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本編
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しおりを挟む恋と愛を自覚した僕は、グロリアスをますます直視出来なくなってしまった。
んん、ちょっと違う。こちらを見ていないグロリアスの横顔は穴の開くほど凝視出来るのだけど、ん?と微笑まれると途端に逃亡を図る。なにあの発光体。キラキラの額縁の中にいるみたいに見える。
でも、グロリアスに会える時間は貴重だから、隠れられる所から少しだけ顔を出して、また見る。隠れられる場所が無ければ、土魔法で土壁を出してでも、隠れた。
グロリアスはそんな不審な行動をとる僕を、遠くからにこにこと見て、言う。
「可愛い子うさぎさーん?出ておいで?」
「いっ……いません!」
声をかけてくれてすごく嬉しいのに、何でだか、素っ気なくしてしまう。もう、やだ、こんな面倒くさい男。
そんなある日。グロリアスが不在中、お父様に呼ばれて執務室へと来てみれば、まさか、大量に積まれた釣書が。
「こっちの山は、シオン、お前のだ。そっちの小さい方の山は、グロリアス陛下の」
「なっ……こんなに、ですか……!?」
僕の山はお父様が見えなくなる程の束が3つ。グロリアスのは1つと半分くらい。それでも、すごい。
「うちのシオンはもちろん、美人で聡明で救世主。非の打ち所がないからな。陛下ももちろん凄まじい数だが、『平定するまで』の短期間だけということもあって、お前よりは少なくなったのだろう」
「僕、非の打ち所ばかりですけど」
言うまでも無く、色んな男の手垢だらけだ。僕のスキルや知識量に関しては多少自信はあるけれど、それらをすっかり台無しにして更地の上地底奥深くまで掘削するほどのマイナスであることは、間違いない。
「そんなことは、いっ、さい、ない。異論は認めん。そうそう、外国からも来ておる。そろそろ決めようと思うが、どうする?」
と言って、お父様はニヤリと片方の口の端を上げた。悪い笑い方だ。
それを見て、僕は覚悟を決めるしかない、と姿勢を正す。
「僕は、グロリアスと結婚したいです。お父様。……知っておられるかも、しれませんが」
「はぁ~、ようやく言ったか!遅いわ!まったく、そこかしこに土壁を作りおって!迷路か!」
「それは謝りますが、発破をかけるなら他の方法にしてください!心臓が止まります。その釣書も、どうせ白紙とか紛れ込ませているのでしょう!?」
「いや手は加えておらん」
「え!?」
……。嘘。これ、本当にこれだけ来ているの?グロリアスと僕の山が逆だとしても、信じられない。僕、絶対アバズレ認定されていると思うのだけど。
それよりも、グロリアスにもこんなに釣書が来ているなんて。僕、隠れている場合じゃないね!?
「ぼ、僕、ぐぐグロリアスにプロポーズしなくちゃ!」
「……成功を祈る」
慌てふためく僕に、お父様やアルフレッドーーーーお父様の近衛騎士になったーーーーは生温い表情をしていたが、もちろん僕はそれどころではなかった。
覚悟と準備、しなくちゃ!
それから程なくして、チャンスは到来した。
「シオン。今日と明日は休もうと思う。どこか行きたい所はある?」
そう言われた僕は、自分でも顔を輝かせていると思って、恥いって口元を引き締めた。なんて単純な男なんだ。
「えと、グロリアスと話がしたい。落ち着いて、話せるところがいいな」
「そうだね。魅力的な案だ。じゃあ、手を取っても?」
「もちろん」
まるで小鳥でも招待するかのように、軽いエスコート。僕の手が触れたか触れていないか、くらいのところで転移された。その先は、新王城を遠目に眺められる山の斜面。
何にもない所だが、景色だけは圧巻だ。他の大地から隔絶され、美しく聳える新王城がよく見える。
僕は足元の地面を簡単に均し、草原へと変えた。うん、木々を多少倒させてもらったが、より視界が広がって、近隣の街や村なども見渡せる。
柔らかな緑の絨毯に二人して寝転ぶ。思ったよりグロリアスが近くてまた、逃げ出そうとする気持ちをなんとか堪えた。
ふと、指が触れて、すぐに離れようとする。そのグロリアスの手を、僕の方から強引に捕まえた。
「っ、シオン、どうしたの?」
「……僕、ね、その……言いたいことがあって。このまま聞いてくれる?」
「その、手が……」
「本当に、無理はしてないから。信じて。ね?」
そう懇願すると、グロリアスはきゅ、と手を握り返してくれた。
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