婚約破棄された銀の猫は、チートスキルと激甘伴侶をゲットしました

カシナシ

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 折目正しく礼儀を持った、はっと目を引く美青年が入ってきた。藍色の髪に、ピンと短い猫耳だ。


 先ほどの口論も何もなかったかのような、涼しい顔をして入室すると、扉にさっと手を翳している。鮮やかな手並みで魔力を発動させている。
 スキルが何かまでは分からないけれど、きっと、あの勢いのままにアペルが入ってこようとするのを、防いだのだろう。

「お初にお目にかかります、シオン様。ブロディと申します」
「初めまして。僕は平民なので、そこまで腰を低くしなくても良いですよ。こちらはグロリアス。僕のパートナーです」
「よろしくお願い致します。ですが、気安くなど……そんな訳には参りません。貴方様はこの領地の救世主であられますから」

 顔を上げたブロディを、まじまじと見つめてしまった。厳格そうな顔つきをした、美形だ。エリオットも整ってはいるけど、そこから優しさと甘さを削ぎ落としたような風貌をしている。歳の頃は一回りくらい年上で、落ち着いた雰囲気があった。

「ブロディさんから頂いた領地計画は素晴らしいものでした。僕も手を入れるべきところが分かりやすかったです」
「私など、ブロディと呼び捨ててくださいませ。シオン様に比べれば矮小な身です」
「え、えと……じゃあ、ブロディ。これからもよろしくね。君とは長い付き合いになるかもしれない。僕、次期領主夫妻とは関わりたくないから」

 僕がそういうと、ブロディは僅かに口端を引き締めた。予想の範囲内だったのだろう、特に動揺は見られない。

「それは……エリオット様を次期当主にすれば、契約は打ち切ると……」
「ああ、それはないから安心してね。でも、必ず代官は用意してもらう。少し前に伯爵令息に会ったけれど、なんだか様子がおかしかった。領民たちを救いたい気持ちはあるけれど、伯爵令息と、その伴侶については、その限りじゃない。と、覚えておいてくれるかな」

「……それは、理解出来ます。ただ、伯爵当主様へ伝えれば、ご子息は廃嫡されるかもしれませんね……」

 ブロディは難しい顔をしていた。

 伯爵だって僕がエリオットたちに会いたくないとは知っている。ただ、理由を知らないだけで、多分ちょっとした喧嘩程度に思われているのだろう。
伯爵が後継を決めるのに、僕という要因が決め手になるのは嫌だな、と思っていた。

「伯爵に伝えたい?ブロディは次期伯爵になりたくないの?素養は十分だと思うけれど」

 現時点で子爵令息であるブロディは、立ち振る舞い、情報力や采配についても問題ないと感じられた。それはきっと、伯爵も考えているはず。

「……私は、実は成り行きで代官に据えられただけで、本来は侍従だったのです。その、出来れば!シオン様の手元に置いて頂きたく」
「えっ」
「……ブロディさん?どういうこと?シオンは、立場上は平民だよ?」

 グロリアスが顰めっ面で、ブロディを見上げていた。やっと気付いたかのように、彼は薄い笑みを浮かべる。

「この状況で、爵位など大したことではありません。シオン様のような、輝きあふれる方にお仕えしたかったのです。侍従として」
「……僕は、汚いよ」

 思わず、反論してしまう。あまりに真っ直ぐに『カガヤキアフレル』なんて言われたものだから、防衛反応が働いた。
 震える呼吸を押さえつけ、ブロディを見返す。

「君は僕を知っているんでしょう。それでいて、よくそんな白々しいことを言えるね」

「私は王都に行ったことはありませんので、自分の目で見たシオン様だけをお慕いしております。腹の底からあなた様は美しいと声に出したい」

「……そんな、こと。ブロディ。もう少し信頼を得てから言い出せば違ったかもしれないのに……」

「そうでしょうか、シオン様。私の信頼性をお伝えするのには、時間が少なすぎます。ですから、今しかないと判断しました。……お隣の方も、私を警戒なさっておられますし」

「おれは、シオンに毒なら全部のけてあげるだけだよ」

 ふんわりと笑うグロリアスは、ひんやりと空気を凍らせた。ブロディも負けず、落ち着いている。

「毒になるか薬になるか、存分に試して下さい、シオン様。私はあなたの役に立ちますよ」

「……一旦、保留させて欲しい。とにかく、この領地を制定するまで」

「はい、承知しました」


 ふうう、と息を吐く。
 緊張していた空気が弛緩した。とりあえずブロディのことは棚上げしておこう。

 それから簡単に領地計画を話したりして、顔合わせが終わろうとした時、再び、扉の外が騒がしくなった。






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