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第二章 二回目の学園生活

19 マルセルク side

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 マルセルクは突然、目の前が真っ暗になった。足元から地面が崩れて無くなっていく。

 マルセルクの有責で、知らぬ間に、リスティアから婚約破棄されていたのだ。
 違約金は少しでいいと言われたらしい。父は『そんな訳にはいかない』と多額の違約金を用意するよう指示しながら、失望の目をして自分を見ていた。

 それらの情報が、訳のわからない記号のように自分に入ってすり抜けて行く。一体、どういう、ことなのか?










 落ち着きのない側近に胸騒ぎを感じて問い詰め、慌てて王城へ駆けつけたマルセルク。
 まさか、愛するフィルと婚姻、などという。そのとんでもない誤解を解くため、フィルの扱いをリスティアに見せてやった。どれだけ愛がないかを一目で分かるだろうと思ったのに、むしろリスティアから拒絶される結果になってしまったのは誤算だった。リスティアはまだ経験もない清い身で、刺激が強すぎたのだ。

 忌々しいことに、フィルはあの後、父の配下によって保護され、マルセルクも知らない場所に隔離されることとなった。


(クソッ!あの場で殺しておけば良かった!)


 自ら進んで関係を持っていたことが致命的で、出産後子供が王族の血を引いていようがいまいが、一度は結婚しなくてはならない。

 避妊薬を口にしていたのだから、十中八九、子の父親はマルセルクでは無いはず。
 だからフィルは出産後、子供と共に実家に返すなり離縁なりすればいいが、一度婚姻歴があったことは、消せない。

 マルセルクの輝かしい経歴の、汚点。

 次の婚約も、フィルの赤子の血筋判定後でなければ打診も出来ない。その頃には学園を卒業し、多くの者が結婚しているだろう。そして王太子となる者の公的な妻は、処女でなければならない。

 激怒した父に、フィルの出産までに他の正妃候補を探して口説き落として来なければ、王太子には別の者を指名すると言い渡されてしまった。

 婚約を打診せず、匂わせるに留めながら、フィルという汚点付きの男が、リスティア以外の次期王太子妃に相応しい者を口説く?


 不可能だ。


(私が愛しているのはリスティアだけ。リスティアが、私の愛を素直に信じてくれなかったから……!クソッ、フィルのやつがいなければ!)












 リスティアは、あの公爵家から離脱し、別の家の養子に入るらしい。

 そうすれば、自分以外のアルファから、求婚され、婚約、婚姻をし……抱かれるのだろうか。


「で、殿下……」

「黙れ!だまれ……っ!出ていけ!その顔を見せるな!」

「は、ハヒィッ!」


 悪友だと思っていた、情けない顔の側近二人が出ていく。

 奴らは、フィルに肩入れし過ぎていた。マルセルクを愛しているリスティアならば、婚約を継続するために子供の存在を隠そうとする――――つまり、脅すネタが出来たと考えていたらしい。それを使って何を目論んでいたのか、知る由も無ければ興味もない。

(リスティアを失う、なんて……)

 ボキッ!

 手元には折れた万年筆。溢れたインクがマルセルクの手を汚していた。

 汚点。消せないシミ。


「!?」


 その途端、頭痛が走った。
 走馬灯のように流れる記憶。

 違う!

(これは……なんだ?)

 リスティアと結婚した後の記憶や感情、など……ある訳ないのに、妙なリアリティを持って脳に刻まれていく。














 ――――――――――――――

 結婚初夜。


 愛しいリスティアが可愛くて綺麗で、頭が破裂しそうになる。月の光にすら恥じらう花のように、俯くリスティアは、正しく妖精のような侵し難い神聖な身体に思えた。花紋はフェロモンと同じ桜桃の蕾で、フィルより余程大きく身体に入ったそれを目に焼き付ける。

(なんて美しい。まるで神の寵愛を受けた器のようだ……)

 壊さないよう、荒ぶる欲望を必死に我慢した。優しく、慎重にしなければ。

 すると……少し入れただけで、可哀想に、痛みをこらえていた。痛いという言葉を必死に出さないよう、唇に傷までつけて。

 そうだ、相手はフィルとは違う、深窓のオメガ。
 そういえばフィルは常に万端の状態で、もちろん初めてでは無いからいきなり入れても痛がったことなど一度もない。失念をしていた。

 十分に解したつもり・・・だったのに、まだまだ手加減をしなくてはいけなかったのだ。
 しかし気が昂って治らない。このままではリスティアに嫌われてしまう。
 仕方なく、手早く気を放つ。そそくさとリスティアから離れ、フィルを抱いて発散した。


 その後、めちゃくちゃに抱きたくなる欲求はフィルで解消した。リスティアにまた痛がられてはいけない。自分の技量にも不安が出てきたが、フィルを抱くと泣いて善がり、それを見て安心した。

 発情期ならば、と抱くと、やはり思った通り、リスティアはたっぷりと濡れて緩んでいた。それでもやはり狭すぎる内部に、慎重に押し開きながら、リスティアを愛でた。それでも痛みに顔を引き攣らせたリスティアに、一瞬脳裏に浮かんだ言葉。


(……面倒だな)


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