4 / 95
第一章 一回目の結婚生活
4
しおりを挟む不安なことはあったものの、リスティアは生半可な気持ちで王家へ嫁いできた訳ではない。マルセルクと番になりたいという気持ちは固かった。
アルファがオメガの頸を噛む事によって、『番』になることが出来る。噛まれた瞬間に体質変化が起こり、そのオメガのフェロモンは番のアルファにしか効かなくなり、オメガは他のアルファに触れられると拒否反応が起こるようになる。
その代わりに精神的安定を得たり、発情期が軽くなったりする他、一生マルセルクだけのものだと対外的にも示せる意味合いもあった。
(それに、噛まれた拍子に開花するかもしれないし……、番関係があるのに開花してない、なんて聞いたことないもの)
開花にこだわっているリスティアだが、蕾のままでも花紋を持たないオメガと然程変わらず、妊娠確率やフェロモンに問題はない。
ただ、花紋を開花させるというのはアルファにとって誉れらしいので、早くマルセルクに捧げたかったのだ。
いつもリスティアを見かけては頬を緩めるマルセルク。
愛の言葉を囁き、抱き寄せ、体温を分けてくれるマルセルク。
そんなマルセルクならば、全てを捧げてもいいと思えるほど、愛しているから。
結婚して初めての発情期が来ると、リスティアは頸を守るネックガードを外し、待っていた。マルセルクは宣言通り、リスティアの寝室に現れた。
リスティアの方はもう既に、愛液で濡れていた。マルセルクを甘く誘う桜桃に似た香りのフェロモンが、部屋いっぱいに充満する。
「はやく……はやく、来て、下さい……っ」
「ああ、すぐに……」
ナカを埋めて欲しくて懇願するリスティアを、マルセルクは初夜と同じく、優しくそれを与えた。
二回目、それも発情期中なのに間が開いたからか、やはりリスティアの身体はすんなりとは受け入れられず、苦悶の表情になってしまう。
それでも発情期の力もあって、引き攣れるような痛みはあるものの、なんとか最後まで繋がることは出来たのだった。
「ふ……っ、う、はぁ、あっ……」
「入っ……た……っ!」
マルセルクもまた、狭い蜜壺に尋常ではない汗を流していた。そして実際、ろくに動かずとも、リスティアの絞り取るような内壁の動きに翻弄され、呆気なく達する。
しかしそこで、予想だにしないことが起こったーーーーマルセルクが中に白濁を放ったと同時に、強烈な嫌悪感がリスティアを襲ったのだ。
「っうぐぅ!?」
「はぁ、はぁ、愛しいな……リスティア」
呻き声を嬌声と捉えたのか、マルセルクはそのまま、頸を噛んだ。
プチッと肌を食い破る、アルファの犬歯。注ぎ込まれる白濁と、フェロモン。
「いっ……!、んんん!!」
痛みに歯を食いしばった。
マルセルクのフェロモンにより、身体が作り替えられていく、快感。
それなのに、リスティアの腹の中には禍々しいほどの魔力が渦巻いていて、気持ち悪さに吐き気すら催す。
結果として、訳のわからなくなったリスティアは、失神してしまったのだった。
ぼんやりとしたまま起きると、まだリスティアの発情期は続いているというのに、マルセルクの姿は消えていた。
頸に噛み跡があるのはわかった。くっきりはっきりと、マルセルクだけのオメガになったことが、証明されていた。
「はぁっ……でんか……は、いま……どこへ……?」
扉越しに呼びかけた護衛騎士は、小さな声で淡々と返してくる。
『恐らく、フィル様の所へと。あちらも発情期になったようです』
そんな!
「い、いつ……こちらには……?」
『私では、分かりかねます』
はぁ、はぁ。
ずるずると、開かない扉にもたれかける。
『番』になったリスティアはもう、マルセルクのものだ。このフェロモンはマルセルクだけを誘い、他のアルファは感知も出来なくなる。
一方でマルセルクの方は、他のオメガの発情期のフェロモンを受けても強制発情させられることはなくなるものの、フェロモンを嗅ぎ分けることは出来る。そのため、リスティア以外のオメガとも番になれる。
フィルとマルセルクはまだ番ではなかったはずだし、その予定も聞いていない。
ぼんやりとした視線を下げた先に映ったのは、未だ蕾のままの、自らの花紋だった。ぐるりと臍を避けるようにして生えた枝の先、小粒の蕾が点々として沈黙を守っている。
(もしかして、いつまでも開花しない僕に呆れて、彼を優先した……?)
リスティアの中では、そうとしか考えられなかった。そうでなくては、自分よりフィルを優先するマルセルクの気持ちを、理解できなかったから。
(本当に僕より子猫の方がいいなんて、ことはないよね……?マルセルク様……どうして……)
こうなれば、自分一人で発情期を消費しなければならない。
持て余した身体はいくら擦っても赤くなるばかりで、自分の細い指では物足りない。快感は遠ざかっていくのに反して、『孕みたい』『孕ませて』と訴える本能は強まって、苛々する。
苛立ちと、もどかしさ。
思っていたのと違う結婚生活。
フィルの存在、マルセルクの態度、侍女たちの噂話。
まだ腹の中に残る、べっとりとした気持ちの悪さ。
吐き気に従い、吐いて、吐き過ぎて、頭痛までして。
「うぁああああ!っあああああ!!」
ガンガンと鐘を鳴らされるような酷い頭痛を消すため、壁に頭を打ちつけていたところ。
音を聞きつけてやってきた薬師団長に、強制的に眠らされてしまったのだった。
339
お気に入りに追加
3,502
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!


愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?


転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる