【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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番外編

10 子作り 後 ※産卵表現あり

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「ぐっ、あ、ああああっ!」

「しっかり~!シュリちゃん、力は抜いてね~」


ユエラ様ののんびりした声がけに、応えられる余裕はない。

重たく、大きく、こごった魔力の塊が、僕の腹から下腹の方に、痛みを伴って、ゆっくり、ゆっくりと移動している。何時間も前からずっと。


身体を、内臓を引き裂かれるような痛み。魔力を根こそぎ引き剥がすように奪われていく痛み。
全身から汗を噴き出し、叫び、筋肉を硬直させながら、いきむ!


「………っ!」


ぽんっ。

ユエラ様に向けたお尻から、出た。はぁ、はぁ、とぐったり脱力する。

はぁ、やっと、出た。


ユエラ様がすぐに見せてくれたのは、片手のひらに包めるくらいの卵。この中に、赤ちゃんが。

最高級のふわふわの毛布に包まれた、やや銀色の卵。満身創痍の力の入らない手を、震えながらでも当てる。卵の中の、赤ちゃんを応援するために。
クライヴ様も、緊張した面持ちで手を添えて、安心させるように声をかけている。


「がんばれ……」


むく。むく。


「お疲れ様、赤ちゃんがんばれ~、あと少し!ここまできたら、もうすぐ会えるよ~」


ユエラ様が声援しつつ、カチャカチャ、受け入れ準備をしていた。

これまで蓄えてきた魔力で、あっという間に成長する卵は、もう片手には乗り切れない大きさとなって、ようやく大きくなるのをやめた。そして、ピシリとヒビが入る。


「さ、シュリちゃん。顔近づけておいて。ぼくは一旦離れておくからね」

「は、はい……!」


ピシ。ピシ。……バリン!

卵が割れた。
中には、伸びをした赤子。ほにゃあ、ほにゃあと泣いている。


「……っ!」


声が出なかった。視界がぼやけて、はっきり見れない。


「やっとあえたね……」


しわくちゃで、ちっちゃくて、可愛い、僕たちの赤ちゃん。
ユエラ様が、赤子をそっと取り上げて、卵の中を満たしていた白い液でぬるぬるしている身体を拭く。そして、僕に渡してくるのだ。

恐る恐る胸に抱く。なんて、軽い。けれど、ちゃんと、生きて、呼吸をしている。

クライヴ様も、涙を一筋、流していた。ぎこちなく赤ちゃんを抱いて、また、泣いている。


「ありがとう、シュリエル。よく、頑張ってくれた。俺たちの子供を産んでくれた……」

「はい。僕たちの、子供、ですね」


顔立ちはクライヴ様に瓜二つ。とてもいい男になりそうな赤ちゃんだ。黒髪の中に、一房だけ、銀髪が混じっている。

僕たちはその子を、リュウと名付けた。









それにしても本当に美しい赤ちゃんだ。
肌は真っ白で僕似。瞳は金色のクライヴ様似。
高いお鼻もクライヴ様似で、爪の形は僕似かな。


リュウに与えるお乳は山羊のミルク。僕は産後一ヶ月は立たないようにと言われているから、主にクライヴ様がミルクを与えるのだけど、慣れないながらもミルクを飲ませるクライヴ様が、可愛くて微笑ましくて。
にこにこと見つめている僕に気付くと、照れ臭そうにキスで誤魔化そうとしてくる。リュウにデレデレしているのも、僕は格好いいと思うのだけど、本人としては恥ずかしいのだそう。


もう水属性魔法も解禁だけど、赤ちゃんに対してはあまり使わない方がいいらしい。免疫を付けるためだとか何とかで、魔法を使わずにお尻を拭いたりしている。浄化は得意分野でも、ほとんど出番は無かった。



ジタリヤ様は、悶絶しながらお世話をしてくださる。すっごい可愛いから分かる。こんなに慈愛に満ちた笑顔のジタリヤ様もあまり見なかった。『ニヤニヤ』という種類ではない笑顔だ。


