悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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番外編

悪役令嬢・ダリアローズ

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【悪役令嬢:ダリアローズ・シャルドネ侯爵令嬢

 孤高の女王様、ダリアローズ⭐︎我儘放題で育った彼女に目を付けられたら大変っ!どの攻略対象を選んでも、ダリアローズが怒っちゃうよ!百合ルートを選ぶなら、気弱な発言はNG。ダリアローズは気弱な子が大嫌いだからネ⭐︎】






ピピピッ!

『朝ピなの~、すーがすがしい朝ピがぁ~来たピなの~』


 朝が訪れたことを小鳥たちと金色のカナリアが合唱して知らせてくれ、ダリアローズは目を開けた。


「!?」

「おはようございます……ロゼ」


 目の前には眩む程の美貌が、甘く微笑んでいた。おそらく寝顔を眺めていたのだろう。そのままダリアローズの頬や鼻先、耳まで、覆い被さって口付けを降らせてくる。


「ちょっ……、ちょっと待ちなさい、や、ひぅっ」

「まだ早いですから、もう一眠りしましょう……?」


 中性的な美形のせいで、トリスタンの体型はすらっとした細身だと思っていた。互いの姿形を知ってからは、騙されていたと思うくらいには屈強で、抵抗も軽くいなされてしまう。

 トリスタンはダリアローズの意思を尊重する。本気で嫌がれば、それ以上のことはしない。

 ただし、……










 艶々したトリスタンが王配の元へ向かうのを、寝台の中から見送る。ダリアローズは痛む腰を抑えて、今日はゆっくり休むことに決めた。


「ミミ、今日は別宅で休むわ」

「あらあら、畏まりました。準備しますねぇ」

「シド、あなたも来るのよ」

「はい、いつでも」


 ゆったりとしたシルクの重ねられたワンピースで、海辺のコテージへと影移動だ。こちらは領地にあるため、トリスタンは容易には来れない。

 結婚式を挙げてからもう一年は経つのに、相変わらずトリスタンはダリアローズに甘い。その糖度は日に日に増し、留まるところを知らない。

 甘やかな愛に包まれたダリアローズもまた、トリスタンを愛し始めていた。もう、一方通行の『推し』では無い。心の奥深く、根っこまでも、トリスタンに侵食されている。

 屋敷にいると、そこかしこにトリスタンの幻影が見え、抱いてくる逞しい腕や割れた腹を思い出してカッカッと顔を熱らせてしまう。そのため、数日に一度は、こうしてリフレッシュしなければならないのである。


「おはようございます~姐さん!」

「今日も美しいです姐さん!」


 ダリアローズに気付いた若い漁師が、満面の笑みを浮かべて手を振っていた。もうすっかり馴染んだ顔見知りの仲であり、ダリアローズも顔を綻ばせる。今日も良い肉体美たちを拝められ、元気が湧いてくるようだ。


 浜辺に、シドとミミがパラソルを設営してくれる。日陰のビーチベッドへ横になり、漣の音と潮風を楽しんでいると、次から次へと、男たちが珍味を収穫して持ってくるのだ。


「姐さん、これは雲丹うにと言って、とろ~り溶けた黄金の味がするんですよ!ショーユを少し垂らして……トゲトゲに気をつけてくだせぇ」

「今日は白子しらこを取って来たぜ!ちょっと酸味の効いたこのソースがいいんだぁ、ほれ、こうして、こう……」

「あら、ありがとう」


 男たちは、女王が食べやすいよう割ってやり、下処理してやり、最高の塩梅でタレやソースをかけるのに苦心したり、時にはその場で携帯コンロを出して煮たり焼いたりして、ダリアローズの小さな口につるりと吸い込まれるのを固唾を飲んで見つめる。

 その唇が嬉しそうに口角を上げると、男たちはまるで自分自身が食べられてしまったかの如く、歓喜にうち震えるのだった。


(美味しいわぁ、こんな高級食材なのにこちらでは漁師しか食べないなんて、損だわ!ぜひ流行らせないと)


