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しおりを挟む「貴女は、あの時の。」
「……奇遇ですね。」
鈍色に光る甲冑を身に付けた騎士は、先日ベルフィーナの獲物を横取りした……否、助けようとしてくれた美青年だった。ただ、今日は隣にきらきらしい少年にも見えるような年齢の子と、後ろにも同じ鎧を着た一団を引き連れていた。
「レイヴィス、知り合いか?」
「……少し前に、居合わせたというか、何といいますか……、」
口ごもる青年に話しかける少年は、まるで黄金を溶かしたような金髪で、クセのある髪はゆるりと顔にかかり、その可愛らしい顔の造詣も相まって天使のようだ。格好は騎士のように重々しいが、一際高級そうなそれと、歳上の騎士に対する態度を見れば、この騎士団は少年に付けられたものなのだろう。
そんな会話を横目に淡々とオークの急所を切り取り、収納していく作業を続けていると、思わぬ声がかかった。
「あれー!ベルじゃん!こないだぶり!無事帰れたみたいでよかった!」
「……ダグラス?」
集団から転がるように飛び出してきたのは、酒場で知り合った色男だった。甲冑も難なく着こなしているのは流石だ。
「ダグラス、こんにちは。さようなら。」
にこりと笑ってさっさと去ろうとしたベルフィーナを、ダグラスは慌てて止める。収納も終わったし、もうこの場に用は無いのに。
「……何?」
「あー、うー、ん、えっと。ここにいたオークは……ベルが討伐したの?巣……だったよね?」
おそらく背後の人物の聞きたい事を、空気を多分に読んだダグラス。ベルフィーナは見れば分かることを、とも思いながら、慎重に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そうね。普通に依頼を受付して、判子も貰って、討伐して、ここから離れようかなと思うけど、何か問題が?」
「ないです!」
ベルフィーナの警戒心を理解して、ダグラスは勢いよく肯定する。手続きになんら問題はなかった。
「確かに、女性冒険者が一人、この塩漬け案件を受けたとは聞いた。念の為状況を確認させて欲しい。……その、足を止めてしまって申し訳ないが。」
「ああ、塩漬けになっている案件を解消にいらした方達なのね。申し訳ありません、横取りしてしまいましたか?」
無意識に嫌味な言い回しが身についてしまっている自分を自覚し、口に出してからベルフィーナは後悔した。ダグラスとの会話に入ってきた美青年が、僅かに眉を下げたからだ。……彼は何も悪くないのに。
「いいえ、このピーチパークに、貴女程凄腕の冒険者殿がいるという情報を掴めなかった、我々の手落ちなので。」
そう言って真摯に話を聞こうとする美青年の姿勢に、ベルフィーナは素直に話をする気になり、状況を話す。
把握した時にいたオークは35体で、一体も逃さずに倒したこと。多少強靭な個体はいたものの、姿形を変える程の個体はいなかったこと。オーク以外の生命反応は無いものの、彼らの住居の中は確認したくなかった為まだ見ていないこと。
オークは他種の雌を見ると子種を植え付ける本能が働くので有名な魔物。ベルフィーナには、住居の中を確認する勇気は無かった。街に帰ってから、ギルドに報告すれば誰か確認するだろうと他力本願な思いを、この、年の変わらなさそうな青年に打ち明けるのは躊躇した。
「……よく分かった。内部は我々で処理しよう。女性には辛いものがあるかもしれない。」
「……宜しくお願いします。すみません、貴方がたも見たい物ではないとは思うのですが……。」
「話は終わったかな?あの、ベルさん、でしたか。貴女は貴族でしょう?」
横からぴょこ、と首を傾げる少年に、ベルフィーナは遠い目をした。冒険者への詮索はルール違反というのはダグラスは分かっていたが、その主らしき少年は無邪気に踏み入るようだ。
「私が貴族なのか平民なのかは、この、オーク集落の討伐に関係はないことと思います。ええと……騎士様。それでは、私はまだ依頼を受けていますので、」
「た、たしかにそうですね……、ご協力ありがとうございました。ベルさん。」
美少年はぱちくりと大きな瞳を見開き、恥いった様子で見送ってくれた。まだ名乗られていない為、無礼な言い方もお咎めはないようだ。
……素直な主人なのね、とベルフィーナはニコリと上辺だけの微笑みを返し、レイヴィスと呼ばれた美青年と、話したりなさそうなダグラスを残して、この場から逃げるように去った。
「……すっごい美人だったね、レイヴィス、ダグラス。」
「ええ。間違いなく貴族令嬢でしょうね、あの物腰、気品。」
「それにあのオーク、35体を、何でもない風に空間収納してた。凄腕の上に、魔力量も桁外れだね、彼女。」
「先日会った時に、一日で下級から中級に上がったと言っていましたよ……目の前で見て納得しました」
ダグラスは感嘆のため息を吐く。
「……はーっ、あんな美しくて、強くて、ボクはともかく、レイヴィスやダグラスに見向きもしない女性がいるなんて。……辺境に来て良かった。世界が広がったよ。」
「で、殿下……、ちょっと傷付きますよ、見向きもしないなんて……。ンン、視界には入ってると……思うけど。」
「……(名前を聞かれもしなかったな……)。」
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