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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むフィルの思惑としては、賠償金の腹いせにマルセルクに愛されている自分を見せつけたかったのだろう。彼は、良くそういった手法――――罪には問われない程度の嫌がらせ――――を好んだことを、リスティアは良く覚えている。
それなら、フィルの思惑に乗って大袈裟に傷付いてみせたり、ストレスでおかしくなったように見せかけるのも手。癪ではあるが。
「このまま僕が悪者になって、次期王妃に足る人物でない、とみんなに評されたら――この婚約も、覆る。だからもう、積極的に根暗になろうと思って」
「ね、根暗?ですか?」
「うん。まぁ……元々根暗かもしれない。だって二人以外誰にも話しかけられなくても僕、全然平気だから。逆に言えば、二人がいなかったら、きつかったかもしれないけど……」
「「んグッ!?」」
けほ、けほとノエルとアルバートが咳き込んだ。
(え、喉詰まっちゃった!?)
驚いてリスティアが心配そうに見つめるも、むしろ二人は落ち着かないようだった。じっと凝視する程に目を逸らされる。
(それにしても二人は咳き込むタイミングまで同じなんて。仲良しさんなんだ)
「ンンッ。それで……薬草の書物を?」
「うん、そうだね。薬師様には申し訳ないのだけど、なんとなく根暗っぽいと思って。どう?フィル殿への嫉妬のあまり、怪しい薬を作りだし、ブツブツ呟いたり、目の下に隈を作ったり、太ったりして嫌悪感を沸き起こす容姿になった僕は。次期王太子妃には不適格でしょう?」
「ちょっ、……リスティア様。そこまでせずとも」
「まぁ、このプランだと地味だし、少し解消には時間がかかると思うけれど……それ以外に、思いつかなくて」
「……それでしたら、私に、いい考えがあります。聞いて頂けませんか?」
ノエルの言葉に、リスティアはぱちぱちと目を瞬かせた。
ノエルの作戦は、リスティアには発想出来ないものだった。
フィルは避妊薬を常に携帯している。それをただの、味だけ似せたシロップにすり替える。
それだけ。
そうしたらば、あとは妊娠するのも時間の問題。
赤子を利用するなど、リスティアには許容できない所業。しかし、リスティアの脳裏にエルウィンが過った時、あの命をこの世に誕生させるのなら、今しかないと直感した。
王族の子供の可能性を否定しきれないのだから、フィルは一旦王城に預けられる。そうなればマルセルクの醜聞だ。相手は平民でもなく、一応は貴族なのだから、子が生まれるまでに責任を取らなければならない。
そして婚姻前に、他の人を娶ることは契約違反。これは婚前契約の共通項だ。リスティアは向こうの有責で婚約を解消出来る、という寸法だ。
本来そうならないように、マルセルクは仕事として性を提供する娼婦・男娼か、子を孕めない老年や男ベータ等に依頼をするべきだった。
軽率にフィルを抱いたがために、起こったこと。
マルセルクのことだ、避妊薬を口にしている筈。けれどその薬も100パーセントではない。
前回もフィルは子を産んだが、少し孕むのが早いだけで、状況は大きく変わる。
既婚者が愛妾を孕ませるのと、独身貴族が独身貴族を孕ませるのとでは、天と地ほども違う。後者は、婚姻という責任をもてるし、もたなければならない。
一方、愛妾なら子は一般的に庶子となる。それでも良しとするのが愛妾という立場のため。
この作戦にはもう一つ、リスティアが思いつけない理由があった。
もしこれが実現した場合、マルセルクは立太子できない可能性が高い。それほどのインパクトのある醜聞なのだ。リスティアは無意識にも、マルセルクは必ず立太子しなければならないと、思い込んでいたことに気付いた。
(殿下が、王太子にならない、未来……)
リスティアは、マルセルクが王太子になるべく努力してきたことを知っている。プライドも高い。それ故に、リスティアを大事にする素振りだけは完璧にしてきたのだ。
ズキリと胸が痛むのは、きっと同情のせい。それでもマルセルクのために、リスティアはもう、自分を犠牲にはしたくない。
「でも……どうしてここまで、してくれるの?ノエルやアルバートにとって、益は無いでしょう?」
偽薬の用意も、薬のすり替えも、ノエルたちがやると言う。ありがたいことなのに、どうしても疑ってしまう。
今のところ、まだリスティアとマルセルクは相思相愛の――――多少翳りはあっても――――婚約者同士。国内の貴族、おおよそに祝福されている。
ジト目のリスティアに、ノエルとアルバートは、『ふむ……』と考え込んでいた。
「益、ですか……。しまった、考えてくればよかった……」
「えっ?」
「それがあれば、信用してくれるのでしょう?私たちを」
「……理由によるけれど。まさか、何もないのに、協力してくれるって訳ではないでしょう?」
リスティアの混乱する声に、ノエルはふわりと笑った。
「私たちは、リスティア様に望まぬ結婚をして欲しくない。あなたが納得して結婚し、幸せになるのならば、何も言いません。ですが、そうではないでしょう?」
「……それは」
「親しい人に、幸せになって欲しい。それだけでは、納得いきませんか?」
戸惑っていると、アルバートも口を開く。
「リスティア様には、国のためといえども生贄になって欲しくない。今のままでは、幸せそうにはとても見えないので」
「アルバート……そんな不幸な顔をしているかな……」
「私たちと話している時は、安心したお顔つきですよ。あっ、あえて理由付けをするのなら……有能すぎるリスティア様を、キールズ侯爵家の名の元に保護したい、という名目もあります。当代のイレニアス公爵は、あなたの保護者に相応しくないようなので」
そう、ノエルは茶目っ気たっぷりに理由を後付けした。
頼もしい、得難い友人。これまで広く浅くしか交流してこなかったリスティアには、見返りを求めず助けてくれる二人が神様のようにも思えた。
打ち合わせを終えると、後はノエルやアルバートにお任せすることになった。
効果が出るまで、数ヶ月の我慢。
失敗しないかどうかは不安だが、二人が裏切ることはない――裏切った所でリスクを負っているのは二人の方――だから。
二人の目的は何であれ、リスティアにとっては悪くない風向きだった。
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