【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

文字の大きさ
上 下
39 / 72
本編

38

しおりを挟む

「ふう……」


少し行儀は悪いけれど、肘をついた手に顎を乗せて、ため息を吐く。
周りからも同じようにため息をつく声が聞こえた。皆んな、僕と同じように寝不足なのだろうか。


クライヴ様とたくさん触れ合った次の日は、基本的に寝不足である。


どうも、腰についている未熟な息子が昂って痛くて、悶々としてしまう。

放っておけば治ると知っているのに、頭に思い浮かぶのは、僕に覆い被さるクライヴ様のこと。
爛々と光る獣のような金眼が、普段冷静そのもののクライヴ様と違って、とても本能的で、とても、いい。

激しくなる口付けや、肌を這い回る器用な手なんかを思い出すと、全く、眠気なんて吹き飛んでしまうのだ。

ようやくとろとろと眠れたのが、空の白み始める頃、なんてのも、最近じゃ珍しく無い。


「シュリエル様。朝から危険物振り撒くのは勘弁して下さい」

「ジタリヤ様……?」

「シュリエル様のせいでは無いと分かってますけどねぇ……全く、あの男は」


今日はクライヴ様はご公務があるとかで休み。
ジタリヤ様は僕を守る!と意気込んでいるけれど、本来クライヴ様の側にいるべきなのだから大変申し訳ない。

しかし。そんな素晴らしいタイミングを、僕は逃すことはしない。


「そうだ、ジタリヤ様。放課後、時間はありますか?相談したいことが……」

「勿論大丈夫です。ああ、ええと、本当、ボクが刺されそう……」


何故だろう?
内容が内容なだけに、頬を赤らめてしまった僕を、隠すように上着をかけられてしまった。







待ちに待った放課後。僕の部屋でもジタリヤ様の部屋でもダメだと言う事で、勝手にクライヴ様のお部屋にお邪魔している。

持ち主がいないのにいいのかと聞けば、ジタリヤ様は側近として合鍵を持っているし、僕も婚約者だから問題ないらしい。


「それで、ご相談とは?」

「あっ、ええと、その、まずは以前お借りした本を……ありがとうございました。お返し、しますね」


愛用の鞄から丁寧に取り出して渡す。どれもこれも何回も読み尽くしてしまった。僕にはまだ早いと思っていた、過激な恋愛物語。

でも、クライヴ様と触れ合い始めて、そう遠く無く自分に降りかかる出来事なのだと認識し直した。

だから、その、顔が赤くなるのは仕方のないこと。
ジタリヤ様にお願いしなくては、前へ進めない。


「ちゃんと読みました?」


にやにやと笑うジタリヤ様に、僕は意識して真顔を作る。元・王太子妃を目指していた身だ。
頬は霧化した冷水で少し冷やせばいい。


「はい。とても面白かったです。新たな世界を開いたようで」

「うわっ、急に真顔にならないでくださいよ。なんですか」

「その、困ったことに、比喩表現が多くて、分かりづらかったことがありまして。もっと、具体的な行為を解説した本などがあれば、貸して頂けないかと」

「ふむ?ふむふむふむ?はぁ~なるほど……?」

「その、男同士で……する時に、絶対、何か準備が必要、ですよね?それから、必要な道具とか、後片付けとか……」

「何を話しているんだ?」

「ピャッ」


ぽん、と肩に置かれた手に、文字通り飛び上がる。せっかく付けた貴族の仮面があっという間に消し飛んだ。

何故こんな早くに、とか、こんな至近距離になるまで気付かなかったとか、考える余裕はなかった。

もしかして会話を聞かれていたのかもしれないと、みるみる顔を赤くした僕に、クライヴ様は訝しみ、ジタリヤ様を睨む。
ジタリヤ様は両手を振って、ぷるぷると顔と手を横へ振った。


「ち、違う違う!冤罪です!やましいことはないですから!しゅ、シュリエル様は相談があったようでして……!」

「相談?シュリエル、俺では乗れない相談なのか?ジタリヤの方が適任だと?」


クライヴ様の目つきが鋭い。すっぽりと腕の中に抱き込まれ、顔を逸らせない。
ヤバイ。怒ってる?そんな、クライヴ様を頼れない男と思ったことはないのに。

パタン、と扉の閉まる音がして、ジタリヤ様が逃げたのを知る。くうう、さすが側近、優秀な逃げ足だ。

僕は観念した。


「その……………………この先、どんな困難が待ち受けるのか、知らないままなのは、怖かったのです…………」

「困難とは?」

「く、クライヴ様との触れ合いで……っ、準備、と仰ったでしょう?」


疑問符に囲まれたような顔をするクライヴ様。

僕は、知っているのだ。
婚約したということは、婚姻すること。
そして、夫婦の生活があるということ。

つまり、『接合』するのだ。
ディルク殿下とプリシラ嬢がしていたように。
……あれは男女のものだったけれど。

男同士は、妊娠薬を飲まなければ子を孕まないけれど、『接合』は愛を確かめる行為。
それはジタリヤ様に借りた恋愛物語でも、そう描かれている。


僕とクライヴ様の体格から、恐らく僕は抱かれる側だろう。それはディルク殿下と婚約していた時から覚悟はしていた。

しかし、問題がある。男同士で接合するには、僕の体には穴が一つしかない。
そしてそこは出口であり、決して入り口ではないのだ。

そこを入り口たらしめるには、絶対に何かが必要なのだが、それについて言及した物語は無かった。


僕は困った。


まさか、クライヴ様に何かさせる?いやいや、そんな事出来るはずがない。不浄の場所だ。自分でなんとかしないと。下半身はあまりよく見て欲しくない、という事情もある。

それに、もしかしたらクライヴ様は抱く側だから、そっちの知識はないかもしれない。

だから恥を忍んでジタリヤ様に聞いたのだ。手慣れていそうな彼ならば、さらっと教えてくれるのでは、と思って。……失敗したけど。


「準備、とは、僕の身体の準備、ですよね?ならば、知識だけでも先に仕入れていたくて。」

「それも、俺がする予定だ。言っただろう、シュリエルの閨教育は俺がすると」

「で、ですが!」

「しかし、不安にさせたのなら悪かった。そうだな、今日は……そちらの準備を、進めていこうか」


クライヴ様は、慄く僕の顔を見て、ニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...