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本編
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しおりを挟む僕が慰み者になっていたことは、平民は知れるはずもないのに、何故?
城へ転移をして、弟のいる所へ向かう。ディオンは良く市井に降りているから、知っているかもしれない。
「兄さん?どうしたの、何かあった?」
「ディオン……知ってた?」
グロリアスの手を無意識に強く握りながら、先ほどあったことを話す。するとディオンは、苦虫を噛んだような顔をしていた。
「……うん、ごめん、兄さん。知ってた……、兄さんに知られる前に、何とかしようと思っていたのだけど、力不足で」
「そうだったの……、ごめん、手を煩わせて」
「違う!オレなんか、全然いい策を思い付けなくて。いくつか考えてみたけど……」
「ありがとう。考えてくれただけで嬉しい。言ってみて?」
味方が一人いると思えるだけで、焦燥感は薄まっていく。もちろん、グロリアスも味方なんだけど、彼は割と冷酷な面があるから、極端な策を挙げやすい。その点、ディオンは堅実な発想をする。
「まず、運動施設周辺にあることで恩恵を受けているお店の人に、協力してもらう。利用者が減ると損をするのは彼らだから。で、何か上書き出来るような噂を流させればいいと思ったんだけど……」
「ど?」
「……多分、というか、出所は十中八九、貴族出身でしょ?だから、平民が何か言った所で打ち消されてしまう可能性が高い……と思う。彼らの身の安全も考えなきゃいけない。対抗する訳だから……」
あとは、と続く。
「兄さんの施設に、複数の人の手を加えさせる。それか、有名な人に依頼して物凄く奇抜なデザインにしたりとか。とにかく、『変えた』と一目で分かるような変化をさせれば、兄さんの印象は薄まるかも、と」
「確かに。それなら、運動施設の利用率は戻るかもしれない」
僕への誹謗中傷は別として、ね。それは今はいい。
「うん。でも、オレも見たけど、兄さんの施設は完成度が高すぎて、手を加えると逆に危険性が高まったり、問題が起こる可能性が高い。それをいちいち直したり試行錯誤する時間や資金を考えると……」
「ああ、そうだね。数ヶ月……、いや、数年かかりそうだ」
僕のスキルでバババッと各所に多数、作ってしまっている。その時は『このくらい楽々!』と勢いよく作ったけれど、本来スキルのない人が作ろうとすると、かなりの時間を要する事業なのだ。
「これは……最後の案。出来ればやりたくないけど……兄さんの作った物ではなく、オレが作った、ということにする。この噂は、兄さんの、その、噂を否定するものではないから、比較的広めやすい。それに、施設にこれ以上の投資も不要。だけど」
「シオンの評価は著しく下がり、救世主としての立場は無くなるな」
その通りだ。確かに有効な策だ。その案を捻出したあたり、ディオンは王子として成長しつつあるのだろう、と感心した。良い意味で。
最小限の投資と犠牲で、最大限利益を回収。それは、必要なこと。問題は、犠牲となるのが僕だと言うこと。
それをしてしまえば、僕は『弟の手柄を盗んだ救世主気取り』となる。全く他人より、実の弟という人選も、現実的にあり得そうだし。アバズレという噂も相まって、僕はこの国にいられなくなるだろうなぁ……。
「兄さん。ごめん、こんなことしか、平凡なオレには思い付かなくて……」
「ううん、僕も妥当だと思う。このこと、お父様は、知ってる?」
「まだ。父……陛下は、兄さんのあのことに関してはタブーだから。相当トラウマになっていて、恐怖政治になりかねないよ」
うわぁ……、どうしよう。
グロリアスは、一点を見つめたまま考え込み、そして、動いた。
「では、俺から陛下へ伝えよう。こういうことは、家族よりむしろ、シオンの夫である俺が言った方が良いと思うよ。ある種の仲間意識が働く」
「仲間?」
「愛しい者を守りたい、という」
ぐぅっ……。
あ、どうしよ。顔が見れないほどキュンときてしまった。
思わず丸まった。今夜はサービスしよう。
そう決めた僕の頭上で、ディオンが反発する。
「それなら、俺も同席します。俺も兄さんを大切に想う一人です!」
「それはおすすめしないよ。陛下にとって、ディオンくんも『愛しい者』だから。君の前では、陛下は少し、やりにくい」
「そんな訳……っ、」
「ディオン。ここは、グロリアスに任せよう?ほら、親心ってやつが、働いてしまうんだよ。でもね、ありがとう。僕はこんなに可愛い弟がいて幸せだから」
ぎゅっ、とディオンを抱きしめると、大きくなった弟は『ふぎゅっ』と変な声を出して大人しくなった。
帰ってきたグロリアスを、エプロン姿で出迎える。気分は新婚さん。実際に新婚さんではあるけれど、普通公爵夫人がエプロンをつけることはないから、珍しいでしょう?
「おかえり、グロリアス。お父様とは話せた?」
「ああ。明日には解決するよ。ところで……なんて可愛らしい格好をしているの?」
「グロリアスに、異国のデザートを作っていたんだ。ちょっと失敗しちゃったけど」
「甘いシオンから、さらに甘い匂いがする」
「あ、だめだよ、汚れてるから」
「気にならない」
僕の頭には、この国でも、この世界にも無い異国の知識が入っている。ニホンという国のものだ。
それで再現してみたのは、食べやすい棒状のプレッツェルに、チョコレートをかけたもの。
失敗してしまったのは、イメージより太くて硬くなってしまったんだ。うう……こればっかりは、シェフに頼めば良かった。
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