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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟む先日の醜態を見たリスティアは、マルセルクとは徹底的に合わないのだと悟った。
最後の最後まで残っていた情が、木端に弾け飛んでいくほどの衝撃だった。
『性欲処理』という言葉は適切ではない。あの乱暴で狂気じみた行為が彼の『嗜好』なら、フィルはさながら嗜好品。抱きたがらなかったのも、非常に納得。今なら謹んでどうぞが出来る。
マルセルクとは魔力の相性だけでなく、愛し方の嗜好も異なっていたとは。リスティアだけでなく、フィルに対してさえ誠実さの欠片もない。それはフィルの方も、心からマルセルクを愛しているようには見えないのでお互い様かもしれないが。
もうリスティアは、自分の新しい道を探す為に集中する。卒業まで四ヶ月を切っていた。早く身の振り方を決めなくてはならないのだから。
次の登校日には、リスティアを挟み、ノエルとアルバートの三人で登園した。
仕事が早いことに、平民リスティアはもう、リスティア・ヴィクトル伯爵令息。兄とは連絡を取り続けているし、その兄の協力と冷静な状況判断という脅しによって、父親もリスティアを取り戻すのを諦めた。
仮にも婚約者関係である二人の間に挟まるのは肩身が狭い。しかし、マルセルクはどうもリスティアに執着しているようなので、二人から『絶対に離れるのは禁止』と言い渡されてしまった。
有り難いやら、恥ずかしいやら、恐れ多いやら。
フィルは学園に来なくなった。表向きは王族の子を孕んだ妊婦の保護――と言う事だが、マルセルクが始末しようとするのを防ぐため、というのは、限られた人間しか知らない事だった。
それによって、リスティアにはいくらか過ごしやすい環境になった。少なくとも、マルセルクとの婚約は王家側の有責で破棄されたことを、正しく認識している人が多く、リスティアは同情の目で見つめられることとなった。
今も、呑気にランチを楽しむリスティアを見かけて、ひそひそと何かを囁かれていた。本人はあまり気にしていない代わり、ノエルの方が憤っている。
「気にすることはありません。羽虫が何を言ったところで、リスティアの美しさと清らかな心は、穢されることはないのですから」
「……ノエル。僕はそんな崇高な人間ではないよ。でも、伯爵令息になったというのに、誰も話しかけてこないって……僕、やっぱり話しかけにくい雰囲気出てるんだね」
「ご自覚していらっしゃらないだけです。あなたに見つめられただけで膝から崩れ落ちそうになるから、彼らは話しかけられないだけ。……私たちには好都合」
「ん……?ノエル?」
「いえ、何も」
「……リスティア……、クリームが」
「あっ……」
ほんの少し、口端についていたようだ。アルバートがナプキンを取り出し、ちょん、と拭ってくれる。
(……は、恥ずかしい……。幼な子でもないのに)
それも、アルバートは満足げに、甲斐甲斐しく世話を焼いてくるものだから、嫌ではない、なんて思ってしまっている。
「あ、ありがとう、アルバート」
「いい……それも、可愛い。と、思う」
「……っ」
右には、ノエルが。
左には、アルバートが。
少し動けば肘の触れる距離で、食事をしている。
二人とも、リスティアが婚約破棄した時から、態度を変えていた。
元々優しくて穏やかな二人だが、そこに甘さが加わった。距離も一歩踏み込み、どきどきするような位置に近付いて。
リスティアには前回、マルセルクと行為をした記憶すらある。だからこんなに初歩的な――指先がほんの少し触れただけの、些細なことで動じるほど、初心ではないはずなのに。
なんとか顔に出ないよう、出ないよう、頬に手をやって冷そうとするのに、余計に微笑まれてしまっている。
「そ、そういえば!二人は爵位を継がないでしょう?卒業後はどうするの?」
パッ、と話題を変えると、ノエルが答えてくれる。
「私は王城魔術師団に内定をもらっていますが、やっぱり辞めようかと。丁度、大賢者マーリンがこの国のどこかにいらしていると聞いたので、探し出して弟子にしてもらおうと計画している所です」
「なっ!?」
「俺も騎士団からオファーはある……、が、アイツがいると面倒そうだから入らない。リスティアの側で守りたい」
「んっ?」
「そうだ、リスティア。大賢者マーリンの伴侶は大錬金術師のラヴァ様ですよ。一緒に弟子にしてもらいませんか?」
「えっ……それ、いいじゃないか……」
(なにそれなにそれ。めちゃくちゃいいじゃないか……!)
「それなら、卒業までにもっと学ばないと……」
「リスティアならきっと大丈夫です。では、そのつもりで動きましょうか」
楽しみすぎる計画に、リスティアは瞳を輝かせた。
リスティアの頭の中で、次々と構想が組み立てられていく。錬金術師は、魔道具師と薬師の両方を兼ね備えたエキスパート。
リスティアは、趣味とはいえ、両方ともそこそこの腕前を持ってはいる。
前回は次期王太子妃教育に時間を割かなければならず、趣味として魔道具を作ってはいたものの、本職には敵わないだろうと思っていた。
でも、違う。これからはたっぷりどっぷりと、錬金術だけを考えていられるのだ。
そうわくわくと考えていた時だった。
「リスティア……」
「ひっ……!?」
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