婚約破棄された銀の猫は、チートスキルと激甘伴侶をゲットしました

カシナシ

文字の大きさ
上 下
51 / 67
本編

51

しおりを挟む

 僕が慰み者になっていたことは、平民は知れるはずもないのに、何故?

 城へ転移をして、弟のいる所へ向かう。ディオンは良く市井に降りているから、知っているかもしれない。

「兄さん?どうしたの、何かあった?」
「ディオン……知ってた?」

 グロリアスの手を無意識に強く握りながら、先ほどあったことを話す。するとディオンは、苦虫を噛んだような顔をしていた。

「……うん、ごめん、兄さん。知ってた……、兄さんに知られる前に、何とかしようと思っていたのだけど、力不足で」
「そうだったの……、ごめん、手を煩わせて」

「違う!オレなんか、全然いい策を思い付けなくて。いくつか考えてみたけど……」
「ありがとう。考えてくれただけで嬉しい。言ってみて?」

 味方が一人いると思えるだけで、焦燥感は薄まっていく。もちろん、グロリアスも味方なんだけど、彼は割と冷酷な面があるから、極端な策を挙げやすい。その点、ディオンは堅実な発想をする。

「まず、運動施設周辺にあることで恩恵を受けているお店の人に、協力してもらう。利用者が減ると損をするのは彼らだから。で、何か上書き出来るような噂を流させればいいと思ったんだけど……」
「ど?」

「……多分、というか、出所は十中八九、貴族出身でしょ?だから、平民が何か言った所で打ち消されてしまう可能性が高い……と思う。彼らの身の安全も考えなきゃいけない。対抗する訳だから……」

 あとは、と続く。

「兄さんの施設に、複数の人の手を加えさせる。それか、有名な人に依頼して物凄く奇抜なデザインにしたりとか。とにかく、『変えた』と一目で分かるような変化をさせれば、兄さんの印象は薄まるかも、と」
「確かに。それなら、運動施設の利用率は戻るかもしれない」

 僕への誹謗中傷は別として、ね。それは今はいい。

「うん。でも、オレも見たけど、兄さんの施設は完成度が高すぎて、手を加えると逆に危険性が高まったり、問題が起こる可能性が高い。それをいちいち直したり試行錯誤する時間や資金を考えると……」
「ああ、そうだね。数ヶ月……、いや、数年かかりそうだ」

 僕のスキルでバババッと各所に多数、作ってしまっている。その時は『このくらい楽々!』と勢いよく作ったけれど、本来スキルのない人が作ろうとすると、かなりの時間を要する事業なのだ。

「これは……最後の案。出来ればやりたくないけど……兄さんの作った物ではなく、オレが作った、ということにする。この噂は、兄さんの、その、噂を否定するものではないから、比較的広めやすい。それに、施設にこれ以上の投資も不要。だけど」
「シオンの評価は著しく下がり、救世主としての立場は無くなるな」

 その通りだ。確かに有効な策だ。その案を捻出したあたり、ディオンは王子として成長しつつあるのだろう、と感心した。良い意味で。
 最小限の投資と犠牲で、最大限利益を回収。それは、必要なこと。問題は、犠牲となるのが僕だと言うこと。

 それをしてしまえば、僕は『弟の手柄を盗んだ救世主気取り』となる。全く他人より、実の弟という人選も、現実的にあり得そうだし。アバズレという噂も相まって、僕はこの国にいられなくなるだろうなぁ……。

「兄さん。ごめん、こんなことしか、平凡なオレには思い付かなくて……」
「ううん、僕も妥当だと思う。このこと、お父様は、知ってる?」

「まだ。父……陛下は、兄さんのあのことに関してはタブーだから。相当トラウマになっていて、恐怖政治になりかねないよ」

 うわぁ……、どうしよう。

 グロリアスは、一点を見つめたまま考え込み、そして、動いた。

「では、俺から陛下へ伝えよう。こういうことは、家族よりむしろ、シオンの夫である俺が言った方が良いと思うよ。ある種の仲間意識が働く」
「仲間?」

「愛しい者を守りたい、という」

 ぐぅっ……。

 あ、どうしよ。顔が見れないほどキュンときてしまった。
 思わず丸まった。今夜はサービスしよう。
 そう決めた僕の頭上で、ディオンが反発する。

「それなら、俺も同席します。俺も兄さんを大切に想う一人です!」
「それはおすすめしないよ。陛下にとって、ディオンくんも『愛しい者』だから。君の前では、陛下は少し、やりにくい」

「そんな訳……っ、」
「ディオン。ここは、グロリアスに任せよう?ほら、親心ってやつが、働いてしまうんだよ。でもね、ありがとう。僕はこんなに可愛い弟がいて幸せだから」

 ぎゅっ、とディオンを抱きしめると、大きくなった弟は『ふぎゅっ』と変な声を出して大人しくなった。

















 
 帰ってきたグロリアスを、エプロン姿で出迎える。気分は新婚さん。実際に新婚さんではあるけれど、普通公爵夫人がエプロンをつけることはないから、珍しいでしょう?

「おかえり、グロリアス。お父様とは話せた?」
「ああ。明日には解決するよ。ところで……なんて可愛らしい格好をしているの?」

「グロリアスに、異国のデザートを作っていたんだ。ちょっと失敗しちゃったけど」
「甘いシオンから、さらに甘い匂いがする」

「あ、だめだよ、汚れてるから」
「気にならない」

 僕の頭には、この国でも、この世界にも無い異国の知識が入っている。ニホンという国のものだ。

 それで再現してみたのは、食べやすい棒状のプレッツェルに、チョコレートをかけたもの。

 失敗してしまったのは、イメージより太くて硬くなってしまったんだ。うう……こればっかりは、シェフに頼めば良かった。




しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...