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本編
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しおりを挟むダリアローズ・シャルドネ侯爵令嬢は、ほんの5才のとき、自分の正体を知る。
「え……転生……てこと?」
転生者だと気付いたのは何か衝撃的なことがあった訳でも、何かの事故があった訳でもなく、5歳の誕生日の朝、まるで元々知っていたかのように自然に、すとんと落ちてきた。
【金色の聖鳥の乙女】という乙女ゲームに登場する、悪役令嬢。それがダリアローズに与えられた役割だった。悪役令嬢らしく、真っ赤な髪と、勝気そうな琥珀色の瞳を持っていた。名前すら悪役に相応しい、派手なもの。
『聖歌』を歌うことで大飢饉から国を救う聖女が主人公であり、攻略対象を誰に選んだとして何故かダリアローズが虐め抜く。結果、聖女を虐げたとして毒杯を賜ることとなるのだ。
ダリアローズは父、母、兄に溺愛されている美幼女だった。政略結婚だが両親仲は頗る良く、5つ年上の兄もダリアローズの全肯定マンと化している。
それなのになぜゲームでは、我儘放題の短慮な娘になってしまったのか?
(多分、あの子のせいね)
アラサーの精神を手に入れたダリアローズはふむ、と腕を組んだ。腕は短いが、考えは冷静なもの。毎日、常に一緒にいる少女について。
ダリアローズの乳姉妹の少女が、ダリアローズの遊び相手として屋敷にいた。コゼットは控えめで、大人しく、悪く言ってしまえば気弱で臆病。
外を駆け回る、活発なダリアローズとは全く違うタイプ。その違いのせいか、母親は良く『あらあら、どちらが淑女か分からないわねぇ』『ダリアローズ、彼女を少しは見習ったら』と言った。
母親に悪気はない。娘に発破をかけようとしただけのことなのだが……。
(大好きな母様に言われて、多分それで……本来のダリアローズの性格が歪んだのと思うわ。ダリアローズも悪くないのに……)
淑女としてはコゼットが正しいのかもしれないが、まだ5歳。十分な運動が必要な身体なのに、コゼットを気にして控えたり……など、しない。
アラサーの今、コゼットと上手くやっていく選択肢もあったのだが。ダリアローズが転生を自覚して初めて成し得たことは、この乳姉妹の少女を追い出すことだった。
「パパ。わたし、コゼットと合わないの。もう遊びたくないわ」
「なん……なんだって?」
「パパだって、合う人と合わない人がいるでしょ?ほら、おタバコ吸う人とか、女の人が好きな人とか……」
「だっ、ダリアローズ、どこでそんなことを……!?」
「えへ。わたしも、そうなの。もっと元気な子がいいの」
「ダリアローズ……いつのまに、そんなにも賢くなったんだいっ!?パパは嬉しいっ!」
父親の懐柔はとても簡単だった。ダリアローズを抱き上げてスリスリ……しようとするのを防ぐ。お髭が痛い。
が、同じく聞いていた母親は、困ったように頬へ手をやった。
「ダリアローズ。もう一度、よくお話ししてみたら?あなた、コゼットを引っ張って、お外に行って走っているだけで、あの子のこと、よく知らないでしょう?」
母親はなんとか残らせようとしているようだ。というのは、ダリアローズの乳母と母親も、乳姉妹。生まれた時からずっと側にいて、よくそんなに話の種があるなと思う程ずっと話し続けているくらい、とんでもない仲良しなのだ。
前世の記憶のある今は、なんとなく気持ちが分かる。子供はいなかったが、同じような年齢の子供のいるママたちは子供たちを一緒に遊ばせたがるのだ。そうすることで、自分たちの絆も深まっていくような気にでもなるのだろうか。
しかし、そんな母親の弱点は、調査済みだった。
「ママ。コゼットがいたら、わたし、お外でいっぱい遊べない。お外でいっぱい遊べないと、身体が弱くなるのよ。わたし、ママたちよりもはやくヨボヨボになっちゃうかもしれないのよ」
「えぇぇ……!?それは……それは良くないわ……!それならコゼットも一緒に運動するように言いましょうか?」
「コゼットは、運動が本当に嫌いなの。付き合わせるのも可哀想なのよ?だからお願い。他の子がいいの。できればすごく元気な子」
運動は子供の健やかな成長を促す。しっかりした体幹を鍛えればダンスも踊りやすくなり、良い睡眠にも繋がる。そういった言葉を並べ立てると、健康思考の母親には、随分と効果があったらしい。
翌日、いつも通りに来たコゼットに、母親が説明した。
今日で遊び相手は不要だから、明日からは来なくて良いということ。
乳母は驚いてはいたものの、『承知しました』と受け入れてくれる。だが、まだ5歳のコゼットはそうもいかなかった。
「どうして……ですか……っ?ダリアしゃま、あたしのこと、お嫌いになったの……?ふえっ、うっ、うぅぅううう~っ」
ぐずぐずと泣き出すコゼット。ダリアローズは可哀想かなと思いながらも、口を開いた。
「だってコゼット、一緒に走るのは最初だけで、後は休んでるでしょ?そんなの、遊ぶって言わないもの。お部屋に来たら、わたしの宝石をきれいきれい、ってずっと言ってるだけで、絵本も離さないし」
「こ、こ、コゼット……!お前、そんなことをしていたのかい!?」
「ち、ちがうもん!見ていいよって言われました……!絵本も、あたし、読むの遅いから……っ」
「見るのはいいけど、一日中ずっと見てるとは思わなかったもの」
乳母は大慌てだった。侯爵夫人も目つきが鋭くなる。『宝石をずっと見ている』というのは、『卑しく欲しがっている』と見做されてもおかしくない。
5歳のダリアローズが無邪気さを装って告げ口をしたおかげで、コゼットの性質を母親は正しく把握したらしい。ダリアローズの遊び相手として不足しているということを理解して、ハァとため息を付いていた。
それでも、仲良しの乳母の子供。諭す言葉は、優しかった。
「コゼットちゃん。ごめんなさいね。ダリアローズはお外で遊びたい子だから、コゼットちゃんとは合わないと思うの。だから、もういいのよ。コゼットちゃんにはコゼットちゃんに合うお友達がきっと出来るわ」
「そ、それなら、あたし、がんばりますから!がんばって、お外も走りますから……!」
「そうじゃないのよ……、はぁ、後はお任せしても良いかしら?」
母親は説得を乳母へ任せるようだった。ぐすぐすと泣き喚くコゼットを連れていく乳母の後ろ姿を見ながら、ほんの少し胸が痛むような気がした。
その胸の痛みが無駄なものだと知るのは、すぐのこと。コゼットは許可もなくシャルドネ侯爵家へと突撃し、捕まえられては送り返されるようになった。気弱だと思っていたのに、侯爵令嬢の乳姉妹という地位にしがみ付きたいという根性を感じる。
乳母の仕事さえも危うくなるぞ、という警告をしてようやく、コゼットの姿は消えたのだった。
コゼットが来なくなった後、母親は活発な女の子を探してくれたが、まさか、王女の遊び相手に選ばれるとは思っていなかった。
(王女が味方なら、断罪される可能性は少しは低くなるかしら……?)
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