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本編

61 ジョスリンside

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 『ゴミはゴミ箱にね』といった具合に、シオンによって手早く転移で帰国させられたジョスリンは、沈痛な面持ちをした兄の隣で、くうを睨みながら考え込んでいた。いくら考えても、自身の完璧な計画が、どこで崩れたのか、今だに分からない。

 ジョスリンには、『膨張』という、王族に相応しい稀有なスキルがあった。物を単純に増やすことが出来るため、高価な宝石を大きくしたり、貴重なエリクサーを増やしたりと、帝国の財政にほんの少し、貢献していた。

『ほんの少し』なのは、魔力量が少ないために1日に、手のひら一杯分くらいしか増やせないからだ。それでもジョスリンは過剰に褒めそやされてきた。帝王である父に愛されていることもあって、自分は帝国になくてはならない存在だと、自負していた。だから、いつだって自信満々で、大抵のものは手に入ると思いこんでいた。




 今回媚薬を持ってこれたのも、万一気に入った殿方がいれば、というお守りで、常に身につけていたもの。見た目は大きな宝石のブローチに見えるが、内部が空洞で、ほんの少しの、高濃度の媚薬が入っていた。

 それをぎゅっと胸の谷間に隠せば、関所も難なく通れた。あとはそれを、『膨張』のスキルで増やせばいい。

 この、自分のスキルを誇らしげに語ったせいで、これ以上ない自白をしてしまったなんて、ジョスリンはまだ気づいていなかった。












 初めてグロリアスを見て、それから、大事そうに側に置かれていたシオンの、髪飾りを見た時に、ジョスリンはもう、欲しくて欲しくて堪らなくなってしまった。

 各国まとめても二、三枚出回れば豊作の年と言われる、貴重な竜の鱗。それも、金箔のようなきらきらした模様の入った鱗は、あらゆる竜の鱗を所持していたジョスリンでも、持っていなかった。

(欲しい。絶対に手に入れるわ……!)

 兄からよく聞く、竜化のスキルを持つ稀有な友人。グロリアスこそ、その鱗の持ち主であることは、すぐに分かった。

(あの人に愛されれば、あの素敵な髪飾りも、それ以上の竜の鱗だって、望みのままよ……!)

 ジョスリンですら敵わないと敗北を認めてしまうような神がかった容姿に、先王であり、領地を持たない気楽な公爵。確か救世主の名前は、ミルヴァン公爵だった――――と、ジョスリンは、グロリアスだけが救世主で、儚げな猫耳男シオンはお荷物の妻だと、思い込んだ。

 それから猛烈なアピールを繰り返すも、グロリアスは中々落ちない。ジョスリンは自分に並々ならぬ自信を持っていたため、その冷たい態度が気に障り、『絶対に落としてやる』と躍起になった。

 ジョスリンはその胸や尻の脂肪に『膨張』を地道にかけ続け、最高の体――――と思っている――――を手に入れている。これで落ちなかった男はいない。誘惑し、ころりと落ちた男をポイッと捨てるのは、処女は守りたいジョスリンの遊び。

 婚約者?帝国からも王国からも遠い小さな国の王子のことなら、ジョスリンの言いなりになる下僕のような王子だ。多少ジョスリンが我儘を言ったところで、帝国の皇女と小国の公子とでは、立場が違う。文句など出ようもない。

 公子とも、遊びの男とも、グロリアスは違う。何もかも最高の男。落とせばお父様だってお兄様だって喜ぶに違いないのだからと、ジョスリンは本気を出した。

 連れてきた侍女に命じて、シオンの持つ髪飾りも狙ったが、惨敗。盗んだはいいものの、魔の刺した侍女が自身の髪に付けた所、スパッと髪が切れた上、髪飾りは溶けるように消えた。


(バカな子。最高級の品には、あると聞く仕様よ)


 最高級品、それも国宝になり得る物には、所有者を書き換えないといけないタイプの魔道具になっていることがある。ジョスリンでも、そのレベルのものは手にしたことがない。……益々、欲しくなってしまった。

 ジョスリンは、舌なめずりをして、あの髪飾りを付けた自分を思い浮かべ悦に浸った。










 ところが、ジョスリンの計画は上手くいかない。

 よくよく調査させて得た噂を広めるという、シオンを貶めて離縁させる作戦も失敗したため、とうとう、禁制品だと分かっていても、媚薬を使うことにした。


 ミルヴァン公爵夫妻を夜会へ呼び出し、媚薬入りのドリンクを飲ませる。どちらが飲んでも構わない。あるいは両方でも。

 シオンが飲めば、控え室に行くだろう。あらかじめ、性技に長けた専門の男を用意しておいた。グロリアスの気はジョスリンが引いておく。シオン一人になった所を襲い、不貞をさせればグロリアスだって冷めるだろう。

 もしグロリアスが飲んだら、ジョスリンが控え室に忍び込んでおけばいい。いくら頑ななグロリアスでも、ジョスリンの夜着姿を見れば、媚薬保険が無くてもイチコロに違いない。

 チョロチョロと目障りな王子とダンスをしながら、どちらなのかを見守っていれば、後者だと分かった。


(この王子、邪魔ね……いえ、使えるわ)


 ジョスリンは期待に胸を膨らませながら、グロリアスからシオンを引き剥がすため、王子を軽く脅しておいた。実際にシオンのことを他国へ言いふらす人脈も何もないが、帝国の父はジョスリンのために何とかしてくれるはずだし、最低限、時間稼ぎさえしてくれればいい。



(わたくしってば、策士にもなれてしまうのね……なんて最高の女なの)


 あとは既成事実を作る、だけだったはずなのに。


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