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本編

34 レギアスとアレアリア

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 ーーーーーーーーーーーーレギアスside


 初対面の叔父が指を鳴らした瞬間、苦労して進んだ距離はゼロへと還り、馬車も騎士もいない状態で、レギアスはアレアリアと共に王城の敷地にぽつんと立っていた。

 王城はすでに荒らされて、廃墟のような荒れ具合だった。かつての煌びやかな姿は微塵も残っておらず、値の付きそうなものは片っ端から剥がされ、持ち出されて、異臭が漂っていた。

「なんだ?……あの金髪!王子がいやがるぞ!」
「い……行くぞ!」

 見回っていた男に見つかり、二人は脱兎の如く逃げ出した。もはや、生まれ育った王城に対する郷愁の気持ちなど、味わっている場合ではなかった。それに叔父の言っていたことを考えると、レギアスはアレアリアを見捨てることは出来ない。
 スキルを使おうとして、気付く。シオンに封じられてしまっていた。
 急いで側溝の泥を被ることで特有の輝きの金髪を隠し、盗賊たちからは逃れられたが、それはまだ、始まりに過ぎなかった。








 姿が一般人になったとしても、容姿の整った二人組。襲われることが頻発する。

 魔力を封じられた二人は、無力だった。それはちょうどスキルが発現する前の、シオンと同じ。違うのは、権力によるものではなく、暴力による蹂躙だということ。

 捕まえられ、野盗に代わる代わる犯される。飽きれば捨てられ、逃げ出しても、また別の暴徒に。

 レギアスの髪は金ではなく白髪となり、誰も王族とは気付かない。かつての自分のような、『やれ』というだけの頭領を見て、やっと自分のしたことに気付く。

「なんで……っ、なんでなんでなんで!?あたしは、美形としか寝たくないのにっ!!嫌ぁ!!こんな不細工で臭くて、汚い男っ!!」
「……美形なら誰でもいいのか?」

「誰でもいいっ!格好良くてお金持ちなら!下手くそでもいいから!!」
「へた……クソ、だと?」

「そうよ!あんたの良いところは顔と立場だったのに!今じゃどっちも無いじゃない!サイアクよ!!あたしがこんなになっちゃったのも、あんたのせいなのよ!!」

 ギャーギャーと騒ぐ二人は引き離されて、別の檻へ入れられることとなった。そのことにホッとしたのはレギアスだけではない。
 アレアリアは待遇改善を狙い暴徒の人間に媚を売るようになったため、顰蹙を買っていたからだ。


 ある日、レギアスは同じく暴徒に囚われている一般の少年少女に、話しかけられる。

「本当に……ひどいよね。なんで、こんな国に生まれちゃったんだろ?」
「それは……」

「王さまも、王子さまも知らんぷり。南に行けば助かるかもって思ったけど、捕まっちゃったし……」

 南、というのはウィンストン侯爵領のこと。

 レギアスが元王子だということは、少女は気づいていない。もう、容姿では分からないほど変貌してしまったが、それでもまだ、整っている。

 少女にとっては幸福なことに、アレアリアとレギアスが人気なため、少女はまだ捕らわれているだけで済んでいたが、そんなことは知る由もない。
 レギアスはこんな、政治も何もかもわからないはずの素人の、少女にすら責められたような気がして、一気に激昂する。

「うるさい!話しかけるな!俺様は悪くないっ!」
「え!?何この人……」

 レギアスは、同じ被害者たちとも馴染めず、孤立した。





 ぽつんと檻の中にいるレギアスは、ひっきりなしに呼ばれても、檻に返されても、どちらも苦痛の毎日だった。

「なんであいつを、殺しておかなかったんだろう」

 どこで間違ったのか。

 シオンが覚醒するよりもっと前、そう、頭角を表し始めた時に、殺しておくべきだった。
 シオンだけじゃない。侯爵も、シオンの弟も、一族皆、国家転覆罪として裁いておけばよかった。だってほら、現実はウィンストンの一人勝ち。これが叛逆でなくて何になる?

 いや、もしかしてアレアリアが、シオンの代わりを完璧に出来ていたら。
 クインが。騎士団長が。父が。母が。

 レギアスの頭の中では、自分ではない何かが悪いと決めつけなければならなかった。それがどんなに非現実的で実現しえないものだったとしても、彼の中では真だった。

「あいつが……あいつも悪い……あいつさえいなければ……」







ーーーーーーーーアレアリアside



 アレアリアは絶望していた。

 レギアスが王子では無くなったと、ようやく実感がわいてきたのは二人揃って犯されている時。
 この人はもう、権力者ではない。そう理解したアレアリアは、この場での権力者にすり寄ることにした。つまり、暴徒の頭領だ。

「アレア、愛人でいいんでぇ、もっと待遇よくしてくれません?そしたらぁ、もっとサービスしちゃう」
「ははっ、そいつぁいい!よし、今日からお前は俺たちの仲間に入れてやる。仕事は性欲処理だ!」

 こうして奇しくもアレアリアは、シオンや攫ってきた村人にさせていたのと同じ、性欲処理係となった。頭領だけに気に入られれば、相手をするのは一人でいいと思ったのに、アレアリアの思惑は叶わない。結局、暴徒たち全員の相手をすることに変わりはないし、汚い牢から頭領の汗の匂いのする寝床へ変わっただけで喜ばなければならなかった。

 娼婦のように嬌声を上げ、娼婦のように喜ばせ、しかし娼婦のように稼げる訳ではなく、無償で。

 客――というか荒くれ者――たちは不衛生の上、それも気にせず、力は強く、自分こそが支配者のような顔をして、アレアリアを使った。

(こんな、のはっ!シオンが、シオンに!やらせれば!いいじゃないの!!もうっ!!)

 臭くて、不細工で、金も教養もなく、それでいて自己陶酔しており、アレアリアにしてみれば、一つだって良いところのない最底辺の男に大事な体を差し出すのは、憤死しかねないほどの屈辱だった。

 怒涛のような時間が過ぎてふと一人になると、アレアリアはシオンも同じ状況だったのではないかと思い出す。しかしそれはシオンにあんな事をしなければ良かった、というものでは無く。

(これに比べると、シオンはまだ、王城で働くエリート達が相手だったわ……!顔も格好良い人が多かったし、体格だって良くて、もちろん収入も!なによ!なんであたし、こんなところで負けたような気にならなきゃいけないのよ!)

 それに、と、最後にあったシオンをなんとか、思い出そうとする。

 そうだ。シオンの隣にいた、あの男!

 自分の魔法で視力の衰えたアレアリアにはぼんやりとしか見えなかったが、あの背格好とスタイル、声、雰囲気。どれをとっても最高級の男だった。猫耳はあったけど問題ではない。だって次の王になると言っていた。まさか、あの男とシオンが結婚するなんて……ありえない。あってはならない。

「だめよ……だめ……あの男はあたしの……あたしのにしなくちゃ……」
「おおい、女。いい薬が手に入ったぞ!喜んでくれるな?」
「はっ、はぁい!」

 アレアリアはシオンやグロリアスに対する執着を、それ以上、深めることはできなかった。

 何故なら、男達によって違法の薬を打たれ、快楽だけを追い求める身体へと、作り変えられてしまったからだ。

(ええと……シオ……塩?なんだっけ……なぁ……、何か、大切なことを忘れているような……あー、まぁ、いっかぁ……)




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