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本編
48 婚姻式
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一日寝込んだ次の日は、予定通り、婚姻式。
晴れやかな空が、僕とクライヴ様をお祝いしてくれているようだ。
そんな空の下、僕は水の聖者として新しく誂えた白と水色の神官服を纏い、クライヴ様は黒い軍服を着ている。
スッキリとしたシルエットの軍服は、光沢のないマットな質感で、艶々の黒髪を際立たせており、初めて会った時のことを思い出す。
あの時は少し怖いと思っていたクライヴ様。今は蕩けるほど甘い笑顔で僕を見つめてくれている。
姿かたち全てが腰が抜けそうなほど格好良くて、もう、本当、一生見ていられる。
式、と言っても大袈裟なものではない。
ちょっとした祖国の枢機卿と、懐かしの神官を呼んで、その前で婚姻の書面にサインをする。
ルルーガレスから来た、僕の親がわりの枢機卿と、ラウラディアの枢機卿が並んでいるのは、結構……豪華なのかもしれない。
もう、誰が、何を言おうと、何をしようと、絶対にこの婚姻は覆らない。そんな気がして嬉しい。
かけつけてくれた人たち皆に、最高の感謝と祝福を込めて、全体に浄化をかける。
まるで教会そのものが光り輝いているように、晴天に星屑が瞬いた。
「おめでとう~~っ!シュリエル、きれいだよぉおおお」
「ふふっ、ありがとう、アラン」
久しぶりに会えたアランは相変わらずドジっ子で、何もないところで躓きそうになる度に、ハクがにゅっと掴んで支えていた。
この光景も久しぶりに見れて和む。
まぁ、彼、ハクがいると余計気を抜いてダメになってしまうのだけど。いつか彼自身も面倒見の良い従魔を得られるといいと思う。
「僕も早くこっちに異動したいんだけどね。お婆ちゃんたちが大変で……」
「アランは人気者だものね。でも、いずれは来るのでしょう?とっても楽しみにしてる」
マダムからの絶大な人気を誇るアランは、ラウラディアにいきなり移っては寿命が縮むと泣きつかれたみたい。盛大な送別会をしてから、こちらで幼年の水の巫子候補生たちへ指導する、教育者になるという。
僕にとってはみんな家族のようなものだから、みんなニコニコと微笑ましい様子で祝ってくれるのが嬉しい。
そう思うと、婚姻を早めたことで皆と触れ合える機会を設けられたのだから、逆に良かったのかもしれない。
こうして皆と笑い合えるほどに回復したのは、一晩、クライヴ様によって甘やかされ、寝かしつけまでしていただけたおかげ。
僕にとっての最高のお薬は、クライヴ様だった。
その後はクライヴ様と一緒に、精霊の森へと入った。ルルーガレスだけではなく、ここラウラディアにも聖域がある。
僕と手を繋いでいれば、クライヴ様も迷うことは絶対にないし、そうでなくとも、クライヴ様なら大丈夫だと確信している。
精霊たちに招かれてたどり着いたのは、やっぱりあの湖。
国が違うのに、この湖は全く同じように見えるのが神秘だ。この湖の底は、リュミクス神様に繋がっているのだと、今の僕なら分かっている。
「リュミクス神様。シュリエルです。この度、こちらの素敵な方と婚姻しました。その節はどうもありがとうございました……」
「ラウラディア王国第二王子、クライヴ・ルイ・ラウラディアと申す。全身全霊をかけて貴方の愛子、シュリエルを愛し慈しむと誓う。どうか、大切なシュリエルを預からせて頂く光栄を」
なんか、僕の挨拶と違う。クライヴ様と比べると親戚に挨拶しているみたいで急に恥ずかしい。
顔を赤くした僕は、しかし、パッと目の前が光るので俯いている場合ではなかった。
湖の水面が光り輝き、水飛沫をあげて、舞い上がる。僕とクライヴ様を祝福するように、キラキラと陽の光を乱反射させながら舞っていた。
「わ……!」
「見事……!」
その清らかな水飛沫は、僕たちを全身ずぶ濡れになるまで容赦なく降らせてくる。
んん、でも気持ち良い。すっかり濡れ鼠になった後は、優しい風がフッと吹いて、瞬時に乾いていた。
あの、僕を撫でてくれた柔らかな葉を思い出す。
リュミクス神様が、清めてくれたに違いない。
