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第二章 二回目の学園生活

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「それを言うのなら、私にも嫌悪感を抱きませんか?」


 ノエルが言う。

(嫌悪感なんて全く無いけれど……何故?)

 首を傾げるリスティアに、ノエルは優しく諭す。


「私は目の前で、殿下やその側近たちが、ぶ……フィル・シューと交わっているのを見て、吐きました。悪夢に見るほど悍ましかった。けれど……今こうして、リスティアに二人を相手にすることを提案している。これは、矛盾しませんか?」

「それは……」

「何故なら、違うからです。彼らは、ただシンプルに、獣のように、身体の欲求を満たすためだけに交わっていた。相手が誰でもいいのは、穴を埋められればいいからです。そこに、慈しみあう気持ちはない。……私たちは、愛し、愛されたい。愛しさを刻みつけ合いたい。その気持ちが、先なのです」


(……!)

 ノエルを見上げた。

 ああ、すごい。

 リスティアは嘆息し、感動に打ち震えた。
 ノエルが神々しく輝いているようにさえ見えた。


「殿下と私たちが違うのは、そこです。あの殿下は、未だにあなたを愛していると言っていますが、あれは恐らく、本心ですよ、リスティア」

「はい……っ!?」

「私も、経験は無いので推測になりますが……、確か、『妻にしたい人と、閨を共にしたい人は違う』というタイプの人間がいるようです」

「それは……、なんて勝手な」

「殿下はおそらくそのタイプで、フィル・シューもあなたをも手放さない状況が、一番都合が良かったのでしょう。愛のない性行為は、お互い手軽に楽しめたと思います。けれど……本当にそれで、満たされるのでしょうか。私は、リスティアを前にすると、気持ち良くさせたい、満足させたい、支配したい……、そんな気持ちでいっぱいで、自分の欲求など二の次になります」

「ああ。それは分かる」

「アルも……?」

「そう。ティアを満たすことこそ、自分も満たされる。だが、相手を慈しむ気持ちのない殿下やフィル・シューは……いつまでも満たされていないように見える」

「そうですね。やはり、アルバートは良いことを言います」


 二人は目配せし合った。やっぱり、仲が良い。まるで兄弟のように。

 そして、ノエルが若干、頬を朱に染めながら、言う。


「二人でするにしろ、三人でするにしろ、……分かりませんが、リスティアの嫌がる事は、決してしません。アルバートだってそれを保証する。いい相棒だと思っています。絹に包み、優しく広げて、撫でて……私たちの愛の大きさを証明します」


 カアァァアッと身体が熱くなる!
 それは、殺し文句だった。

 すとんと、腑に落ちたような気がした。
 ノエルは丁寧に噛み砕いて教えてくれた。

 リスティアたちと、アレは、違うと。

 リスティアも、愛する人以外に身体を開きたくないし、同じように、リスティア以外の人を、何の理由があろうとも抱かない人がいい。
 目の前の二人は、きっとそうしてくれるはずだ。


「そっか……僕にとって、二人は替えの効かない、大切な二人だから……三人で、新しい愛の形を探ればいい、ということかな。その……こんな優柔不断な僕でも、よければ。二人と、恋人になりたい……です」

「リスティア……!」

「ありがとう、ティア。嬉しい……」

「その、お手柔らかに……お願いしますね」


 返事の代わりになのか、左右からハグをされた。あったかくて、守られているような感覚。


 彼ら二人を自分の存在によって引き裂くのは嫌だった。恋愛ではない、友愛が、二人の間にはある。
 だからこの形になったのは、自然なことだった。














 ここパールノイアでは、王族を除いて複数を伴侶にする重婚は認められていない。王族でも、いずれ臣下へ降る王族に、重婚は認められていない。

 重婚をする際には、第一妃か第二妃か、はたまた愛妾かを厳格に決める必要があった。慣例で言えば、公務に関わるのなら妃で、重要な公務を任せる方が数字の少ない妃になる。関わらないのが愛妾だ。

 


 現状、ノエルとアルバートは婚約したまま。

 二人は『解消する』と言ったが、どうせ三人のうち一人はあぶれてしまうのだ、それならその役は、最近婚約解消したばかりのリスティアが担うべきだ。

 一つの懸念点は、マルセルクは未だにリスティアに執着していること。

 しかし彼は妻帯者。少なくともフィルが出産してしばらく経つまで離縁は出来ない。その間にリスティアたちは卒業してしまうだろう。


 まずはすぐに、『互いの色の宝石の付いた指輪』を付けることにした。これは貴族ではあまり馴染みのない習慣だが、平民であれば結婚した時に身につける。
 そうすることで、心に決めた恋人がいるということはすぐに分かる。

 そして卒業をしたら、大賢者夫妻を探し出し、弟子にしてもらう。弟子にしてもらえる確率は低いが、ここは絶対に諦めないと決めている。

 修行を重ねて、大賢者と大錬金術師になるのだ。そうすれば、一国の王ですら頭を下げて頼み込むような立場となる。その間に、アルバートは剣術を極めて武功を立てる予定。

 そこまでいったら、重婚の出来る国へ向かい、移住し、三人で結婚をする。
 それが何年後になったとしても、だ。


 リスティアとしては、二人ともと幸せになりたい。そう願い、指輪を作っている。

 婚約と違って何の拘束力もない、恋人という身分。不思議なことに、そう関係性に名前がついたことによって、リスティアは二人への想いをゆるゆると自覚していった。

(甘えたいし、甘えて欲しい……誰にも、取られたくない。痛みはなくて、とてつもなく温かなこの気持ちも、また恋と呼べるのだろう)

 だからこそ自分は二人のものであり、二人は自分のものであると密かに主張したい。この指輪には、そんなリスティアの独占欲が表れている。


「ふんふんふ~ん……」

「リスティア、楽しそうですね?」

「うん。とてもいい指輪が出来そうで。楽しみにしていて!」

「……もちろん。はぁ、かわいい……」


 数日後、リスティアは三つの指輪を作り上げた。

 ノエルの瞳を表すのは、グリーントルマリン。薄いエメラルドの美しい湖面のよう。

 アルバートの瞳を表すのは、無色クオーツ。光を差すと、深みのある輝きを見せてくれる。

 リスティアの瞳は、アメジストで表す。自分の瞳の色を選ぶのは、なかなか恥ずかしいことだと知った。

 土台の指輪はリスティアの魔力を練りに練り込んだ白金だ。
 他二つの指輪の位置を探せる仕様になっており、万が一迷子になっても、少し光属性魔力を流せば、位置を指し示してくれる。

 形状記憶・防汚も付けているので、結構雑に扱っても傷ひとつつかないはず。特に、アルバートは剣を握るために付けた機能だ。

 二人の指輪には、アメジストしか嵌っていない。リスティアの指輪には二つの宝石が埋め込まれているが、どうするのか聞いた所、この方がいいらしい。


「最高級の指輪を、ありがとうございます。リスティア。大事にします……」

「ありがとう。素晴らしい機能は、俺のためにか……?愛を感じる」

「私だって。アルバート」

「喜んでもらえて何より。ふふっ、嬉しいね、お揃いの指輪」


 照れながら指輪を嵌めてみせると、二人とも嬉しそうに口角が上がるのを止められないようだった。






 恋人となったことで、変わったこと。

 ノエルとアルバートが、リスティアに甘い囁きをかけることが増えた。リスティアもまた、照れながらも受け入れている。

 その場面は、当然ながら、他の生徒たちも目撃するようになった。
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