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本編

39 レギアスとアレアリア 末路

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ーーーーーーーーーーーレギアスside


 シオンとグロリアスが幸せに笑いあう一方で、末路へと転落した男女がいた。

「シオン……こんなことなら、捨てなければ良かった……」

 飛龍に見つからない、地下を根倉にしていた暴徒たちの慰み者として、レギアスとアレアリアは長らく囚われていた。

 レギアスの山より高いプライドは、すっかり折れていた。やっと、悪いのはシオンではないと気付いたのだ。レギアスの思い出したシオンは何も、悪いことなどしていなかった。だから、冤罪をかけたのに、それすらも忘れていたのだ。

 そんなことをするよりも、思い切って、誉め殺し、いい気にさせ、王妃として活躍してもらっていれば良かった。魔力が無くとも、シオンにはそれだけの価値があった。自分は特に何もせずとも、シオンを持ち上げておくだけで、盤石の地位を得られたのにと、今更気付いたのだ。





 そんな折、暴徒らの会話から、噂が耳に入ってくる。新国王が着任し、急速に暴動を抑えていると。
 緊急時でも、犯罪を犯したものは正しく裁かれ、それを実現出来るほどの騎士と、不思議な目があるという。
 誰も見ていないと思って犯行に及べば、さっと騎士が駆けつけて捕えられてしまうので、横行していた強盗や暴力は一気に鎮圧され、暴徒たちは散り散りとなり、ここの奴らのように、地下や分かりにくい所へ潜んでいるしかなくなったのだ。
 






 そうして、一年を経たずして、王国の全土が再び治安を取り戻した。最後の暴徒も取り押さえられ、レギオンとアレアリアは、ようやく地下から地上へ解放された。

「意外と、生きていたな」

 叔父が一人、その場を訪ねてきていた。

 アレアリアはあー、うー、と呻き声を発していたが、平たい腹を撫でてだらりと座り込んでいる。

 レギアスは久しぶりに人として扱われ、涙を流した。

「うっ……うっ、叔父さん……!唯一の肉親ですよね!どうか、助けて!俺は、俺は、汚いやつらに……っ!」

 その言葉に、グロリアスの瞳は、かつて無いほどの冷たさを帯びる。

「シオンを好き勝手にしたお前が、それを言う?」
「おれ、俺は、抱いていないっ!ただ、黙認しただけで……」

「嘘をつくな。積極的に推奨しただろう。シオンのことを蔑んでいたから抱かなかっただけで、スキルが発現したら、どう思った?抱いてやろうなどと言っていたな」

「ど、どうしてそれを!?ちがっ……、いや、それは、喜ぶと、思って……」
「お前は好いてもいない相手に抱かれると喜ぶのか。そうか。そういう趣味なら仕方ないが、他人もそうだと決めつけるなよ」

「おにーさん……、おにーさん、……スキ」
「おや、君は……禁断症状かな?」

 アレアリアは、這いずってグロリアスの足元まできていた。
 下手に媚を売り、暴徒たちに可愛がられた結果、薬漬けにされていた。カクカクと震えながら、物欲しそうに濁った目で見上げて、尻を振り出す。

「見るに耐えないな。さぁ、最後の仕上げとしよう」

 グロリアスは二人を連れ、王城から最も遠い集落の、更に端へと転移した。







 集落の中でも薄暗い、田舎の、素朴な小さな家。裏庭付きで、野菜を何種類か植えられるようになっている。
 もっとも、この二人に農作業が出来るかどうかは別として。

「一応、それぞれに個室はあるから、プライベートは守られるはずだよ。キッチンはここ、とりあえず二週間分くらいの食料は入れておいた。種も用意しているから、植えてみて。あ、そうそう、こいつを置いておくね」
「ぎゃっ!へ、へへへへ蛇!」

「……君たちが万一暴走したりしないように、監視のミニ蛇だよ」

 黒い紐のような蛇が、レギアスの足首に巻き付いた。ほとんど重さはないのに、冷たい鱗が、足枷のように感じる。

「言っておくけど、性の売り買いは禁止だから。真面目に働いてね。男を連れ込むのもだめ。二人仲良くね」
「嘘だろ、この狂った女となんて……!」
「アレア、可愛いでしょお?カワイイデショッ!?キャハハハハッ!」

「ここの集落、余所者に厳しいけど、大人しく従っていれば問題ないと思うよ」

 はぁ、と息をついたグロリアスは、用が済んだとばかりにその場から転移した。





 残されたレギアスは、ようやく少し現実を直視し、絶望した。

 一番近くの家まで、歩くこと20分。歩いても歩いても草と畑と虫で、その先に住んでいたのは老人、老犬、そして老人ばかり。若い人間がおらず豊かとは言い難いために暴徒の影響も受けなかったその集落に、レギアスが全てを放り投げられそうな、下僕に出来そうな人間は皆無だった。それどころか、『若いんだから』と雑事を次々と任せようとする。

 グロリアスの忠告を無視してアレアリアを売ろうとも、若くてイキの良い男なんて、そうそう通りかかりもしない。極稀に冒険者が通ると、押し売りをするようにして二束三文でアレアリアを売ろうとしたが、もう彼女の容姿は美しいとは言えないものになっており、逃げられてしまう。

 もうレギアスの生殖機能は役に立たない上、アレアリアも妊娠能力は無くなっていたのだが、性欲を持て余したアレアリアに夜毎乗られる。そんな男の悲鳴と、狂った女の嬌声が聞こえる小屋。

『×××付いてんなら出しなッ!!』
『つ、ついてない!ついてないから!』
『嘘つき!ほら、ついてるッ!ちっちゃいけど付いてるデショッ!?』
『ヒェェェ………………』



 そして『あそこには妖怪が出る』と噂になり、ますます人は来なくなった。


 それでも、二人は働かなかった。働くと言う概念が無かった。いつでも与えられるものだから。

 畑はシオンが整えたもので、種さえ植えればそれなりに収穫できると言うのに、しなかった。ただただ、誰かが、いつかやってくれるだろうと、深く考えることもしなかった。

 数ヶ月後、二人は村の作物を勝手に盗んだ罪で、豚の代わりに生贄に捧げられ、二度と姿を現すことはなかった。








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