婚約破棄された銀の猫は、チートスキルと激甘伴侶をゲットしました

カシナシ

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本編

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 王城に戻らされたら。
 目の前に盗賊がいたら。
 どうなるのか、考えたのだろう。レギアス殿下は、唾を飛ばしながら激昂する。

「お前は……、まさか、お前が王になるつもりか!?ははっ、笑わせるな!もはや王家の血族は俺様だけ。そんな俺様を丁寧に扱わないなんて……」
「おや、君は俺のことを知らないのかな?王子」
「子供が何を……って……」

 グロリアスは、しゅるしゅると大きくなっていった。僕よりも、頭ひとつ大きい成人男性に。……え?




 目も潰れる程の、絶世の美貌だ。肩ほどで揺れていた淡い金髪はそのままに、あどけなかった面持ちは芸術品のように美しいものに。


 猫耳や尻尾のボリュームはさらに増し、ふわっふわのふさふさ。僕の体を包み込むように絡んでくる。


 ちらりと見やった転がる二人とも、薄目しか開けられていない。あんまり見えていないようでホッとする。

 でも、グロリアス……きっとこっちが、本当の姿なんだね?

 だから、あんなに落ち着きがあったんだ。納得だ。


 驚いている僕の、手を取られる。


 硬い手のひら。武術を嗜んでいる、男の手に、少したじろぐ。するとグロリアスは、少し瞼を伏せて考えてから、レギアス殿下へ向けて言った。


「この金髪も、翠色の入った碧眼も、少しわかりにくいけど王家の血の入った特徴だよ、甥っ子くんなら分かるね?」
「は……、まさか、王弟は……死んだ、はずじゃ……」

「ふふ、君のお父さんに死ぬほど狙われたからね。いくら俺の方がうんと年下でも、恐ろしかったんだろう。そう言う訳で、君がいなくても大丈夫だよ、安心してね」
「グロリアス……」

 美少年から美青年へと成長したグロリアスは、ぱちんとウインクをして、『ちょっと静かにね』と合図をしてくる。

「俺が次の王になろう。と言っても、俺はこのスキルで平定するしか出来ないから、すぐに次の王を見繕って据える。シオンのお父様か、弟くんでもいいかもね。ははっ、君たち二人は、国が平定されるまで生き延びることができるかな?」

 レギアス様の頭の中が手に取るように分かる。今や賊でひしめき合う場所に放り出されたら、どうなるか。
 その上に、平定するまで、最短でも一年はかかるだろう。それまで、王族とすぐに分かる容姿をしているレギアス様が、果たして無事に生きていられるのか。

「すっ、すまない、申し訳ない!お願いだ、ここに入れてくれ!隅の方で大人しくしているから、後生だ、頼む!」
「えええ、挑戦もしないの?もし俺たちが旧王都まで平定する頃まで生きていられたら、お二人には小さな家を建ててあげるし、畑もつけてあげる。ちゃんと、二人揃っていればね?片方だけではだめだよ。さっきみたいに、喧嘩しないで手を繋いで、仲良くしてね」

 レギアス様は慌ててグロリアスにしがみつくも、弾かれて転ぶ。そんな様子を生ぬるく見守り、グロリアスは僕の指の腹を、手のひらへ大切そうに乗せた。

「ねぇ、甥っ子くん。君がこれまで国民を大事にしていたのなら、そんなに酷いことにはならないはずだよ。ふふ、どう思う?」
「ぐっ……!クソッ、平民に媚を売る気はない……!」

 こんな時でも、無駄に高いプライドを折れないらしい。それが命を左右すると、分かっているだろうに。グロリアスも見放したように渇いた笑いをもらすと、小さな声で囁いた。

「こんな人たちは、シオンの手を汚すまでもない。俺がちゃあんと送ってあげるね」
「あ、ありがとう、……グロリアス」

 アレアリア嬢は、グロリアスが青年の姿になったところで両手を組み、目をぱちぱちウルウルとさせて見上げていたが、

 パチンッ

 指を弾く音で、二人の姿は消えた。
















「……ふうぅ……って、グロリアス!その姿はなに!?」
「うん、ごめん、いい機会かなぁと思って」

 幻影を解く。両手を繋いだ状態で、目の前の美青年を凝視した。

 天使のようなグロリアスをそのまま大きくした、というのが合っているのか分からないけれど、なんとも色気のある男。上背が結構あって、僕の頭ひとつ、いや、もう少しあるかもしれない。鍛えているのか、がっしりとした体格だ。そしてやっぱり、神の御使ともいうべき、人外じみた美貌にくらくらする。

「本当の、歳は?」
「24歳。シオンの、6つ上だね」
「お兄さんって……言ってたじゃないか」
「ふふ、ごめんね。あの時は、たまたまあの姿だったんだ」

 初めて会った時。僕は男たちに消費されて疲れ果てていた。確かに、子供の姿でなければ、警戒を解くことは出来なかっただろう。

 ぶわっ、と、訳の分からない涙が込み上げてきた。その偶然で、僕は救われたのか。そしてその偶然を、グロリアスは保つよう意識をしていてくれた。

「シオン。ね、話をしよう」



















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