婚約破棄された銀の猫は、チートスキルと激甘伴侶をゲットしました

カシナシ

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「コホンッ!シオン!シオンはいるか!早く出て参れ!」

「そうですよ~、シオンってば、レギアスさまを待たせないで!また大変な目にあっても知りませんよ~」

 二人の声は無駄に大きく、門の内側で休んでいた騎士や、領民にまで聞こえていた。途端、皆が殺気立つ。

「あいつら……!」
「うちの坊ちゃんは、救世主だ!」
「皆さん、落ち着いて。少し離れていてください。何を仕掛けてくるのか、わかりませんから」

 適当なことを言って、彼らの声の届かないところまで下がらせた。何を言うのか分からないけれど、僕を蔑むことを言うのは間違いないし、そのような言葉を聞かせたくないから。

「早くしなければ、この門を壊す!いいのか!?俺様は、強力な『岩石』の持ち主だぞ!」
「きゃあっ!レギアスさま、格好良い~!」

 そう言えばレギアス殿下は、確かに『岩石』のスキルを持っていた。昔の戦国時代になら有用なスキルだったが、今はあまり使い所がないと認識している。
 普通の門なら壊せたかもしれない。けれどこの門は、僕とグロリアスの共同制作。彼の鱗を砕いたものも入っているから、壊れることは、絶対にない。

 案の定、『ふん!ふん!この!』と奮闘する声と石のかち割れる音が聞こえるが、門はびくともしなかったし、王子の腕前の程も分かった。

 僕はまた、幻影を向かわせた。








 するりと空中から降りてきた僕に、レギアス殿下はびくりと飛び上がった。慌てて体裁を取り繕おうと、胸を張り出す。

「な、なんだ!いたんじゃないか!さっさと出てこい!全く、王族を待たせるとは……」
「何かご用ですか?」
「……っ、ふざけるな!うちの騎士達をどこにやった!」
「もちろん、丁重にもてなしていますよ?」

 僕の言葉の裏側を読んだ王子は、顔を青ざめさせた。実際は言葉通りの意味なんだけど、貴族ってそういう所あるよね。

「か、か、返せ!そして、ここを明け渡せば、お前まで追放する気はない!城に住まわせてやる」
「え~っ、アレアはいやぁ。どこか別の、ほら、娼館にでも押し込んでぇ……」
「君は黙っていろ!」

 アレアリア妃はレギアス殿下に厳しく言われて、驚く。事態を把握していないのか、うるうると涙を滲ませていた。

「ひ、ひどいですぅ、レギアスさまぁ……アレア、レギアスさまの元婚約者がいるなんて、いやですぅ……」
「黙っていろと言っただろう!……シオン。お前のスキルの力は褒めてやろう。やっと人になったな。それに魔力も高い、と。俺様の閨に侍る権利もくれてやろう」

 ……この人たちって。
 スキルという力があれば、こんなにも小物に見えるのか。呆れて声も出ないや。

「シオン」

 ふわり、とグロリアスが現れた。これもまた幻影で、本物の方は本物の僕の手を握っている。

「ねぇ、この人たちの言うことを聞く必要ある?ここから蹴飛ばしてしまうのはどう?」
「ふふ、グロリアス。大丈夫だよ。そんなに、一瞬で終わらせてはつまらないじゃないか」

 にこりと笑うと、グロリアスはホッとしたように頬を緩めた。

「……そうか、たくさんの男に犯されて、稚児趣味に変わったのか?変態めが」
「変態の称号はあなたにあげましょう、殿下。いえ、そろそろ殿下でもなくなりますね」
「は?何を言って……」
「あなた、騎士たちがいなくなり、使用人も数少なくなった王城がどうなるか、考えてみたことがありました?」

 僕が言うと、王子はきょとんとしている。なぜ、その可能性を考えられないのだろう。生まれてからずっと住んでいた場所が、無くなるなんて想像も出来なかった?

「王都の民が暴動を起こし、国王と王妃は討ち取られました。煽動者は盗賊で、収拾のつかない状態に。……止めるべき騎士たちがいませんし、必然ですね」
「……っ、嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ……っ!そんなはずはない!大体、どうやって知れるのか!」
「そんなの、スキルを使えば分かります」

 僕もグロリアスも、似たようなことが出来るスキルを持っているもの。
 平民の多くはスキルを持たないが、今の王城は無防備そのもの。数で押し込めば勝てると踏み、それは正しかった。

「えっ、待って?あたしのドレスは?宝石は?うそ、奪われたってこと?は?」
「そんなことを言っている場合か!アレア!」
「そうでしょ!?ってか、レギアスさまは王子じゃなくなったってこと?ただのレギアスさま?え?嘘、ありえない!あたしの努力は!」
「アレアリア?」
「え、誰、次に王になるの。ねぇ、教えてよシオンっ!紹介してよぉぉぉ!」
「お前っ……!俺様がいると言うのに、何を!」
「だって王子じゃなければ、レギアスなんてなんの価値もないわよ!」
「この野郎!」

 ううん……ぎゃあぎゃあ騒ぐのがいて、面倒だなぁ。僕はブロディを真似して、アレアリア嬢(もう“妃”なんて使わなくていいよね?)の口にチャックをさせた。途端、むぎゅ!と口を噤んだ彼女を見て、にっこりと微笑む。

「残念でしたね、アレアリア嬢。さて、次の王が誰かは僕も分かりませんが、貴女に紹介してどうするのですか?また、擦り寄るのでしょうか?……貴女を選ぶような人でないことを祈ります」

 顔を真っ赤にし、開かない口を一生懸命開けようとするアレアリア嬢は、頭に血が上ったらしい。
 驚くような速さで魔力を溜め、僕に向かって熱線を発した。

「~~~っ!?」
「ぐあっ!」

 反射されて目を抑える二人。はぁ、もう、どうしてこんなに愚かなのだろう。今までの報告書に、攻撃は反射されるとあったの、見てないのかなぁ。

 目を焼くほどではないが、そこそこ強力な光線は、きっと二人の視力を著しく下げただろう。
 彼らが呻いている隙に【魔力無効化】を施し、囁いた。

「さて、お二人に、僕からとっておきの復讐を用意しています。一、王都まで引き摺りの刑を受ける。二、あらゆる苦しみと痛みを詰め込んだ毒薬を飲むか……。どっちでしょう?どちらかが、もう一人の方の分もご負担出来ますよ。その場合、二倍になります」
「ふ、ふ、ふ……それはお優しいことだな、シオン。決まっているだろう?」

 息も絶え絶えだが、まだ喋れる方が笑う。

「もちろん、アレアリアが俺様の分まで背負う。刑の種類なんぞどっちでもいいが、これでお前も溜飲を下げられるだろう?」

 アレアリア嬢は顔を高速で横に振り、『違う!それはこっち!』という風にレギアスを指差している。これほどお似合いな二人、いる?すごい息ぴったりじゃないか。

「そう来るとは……、本当に、どうしようもないですね」
「では、早く門の中に入れてくれ。長旅で疲れているんだ、早く休みたい」
「ふふふ、残念ですが、不正解です。正解は……丁重に、お帰りいただきます。それだけ。お二人揃って、ね」

「……は?」




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