 ダリアローズの中では、実に現実的に、パチパチと構想が組み立てられている。男たちが快感に身悶えしているなんて気付かないし、興味もなかった。


 ゆったりと時間を忘れて、美食と、非日常感を味わう。グラスをくるりと揺らし、ワインも一緒に頂く。時には相性の良いワインを探すため、数種類用意させることもあった。

 ダリアローズは、他の酒には弱いがワインだけは強かった。ワインが特産品であるシャルドネ侯爵領で育ったからだろうか。


 ミニテーブルに領地や経営の資料を広げて、息抜き程度にパラパラ見つつ、ダリアローズはシドへ声をかけた。


「シド、悪いけど腰をポンポン叩いてくれないかしら。辛くって」

「はい」

「ふぅ……あぁ、いいわ」


 わざわざ厚手のタオルケットを被せて、シドは丁度良い加減で叩く。

 ぽん、ぽん。とん、とん。

 大体、トリスタンがいけない。お互い仕事に夢中なため、夜しか愛を語り合えないと言うが、語り合うのは過度ではないだろうか。

 ダリアローズもは嫌では無い。だが、トリスタンによって身体が変えられてしまったかのように、知らない自分になってしまうのは恐ろしい。毎回、粗相をしやしまいかと不安だし、それによって幻滅されるかもしれないし、そうだとしても原因はトリスタンなのだから理不尽な話である。

 だから、十分に気力回復をしてから、適度に、我を見失わない程度に収めてほしい……と、思うが、こういった話題を口にするのも恥ずかしい。察しろと思ってしまう。


「はぁ……」


 ただ寝そべって腰を叩かれているだけなのに、若い漁師たちは途端に落ち着かなくなった。そわそわしだした彼らは、ミミによる無言の圧力に恐れをなして、逃げるように海へ入っていった。


「ありがとう、お兄さんたち。また珍味を見つけたら教えてちょうだいね」

「はい!!!!」


 ばたばたと男たちが見えなくなってから、ダリアローズは小声で、治癒の聖歌を口ずさんだ。

 童謡に似た簡単な聖歌。ひよこカナリアがポフンッと飛び出し、そのちいちゃなお尻でダリアローズの腰をポンポン飛び跳ねる。気持ちいいし、段々と痛みも薄れてきた気がする。

 ダリアローズの近くにいたミミも、歳からくる腰痛が薄れていくのを実感し、シドもまた、鍛錬中に潰れたマメが治っていくのを目の当たりにした。


「すごいな、お嬢。息をするように治すなんて」

「練習にもなるし、ついでよ。そうだわ、漁師のお兄さんたちにも届くかしら」



 少し声を大きくして、今度は守護の聖歌を歌う。これは上級に分類される、戦時下に味方へかける防御力を上げる歌だ。使う機会が無いので、練習しておかなければ忘れてしまう。ダリアローズは遠慮なく、彼らへ守護を送った。


『やるっピね。お姉さん。あの子たちスッゴイ喜んでるピよ~~、おいらも嬉しいっピなの』

「練習ついでなのに。でもちゃんと効果はあるみたいでよかったわ」

『もちろんピ。お姉さん、ストイックなのピ。とっても上手になったピよ』

「そう?ありがとう」


 ひよこカナリアをもちもちと撫でると、嬉しそうに目を瞑っていた。


 しばらくしてから戻って来た男たちは、キラキラした笑顔と共に、両手一杯に戦利品を持ち帰って来た。そしてまた、ダリアローズに一口食べさせるべくいそいそと殻を剥いたり調理をしたりと、とにかく忙しい。

 右から左から差し出される匙に、嬉しく思いながら応じていると……。



「おや、俺の奥さんはまるで海の女神ネレイドのように、男たちに献身されているのですね?」

「え……」


 仕事へ行ったはずのトリスタンが、爽やかに微笑んでいた。


「えっ……どうして……今日は、仕事のはずじゃ?」

「ふふ、まるで浮気が見つかったみたいなことを言いますね。実を言うと、殿下に送ってもらったんです」


 マーガレット王太女の婚約者、次期王配となる彼は、珍しい【空間魔法】の持ち主だった。その魔力を存分に利用しているのかされているのか、トリスタンも厚意で送ってくれたらしい。


