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本編
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僕は、目下のところ、マリー嬢をどうにかするべきではないかと考えていた。
二回目のモデルをする場所は、花々の美しい中庭のベンチだった。
それはいい。いいのだけれど。
「これは……悪戯しがいのある……」
クライヴ様のお膝に乗せて頂いている僕は、後ろから抱き締められている。モデルとしては笑顔を要求されているが、赤面しておろおろしている状況。
マリー嬢はものすごくいい笑顔で監督をしていた。僕らの周りをちょこまかと動いて服や髪を整えたり、僕の熱った顔を仰いだり。
「あっ、その潤んだ瞳も最高です!」
「真っ赤なお顔……可愛い……」
「殿下のお顔が良すぎて……ああんっ……!」
時折ぼそぼそと聞こえる声は、少し距離を離して、集まっている生徒たちから。全然隠しきれていない草の中から僕らを覗いているのだ。
マリー嬢とクラリッサ嬢は『信者です!』と言うけれど……少しばかり、扇動していないだろうか?
「クライヴ様……、その、人数が多すぎやしませんか?僕、落ち着きません……!」
「……この姿を描かせたら、すぐに終了しよう。君がそれほど恥じらうとは。ただ、座っているだけなのに」
「だっ、だって……、~~が!」
そう。ピッタリと密着した腰に、硬く大きな異物が当たって……否、当てられている。
「想像したのか?これを、ここに、挿れられているのを」
クライヴ様は、わざと耳元で囁きながら、僕の下腹を撫でる。
もう、ぞわぞわして……っ!
「……っ!前回、適切な距離を取ると仰っていたではないですか……!」
くつくつと笑うクライヴ様が、格好良すぎて直視できない。
耳を擽るように際どい言葉を囁かれたり、匂いを嗅がれたり、首筋にささやかすぎる愛撫をされたり。
後ろの人がやりたい放題なのですが、マリー嬢!
やっと解放された時には、僕はくたくたになっていた。
「暫く休んでいくか」
「は、はい……ジタリヤ様……」
「ええ、人払いですね。おまかせを」
瞬く間に人が散っていき、ふうと息を吐く。
薬草茶を淹れて回復を図る。ふと気がつけば、隣に座っていたクライヴ様のお手が髪に触れていた。
「……?」
「君の茶は漲るようだな。味も好みだ。俺を考えながら淹れてくれたのか?」
「あっ……はい!あ、ありがとうございます!」
「礼を言うのは俺の方だろう。感謝する」
クライヴ様はとてもお優しい目をして、頭を撫でつつ、額に口付けを落としてくれる。はあ、幸せ。
捧げた愛情に見返りを要求している訳ではないけれど、こうして気付いてくれて、労わってくれると報われるような気がする。
豊穣の水を与えられた緑や大地のように。
クライヴ様から、心の栄養を頂いている心地だ。
満ち足りた気分で喉を潤していると、クラリッサ嬢が風のようにささっとやって来て、先程描きあげたものの下絵を僕たちに見せてくれた。
前回のものも素晴らしかったけれど、たった数ヶ月で見違えるほど腕を上げていっている。途中にも関わらず、完成度の高さを期待してしまう程。
「素晴らしい絵になりそうですね、クラリッサ嬢。ありがとうございます。完成するのが待ち遠しいです。どんどん思い出が増えて嬉しいですし……!」
「不肖クラリッサ、シュリエル様のそのお言葉のために生きているようなものですから……!」
「……?クラリッサ嬢はもっと多くの人に認められていいはずですよ。貴女の手にかかれば、こんな素敵な光景だったのかと驚きます」
そこには、後ろから抱きしめられて嬉しそうに照れる僕と、優しく穏やかそうなクライヴ様がいた。
本当は下半身のものを押し付けられていたなんて一ミリも匂わせないような、爽やかな絵。
……。うん、周りからはこのように見えていたのなら、いい。良かった、いかがわしい絵にならなそうで。
「ところでシュリエル様、次はこう、シーツの上で迫られているシュリエル様をテーマにしようと思うのですが」
「……それは……辞めておきましょう、マリー嬢。あまりに危険です」
「ええっ……、そこを何とか……!で、では、水に濡れたシュリエル様は……」
マリー嬢の頭の中の構想を現実にすると、また僕の頭が爆発しかねない。僕はもう少し穏やかな構図にするよう粘るのだが、何故かこの時ばかりはクライヴ様がマリー嬢の味方につくのだ。
そんな攻防は卒業まで続いた。
クライヴ様は僕と一緒に描かれているのを部屋に飾り、満足そうに眺めておられるのだが、たまに小さな紙片を覗いているのも知っている。クライヴ様もまた、いつかの誰かのようにミニシュリエルを持ち歩いているようだ。
本物が常に側にいるのに、と口を尖らせると、ちゅっと口付けをされるので、僕はもう許す選択肢しか持てないのだ。
二回目のモデルをする場所は、花々の美しい中庭のベンチだった。
それはいい。いいのだけれど。
「これは……悪戯しがいのある……」
クライヴ様のお膝に乗せて頂いている僕は、後ろから抱き締められている。モデルとしては笑顔を要求されているが、赤面しておろおろしている状況。
マリー嬢はものすごくいい笑顔で監督をしていた。僕らの周りをちょこまかと動いて服や髪を整えたり、僕の熱った顔を仰いだり。
「あっ、その潤んだ瞳も最高です!」
「真っ赤なお顔……可愛い……」
「殿下のお顔が良すぎて……ああんっ……!」
時折ぼそぼそと聞こえる声は、少し距離を離して、集まっている生徒たちから。全然隠しきれていない草の中から僕らを覗いているのだ。
マリー嬢とクラリッサ嬢は『信者です!』と言うけれど……少しばかり、扇動していないだろうか?
