レスられた高嶺の花は自由にすることにした〜なので、迫られても困るのですが〜

カシナシ

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王女は長年レイヴィスに片想いをしていた。自分の美貌を駆使すれど一向に振り向かない、絶対に手に入れられない男。
手に入れられないものほど欲しくなるのは、人間のごうさがか。
その強烈な熱情は時に、レイヴィスと会話を交わした令嬢に牙を剥いた。

そんな時に出会ったのが闇ギルド。少し金を握らせれば、対象となった令嬢を攫い、乱暴し、令嬢として傷物に出来た。命までは奪わないが、レイヴィスに近寄らなければ十分だ。

王女は理解できなかった。その件で心を病み、自ら命を断つ令嬢を。
特にレイヴィスに恋心を持っていたわけではないのに少し話しただけで傷物にされた上、婚約していた令息に婚約破棄をされ、望まぬ修道院へ行く令嬢のことを。

被害者本人からも、遺族からも多くの恨みを買っていたことも、少し考えれば分かることだが、考えたことすらなかった。

王女の魔の手はしっかりとベルフィーナにも向いていた。
レイヴィスの、見たこともない笑顔を向けられていた女。
平民らしいから今まで以上に簡単に排除出来ると思ったのに、全く、近寄りも出来ず、ついには闇ギルドの方から泣きながら断られてしまった。

(※ベルフィーナに闇ギルドメンバーとは気付かれないまま、ただの暴漢として処理・・された)



ベルフィーナの排除は失敗。奥歯がすり減りそうなほど歯軋りの止まらない毎日を送っていたら、あっという間に時間は無くなり、ついにレイヴィスを自分のものにできないまま嫁入りの前日となる。

焦った王女は、闇ギルドに自らを誘拐させ、レイヴィスに迎えに来させる事を思いつく。


計画はこう。

攫われて可哀想な姫を迎えに来たレイヴィスに、闇ギルドのメンバーによって他国から取り寄せた強力な媚薬を盛らせ、その場でベッド・イン。
情熱的なまぐわいを期待するが、我慢強いレイヴィスのことだ。最悪、彼らに補助してもらえば流石の鉄の理性を持つ男も陥落するだろう。

婚約者?婚約者は王女に甘いから、たかが一人の情夫を抱えていっても問題ないに決まっている。



王女は余りにも世間知らずだった。

何回か依頼を忠実にこなしてくれたから、闇ギルドのメンバーは王女の侍女や護衛のように、使っても良い駒同等と、勘違いしてしまっていた。


ここからは後日、闇ギルドメンバーから聞き出した情報になる。


闇ギルドはもちろん、のこのことやってきた王女をはした金で返す訳がない。

これまで被害者となった令嬢の、家族からの依頼も複数ある。既に前金はかなりの額振り込まれており、王女に従って得られる金よりも、金額は膨れ上がっていた。

そこで画策した。
王女は勿論、見目麗しいと噂の騎士団長もついでに、無力化させたまま奴隷大国に売り渡す。
王女を人質に取っていればかの騎士団長も下手に手は出せまい。


王女の奔放な噂を聞いていたし、もう一人の目玉商品が来る前に少しくらいいいだろうと皆んなで味見をしていたのだと言う。
そして実際には、王女は処女であった。遊びに使っていたのはもうひとつ・・・・・の方だった。
律儀にも、レイヴィスの為にと大事にとっておいたらしい。

そのため、小汚い闇ギルドメンバーが王女の初めての相手となったのだった。






数週間だった行程を十数日で駆ける旅路は、過酷なものとなった。おもに精神的に。

体力を取り戻した王女は、ベルフィーナの姿を見て暴れ、レイヴィスを見ても暴れた。同乗していた女騎士を慌てて避難させたから良かったものの、一緒の結界に居ては爪痕が残ったかもしれない。そのくらいの暴れっぷりだった。

ベルフィーナは結界の術者のため、不測の事態に備えて離れられないが、レイヴィスは王女から見えない所に潜むことになった。

その配置になったのは、王女の暴言が止まらないから。
それはあまりに騒音で、あまりに下品。


『なんであんたがここにいるのっ!?レイヴィスを誑かしたのはあんたね?!この女狐!売女!淫乱!アバズレ!ええと、商売女!』

『レイヴィス、あたしの声が聞こえる?!助けて!この女を殺して!早く!』

『出しなさい!あんた、あたしにこんなことをして許されると思っているの!?あたしが殺してやる!出せっ!』


などと、自国に忠誠を誓う騎士のモチベーションを著しく下げる言葉の羅列だった。


「なんか……元気になって良かった、のかな?アレでも一応護衛対象だから、救出が間に合わなくて心が痛かったんだけど……メンタルつよ……」

「そ、そうね……元気があるのはいいこと、よね」


ダグラスはボヤいていた。騎士として手落ちは無かったものの、もう少し早く向かえば結果は変わっていたかもしれない。そんなもやもやした気分は、王女の罵詈雑言ですっかり晴らされた。


王女によって下がった士気は、隣にベルフィーナがいることによって中和される。
高い気品のある、素晴らしい能力を持った冒険者。王女と言っても納得してしまう美貌。
騎士達は時折、あれ、入れ替わってないよな?と現実逃避するようになった。


そんなふうに聞いている方も辟易としてくる為、ベルフィーナは遮音の結界を編み出した。
音を集めるのが出来るのならば、切り捨てるのも出来るはずだ、と、いつになく集中した。

それが完成してからは、見違えるように快適になった。
王女は鬼の形相で何か言っていたが、聞こえなければ気にする必要もない。横で茶を啜れるくらいに気にならない。

真っ赤な顔でパクパクと抗議する王女を無視したまま、一行はようやく目的地へと到着したのだった。











公爵家に着き、なんとかドレスを着用させた膨れっ面の王女を引き渡す。荷物や侍女などは後からゆっくり来る手配で、パレードはただの婚礼祝いの祭りに変わったらしい。

出迎えた公爵令息は、婚約者にあんなことがあったのにも関わらず、大変胡散臭い良い笑顔で王女を引き取っていった。


騎士達は疲労困憊だったが、その分帰りは軽快な道のりとなった。王女への愚痴や噂話が次々と溢れ出す。


「いや、マジで疲れた。早く帰りたい~」

「あたしもだ……やっと肩の荷が降りた」

「いや……本当に、普通、婚約破棄するよな。見た目は多少綺麗だとしても、性格が破綻しているし……」

「それが、あの令息は赤い髪が特別好きらしくて、その下には興味がないらしいぞ。王女の無事よりあの髪の無事を先に確かめていたしな」

「あー……」









その後、闇ギルドメンバーの尋問によって王女の所業の全てが判明した。

闇ギルドに王女の件で依頼した貴族の罪は、いったん拘禁されたものの恩赦となった。
逆に王女によって命が奪われたり、人生が狂わされた賠償金として王家から多額の賠償金が支払われることとなる。

それらは全て口止め料も含まれていた。外面は良かった王女の罪によって、無駄に国民を混乱に陥らせてしまうことを懸念した王家は、闇に葬り去る事を選んだ。王の併せ持つ清濁の『濁』。


王女は公には公爵家へ嫁いで幸せになった。
実際には公爵家との交渉の末、絶対に外へは出さない条件で、どんな状態になろうとも王家は文句を言わないという取引がなされた。

公爵令息は王女を手放そうとはせず、また約束通り、王女は二度と姿を見せなかった。




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