ユエラ様も、モーリス様も、とろけるような笑顔でお世話してくださるから、僕も嬉しくてにこにこしてしまう。孫みたいなものだって仰っていた。

皆んな夜間の呼び出し(リュウの)にも我先にと飛び出す始末で、シフト制になった。もちろん、日中は僕がべったりと離さないけどね。皆んなのおかげで、僕は寝不足になることなく、身体の回復に努められた。


女性と違って身体の変化は少ない。腹は物理的には大きくならないし、卵を産んだといっても、その、クライヴ様のあれよりもサイズ的には小さい。

しかし、著しい魔力の増減に、身体が慣れるのに時間がかかるのだ。

酔った時のような、ぐらぐらと平衡感覚が狂うような感覚だ。それも、一ヶ月安静にしているうちに落ち着いて、僕はようやく完全に復活した。


「はぁ……可愛い。可愛いなぁ」


リュウのおてては、僕の小指を一生懸命ぎゅっと握った。それだけで手のひらいっぱいを使ってしまうくらい、小さい手。食べてしまいたいくらいに可愛らしい。


「本当に……そうしていると、女神が天使を抱いているようだな。クラリッサ殿に描いてもらうか……」

「女神ではないですが、天使は天使ですね。僕もその案に賛成です」


家族の肖像画、かぁ。とてもいい。リュウもふくふくと肉がついてきたし、そろそろ外気に当てても大丈夫な頃だ。

ところで、ユエラ様とモーリス様はいつまで居て下さるのだろう?


「ああ、そうだねぇ。リューちゃんが一歳ごろになるまでは居させてもらおうかなぁ。こんなちいちゃい時期を一緒に過ごせる機会はもう、なかなか無いからねぇ」

「僕たちは全く問題ありませんよ。ねぇ、クライヴ様」

「もちろんだ。世話になる大人が多いほどリュウには良い環境となるだろう。それも、信頼できる大人に、だ」

「であればお言葉に甘えて。よかったな、ユエラ」


モーリス様が、ニッと笑ってユエラ様の肩を抱く。恥ずかしそうに笑うユエラ様が可愛い。



その後ほどなくしてクラリッサ様が(とマリー様と、呼んで無いけれどコリン様も)来訪して、様々なパターンで姿絵を描いて下さった。

リュウだけ。
リュウと僕。
リュウと僕とクライヴ様。
それにプラスして、ジタリヤ様、ユエラ様、モーリス様。

悪戯心が疼いたのか、更に、クラリッサ様とマリー様とコリン様も加わった絵も、完成品の中に紛れていて、それが、とても良かった。

皆んな笑顔で輝いていて、僕もとても幸せそうで。
それは事実、僕たちが幸せだから。


「……幸せ、ですね」

「ああ。最高に。これが気に入ったのなら、玄関に飾ろうか」

「はい!あ、でも、これとは別に、アランたちとも描いて欲しくなってしまいました。今度は……」

「ふぇぇ……」

「ああ、リュウ。待って……あっ、臭、あーっ!」

「落ち着け、シュリエル。…っリュウ、背中!」



……ちょっと、大変だけど。







番外編・完





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感想 194

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みんなの感想(194件)

キース
2024.11.28 キース
ネタバレ含む
2024.11.29 カシナシ

キース様、感想ありがとうございます!
最悪なゴミ二匹でしたね。シュリエル、トラウマにはなると思います。心の傷も含めてクライヴに愛されて、死守されて欲しいですね|・ω・`)

解除
にんじん
2024.05.04 にんじん

ほんとに面白くて大好きな作品です!幸せになってよかった…!ありがとうございます!!

2024.05.05 カシナシ

にんじん様、感想ありがとうございます!
そのように言って頂けるとめちゃくちゃ嬉しいです!こここちらこそありがとうございます〜!´∀`*)

解除
シノア
2023.08.27 シノア

ごめんなさい、一気読みして尊すぎて
作者様を混乱させるようなコメをしてしまいました(ー ー;)

2023.08.27 カシナシ

シノア様、感想ありがとうございます!
イエイエイエイエ、尊いだなんて光栄です!とても心温まるお言葉、ありがとうございます。励みになります!(*´艸`*)

解除

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