「クライヴ様……、その、人数が多すぎやしませんか?僕、落ち着きません……!」
「……この姿を描かせたら、すぐに終了しよう。君がそれほど恥じらうとは。ただ、座っているだけなのに」
「だっ、だって……、~~が!」
そう。ピッタリと密着した腰に、硬く大きな異物が当たって……否、当てられている。
「想像したのか?これを、ここに、挿れられているのを」
クライヴ様は、わざと耳元で囁きながら、僕の下腹を撫でる。
もう、ぞわぞわして……っ!
「……っ!前回、適切な距離を取ると仰っていたではないですか……!」
くつくつと笑うクライヴ様が、格好良すぎて直視できない。
耳を擽るように際どい言葉を囁かれたり、匂いを嗅がれたり、首筋にささやかすぎる愛撫をされたり。
後ろの人がやりたい放題なのですが、マリー嬢!
やっと解放された時には、僕はくたくたになっていた。
「暫く休んでいくか」
「は、はい……ジタリヤ様……」
「ええ、人払いですね。おまかせを」
瞬く間に人が散っていき、ふうと息を吐く。
薬草茶を淹れて回復を図る。ふと気がつけば、隣に座っていたクライヴ様のお手が髪に触れていた。
「……?」
「君の茶は漲るようだな。味も好みだ。俺を考えながら淹れてくれたのか?」
「あっ……はい!あ、ありがとうございます!」
「礼を言うのは俺の方だろう。感謝する」
クライヴ様はとてもお優しい目をして、頭を撫でつつ、額に口付けを落としてくれる。はあ、幸せ。
捧げた愛情に見返りを要求している訳ではないけれど、こうして気付いてくれて、労わってくれると報われるような気がする。
豊穣の水を与えられた緑や大地のように。
クライヴ様から、心の栄養を頂いている心地だ。
満ち足りた気分で喉を潤していると、クラリッサ嬢が風のようにささっとやって来て、先程描きあげたものの下絵を僕たちに見せてくれた。
前回のものも素晴らしかったけれど、たった数ヶ月で見違えるほど腕を上げていっている。途中にも関わらず、完成度の高さを期待してしまう程。
「素晴らしい絵になりそうですね、クラリッサ嬢。ありがとうございます。完成するのが待ち遠しいです。どんどん思い出が増えて嬉しいですし……!」
「不肖クラリッサ、シュリエル様のそのお言葉のために生きているようなものですから……!」
「……?クラリッサ嬢はもっと多くの人に認められていいはずですよ。貴女の手にかかれば、こんな素敵な光景だったのかと驚きます」
そこには、後ろから抱きしめられて嬉しそうに照れる僕と、優しく穏やかそうなクライヴ様がいた。
本当は下半身のものを押し付けられていたなんて一ミリも匂わせないような、爽やかな絵。
……。うん、周りからはこのように見えていたのなら、いい。良かった、いかがわしい絵にならなそうで。
「ところでシュリエル様、次はこう、シーツの上で迫られているシュリエル様をテーマにしようと思うのですが」
「……それは……辞めておきましょう、マリー嬢。あまりに危険です」
「ええっ……、そこを何とか……!で、では、水に濡れたシュリエル様は……」
マリー嬢の頭の中の構想を現実にすると、また僕の頭が爆発しかねない。僕はもう少し穏やかな構図にするよう粘るのだが、何故かこの時ばかりはクライヴ様がマリー嬢の味方につくのだ。
そんな攻防は卒業まで続いた。
クライヴ様は僕と一緒に描かれているのを部屋に飾り、満足そうに眺めておられるのだが、たまに小さな紙片を覗いているのも知っている。クライヴ様もまた、いつかの誰かのようにミニシュリエルを持ち歩いているようだ。
本物が常に側にいるのに、と口を尖らせると、ちゅっと口付けをされるので、僕はもう許す選択肢しか持てないのだ。
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