僕は深く頭を下げ、魔力を込めた水を厳かに湖に注いだ。
感謝を込めて。
晴れやかな空が、僕とクライヴ様をお祝いしてくれているようだ。
そんな空の下、僕は水の聖者として新しく誂えた白と水色の神官服を纏い、クライヴ様は黒い軍服を着ている。
スッキリとしたシルエットの軍服は、光沢のないマットな質感で、艶々の黒髪を際立たせており、初めて会った時のことを思い出す。
あの時は少し怖いと思っていたクライヴ様。今は蕩けるほど甘い笑顔で僕を見つめてくれている。
姿かたち全てが腰が抜けそうなほど格好良くて、もう、本当、一生見ていられる。
式、と言っても大袈裟なものではない。
ちょっとした祖国の枢機卿と、懐かしの神官を呼んで、その前で婚姻の書面にサインをする。
ルルーガレスから来た、僕の親がわりの枢機卿と、ラウラディアの枢機卿が並んでいるのは、結構……豪華なのかもしれない。
もう、誰が、何を言おうと、何をしようと、絶対にこの婚姻は覆らない。そんな気がして嬉しい。
かけつけてくれた人たち皆に、最高の感謝と祝福を込めて、全体に浄化をかける。
まるで教会そのものが光り輝いているように、晴天に星屑が瞬いた。
「おめでとう~~っ!シュリエル、きれいだよぉおおお」
「ふふっ、ありがとう、アラン」
久しぶりに会えたアランは相変わらずドジっ子で、何もないところで躓きそうになる度に、ハクがにゅっと掴んで支えていた。
この光景も久しぶりに見れて和む。
まぁ、彼、ハクがいると余計気を抜いてダメになってしまうのだけど。いつか彼自身も面倒見の良い従魔を得られるといいと思う。
「僕も早くこっちに異動したいんだけどね。お婆ちゃんたちが大変で……」
「アランは人気者だものね。でも、いずれは来るのでしょう?とっても楽しみにしてる」
マダムからの絶大な人気を誇るアランは、ラウラディアにいきなり移っては寿命が縮むと泣きつかれたみたい。盛大な送別会をしてから、こちらで幼年の水の巫子候補生たちへ指導する、教育者になるという。
僕にとってはみんな家族のようなものだから、みんなニコニコと微笑ましい様子で祝ってくれるのが嬉しい。
そう思うと、婚姻を早めたことで皆と触れ合える機会を設けられたのだから、逆に良かったのかもしれない。
こうして皆と笑い合えるほどに回復したのは、一晩、クライヴ様によって甘やかされ、寝かしつけまでしていただけたおかげ。
僕にとっての最高のお薬は、クライヴ様だった。
その後はクライヴ様と一緒に、精霊の森へと入った。ルルーガレスだけではなく、ここラウラディアにも聖域がある。
僕と手を繋いでいれば、クライヴ様も迷うことは絶対にないし、そうでなくとも、クライヴ様なら大丈夫だと確信している。
精霊たちに招かれてたどり着いたのは、やっぱりあの湖。
国が違うのに、この湖は全く同じように見えるのが神秘だ。この湖の底は、リュミクス神様に繋がっているのだと、今の僕なら分かっている。
「リュミクス神様。シュリエルです。この度、こちらの素敵な方と婚姻しました。その節はどうもありがとうございました……」
「ラウラディア王国第二王子、クライヴ・ルイ・ラウラディアと申す。全身全霊をかけて貴方の愛子、シュリエルを愛し慈しむと誓う。どうか、大切なシュリエルを預からせて頂く光栄を」
なんか、僕の挨拶と違う。クライヴ様と比べると親戚に挨拶しているみたいで急に恥ずかしい。
顔を赤くした僕は、しかし、パッと目の前が光るので俯いている場合ではなかった。
湖の水面が光り輝き、水飛沫をあげて、舞い上がる。僕とクライヴ様を祝福するように、キラキラと陽の光を乱反射させながら舞っていた。
「わ……!」
「見事……!」
その清らかな水飛沫は、僕たちを全身ずぶ濡れになるまで容赦なく降らせてくる。
んん、でも気持ち良い。すっかり濡れ鼠になった後は、優しい風がフッと吹いて、瞬時に乾いていた。
あの、僕を撫でてくれた柔らかな葉を思い出す。
リュミクス神様が、清めてくれたに違いない。
僕は深く頭を下げ、魔力を込めた水を厳かに湖に注いだ。
感謝を込めて。
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