われるかなと思ってて……キラキラした目で褒められるなんて思ってなかったから、思わず照れてしまったんだ」
「とても、可愛かったです。息が止まるかと思いました」
「大袈裟なんだから……」
「まさか。……今は増して、私の息の根を止めるのに十分な魅力ですが」
ノエルはそう言うと、リスティアの両の頬に手を添えて、口付けをした。ちう、ちうと吸い付くような音。
アルバートも背後から抱き付き、ノエルから離れたリスティアを奪う。ぐっと引き寄せられると、食べられるようなキスが降ってくる。くちゅくちゅと嬲るように舌を絡ませられ、リスティアはもぞもぞと身を捩った。
暑い。肌が発火するように、カッカッと火照る。
(気持ちいいの……好き……)
「んっ……ぷ、はぁ」
アルバートとも顔を離したところで、いつの間にか周囲から熱視線を貰っているのに気付く。
恋人達はそれぞれの世界に浸っていたはずだった。何故こんなに注目されているのか。さっきのキスシーンもしっかり見られていた!
混乱と羞恥に顔を隠すリスティアに、一番近くにいたカップルが慌てて弁明する。
「すっ、すみません!ど、どうぞ!続けてください……!」
「その、とってもかかかわいくてかわいかったので、思わず魅入ってしまって……すみません!」
その言葉に、ノエルが『そう?ありがとう。私たちの恋人は最高に可愛いから仕方ないね』などと惚気ていたが、すっかり殻にこもってしまったリスティアの耳には入らなかった。
「そうだ……僕、言わないといけないことがあって」
その帰り道。顔を冷却し終えたリスティアは、ごくり、と喉を鳴らした。これだけは、言っておかなければならなかった。
口付けを交わし、服越しに触られるようになると、やはりその先のことも想像してしまう。しかしそこには、リスティアにとって大きな関門が聳えていた。
「その、この前、婚姻した時の記憶があると言ったけれど……つまり、その、僕には経験があって」
「……リスティア。辛いのなら、言わなくても……」
「いや、これは言わないと……。その、僕の身体は、あまり、具合が良くないみたいなんだ」
その言葉に、二人は身を固くした。
しかし歩いているリスティアは、二人の顔を見ないようにしていた。こればかりは、目を見て話す自信が無い。だからどれだけ瞳孔が開いていても、気付かなかった。
「その……すごく、痛くて。きっと可愛くない、し、つまらないと思う。フェロモンも、相性は良くても薄いかもしれない。花紋も、蕾のまま花開くことは無いかもしれない。だから、君たちも愛想を尽かしてしまったら、すぐに言って欲しいんだ。番にさえなってなければ、まだ取り返しはつくから」
本当は、嫌だ。二人に『やっぱりやめる』と言われるのは。ただでさえ、リスティアは傷物のオメガなのに、経験した記憶もある。王族の伴侶に処女性が求められるように、処女信仰を持つ人もいる。
厳密には処女でも、リスティアは色々と知ってしまっているのだ。
だからこそ、傷は浅いうちの方がいい。別れは早いうちの方が……。
ぐっと手を握る力が入った、と思えば、リスティアは左右から抱き締められていた。
「…………私は、あなたにそう思わせた元凶を罵倒したい気持ちでいっぱいです。私たちは、花紋を愛しているのではなく、貴方を愛しているのです。いいですか、リスティア」
「……はい」
「あなたに痛みばかり味合わせて自分の快楽ばかり追求した男の事など、忘れさせて差し上げます。ろくでもない!あなたは被害者ですよ。さぁ、言ってごらんなさい。『ろくでもない!ど下手くそ!』と」
「え……?ろくでもない、……ど、何だって?」
「その通りだ。ティアを大切にせず、何が愛している、だ。奴が愛しているのは自分自身だけ。そんな自分本位な奴の事など考えるだけ無駄だ」
「た、たしかに……」
アルバートの言葉に、心の底から同意する。自分本位。マルセルクにとてもしっくりする言葉だ。
しかしそれでも不安の拭えないリスティアの顔色を見て、ノエルは提案をする。
「それでは、リスティア。我々に触れさせてくれませんか?絶対に痛みを感じさせることはしません。ただの…………触れ合いっこを」
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