 ハッ、と自身の状況を考えると。

 確かに漁師のお兄さんたちから所狭しと献上品を与えられて、さらに、シドにはまだ腰をポンポン叩いてもらっている。トリスタンから見れば、良い気分にはならないだろう。


「ンンッ。シド、みんな、もう良いわ。ありがとう。また今度、楽しみにしているわ」

「「「へへえっ」」」

「……」


 男たちは夫の登場に気後れしたのか、すごすごと散っていった。シドも何事もなかったように定位置に戻り、気配を消している。

 トリスタンはダリアローズの座るビーチベッドへ腰掛けると、ひょいと抱き上げ、すとんと足の間に下ろした。すっぽりと腕の中に収まってしまったダリアローズは、またうるさく騒ぎ出す心臓を“捻り潰してやろうか”と考えながら、秀麗な顔を見上げた。


「妬けますね……貴女に尽くせるのは夫の特権では?」

「ええ、大いに尽くしていただいて結構よ。それに皆さんとわたし、海の幸を広めたい想いが一緒なの。味見をさせてくれるのは、わたしのプロデュース次第だから」

「シドは……」

「あ、あなたが何度もからよ!文句があるならまず自身の行いを顧みることね!」

「ロゼ、可愛い。赤くなってます」


 ダリアローズの、膨らませた頬を撫でている。そっと上へ向かせて、ぽってりと赤い唇にキスを落とした。
 ちぅ、と卑猥な音を立てて離れていく。ダリアローズはそれだけで、胸が潰れるほど苦しくなってしまう。好き、という気持ちが肺を圧迫するのだ。……もちろん、こんな所では言えないが。

 ダリアローズの唇を堪能したトリスタンが、ぽつりと呟く。


「でもほら……シドは、独身でしょう?それにずっとロゼといられる。心配なんです……男から見ても、格好良いですし」


 トリスタンはちらりとシドを見て、唇を尖らせていた。ダリアローズから見るとシドは魔除けの人形のような存在だが、中性的なトリスタンには憧れの部分があった。特に迫力のある精悍な顔立ちや、一見して分かる逞しい体付きに。


「シド?シドは、そうね……言っても良いかしら?」

「どうぞ、お嬢」

「昔、婚約者を亡くしているの。その方に操を捧げているから、心配しなくても良いと思うわ」

「……………………そうだったのですか…………それは、失礼しました。疑ってしまって」


 トリスタンは律儀にもシドに謝罪をする。そういう誠実なところが、ダリアローズの好むところでもある。レオナルドならば有耶無耶に誤魔化すところだ。

 しかし、だ。

 トリスタンは忘れている。それを指摘すべく、ダリアローズはすうっ、と目を細めて、トリスタンを見上げた。


「トリスタン様。わたしが貴方を不安にさせる余地など、ないと思いますけど?」

「それは……貴女があまりに魅力的過ぎるので……」

「ンンッ!ほら……貴方、夜、たくさん言わせるじゃないっ!聞いてなかったの!?」

「ふふ……そうですね。また聞きたくなってしまいました。ロゼ、帰りましょうか。すぐに」

「うっ……ちゃんと聞いてないなら、もう言わないんですからね!」


 そんな会話をしている間に、シドとミミはテキパキと荷物を纏め終わっていた。


 本邸へ帰った後、夫婦がどう愛を語り合ったか、ダリアローズが泣きながら愛を叫んだかどうかは……トリスタンのみぞ知る。





【好感度:5%(あの子のおかげでゆっくりできるわ……)】


番外編・終
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感想 138

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みんなの感想(138件)

野々宮なつの
ネタバレ含む
2025.02.28 カシナシ

野々宮なつの様、感想ありがとうございます!
なんと一気読みしていただいたなんて光栄です!(*´艸`*)仰る通り、推しは遠くから見守るのが平和ですよね´∀`*)b
番外編もずっしりで申し訳ないですが、読んで頂けると嬉しいです!こちらこそありがとうございます〜!(●′ω`人′ω`●)

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日の丸扇
2025.02.20 日の丸扇
ネタバレ含む
2025.02.20 カシナシ

日の丸扇様、感想ありがとうございます!
淑女教育の方が泣きたいくらいですよね(´∀`;)
己の恋心を美化して無双状態でした((((;´・ω・`)))アチャー

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エイル
2025.02.16 エイル
ネタバレ含む
2025.02.16 カシナシ

エイル様、感想ありがとうございます!
なんと嬉しいお言葉、光栄です〜!(*´艸`*)
テンポが良いと言ってもらえると、自分でも意識はしていたのでとても嬉しいです!(●′ω`人′ω`●)

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