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本編
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しおりを挟む「アルフレッドさんに来てもらえて、僕は嬉しいです。ところで、支給する家についてなのですが」
僕はさらりと話題を変え、いくつかの候補を出した。彼には傭兵を纏める長になって頂きたいので、領城に住んで欲しい。他の傭兵たちと同じ寮か、離れの塔の上級使用人たちの部屋か。
それらについて話していると、ふと、ケリーさんを思い出した。彼女は、婚約者と言っていたな……。
「その、アルフレッドさん。立ち入ったことをお聞きしますが、ケリーさんとは、恋人、なんですか?」
「えっ」
「あの、将来的に結婚をするのなら、独身用の部屋では……アレかと」
ええと、口篭ってしまったのは許して欲しい。ほら、防音とか広さとか考えるとね?引っ越しだって手間がかかるし。
なんでだか僕の方が照れてしまって目を逸らしたのだが、アルフレッドさんはまた固まってしまい、グロリアスがコホンと咳払いをして再起動した。
「あっ……そ、その予定はないです!というか恋人でもないんです!本当に幼馴染ってだけなので!」
「なるほど……?」
疑うように見つめる。
『幼馴染』と言えば、僕とエリオット。正しくは、元幼馴染。体の関係はあったけど、幼馴染だった。そういうこともあるから、もしかしたらアルフレッドさんは、ケリーさんと肉体関係はありつつも恋人じゃ無いと、言い張っているだけかも、という可能性。
細い疑いの眼を向けると、アルフレッドさんは何故か頬を赤らめつつも、元気よく言う。
「心の底から誓えます!シオン様。ケリーには指一本たりとも触れたことはありませんし、仲が良かったのは8歳くらいまでの話です。それ以降はたまたま進路が同じだったりしただけで、たまに実家のことを話すくらいの仲でして」
「アルフレッドさん、おちついてね」
グロリアスがにこりと笑う。なぜかひんやりするのは気のせいかな?とても事務的な声。
アルフレッドさんがハッとしたところで、言葉を発した。
「ケリーさんと、そういった関係がないのは分かりました。では、住居の希望は近日中にお知らせください。また、ケリーさんについての結果はケリーさんにお伝えしますね」
「!分かりました。本日はお時間をとって頂き、ありがとうございました」
ピシリと切り替えたアルフレッドさんは、美しい姿勢で出て行った。
「……あの人、天然そうだね」
「シオンに言われるとは、相当……」
「え?グロリアス?なんだって?」
「なんでもないよ。ふふ、じゃあ、ケリー嬢の所に行こう?」
「……む。分かった」
ブロディの元へ行くと、宣言通り庭園にいた。
ケリーさんをエスコートするブロディは紳士そのもので、ケリーさんもうっとりと夢見心地……にさせることで、時間を稼いでいた模様。
「ああ、シオン様。ちょうどあちらのコーナーに植えるのに、この時期はフェアリーリリーが良いと教えて頂いた所でした。ケリー様、私は失礼致しますね」
「楽しい時間を、ありがとうございました。ブロディ様」
にこりと微笑んだケリーさんは、アルフレッドさんと同じ、30歳前後くらいの、落ち着いた雰囲気の女性だ。先ほどのやりとりを思い出すと、ケリーさんはアルフレッドさんのことを婚約者だと思い込んでいるみたいだけど、あんまり勘違いするような早とちりタイプの人には見えない。
「アルフレッドからお聞きになりましたでしょうか?シオン様。私が、シオン様の侍女になりたいと……」
「はい。ですが、生憎手は足りておりまして。領城のメイドは如何ですか?ケリーさん程の人には、役不足かもしれませんが」
僕がそう言うと、ケリーさんは誇らしげに胸を張った。自分に自信のある人のようだ。
「ええ、まぁ、そうですね。その、シオン様付きの方とは、交代出来ませんか?その方が、城のメイドになれば……」
「ケリー様?シオン様の侍従は、私です。譲る気はありませんよ」
ずい。
ブロディが進み出て、先ほどまで一緒にいたからだろう、ケリーさんは大いに動揺していた。
ブロディは少し一緒にいただけで分かる、有能さを持っている。だからこのまま侍従にするのは吝かでは無い。まだ決まってないうちから本人が言うのはどうかとも思うけれど、それとこれとは別に、僕は多分、ケリーさんを僕専属の侍女として採用する気はない。
敵意丸出しの、冷たい目をしたブロディが、ケリーさんを射抜く。
「確かにシオン様付きになりたい気持ちは理解出来ますが……、あなたは元王子妃付きの侍女だったはず。何らかの命令を受けていたと考えてもおかしくありません」
そ、そうだったの?
ケリーさんは、きゅっと唇を結ぶ。そうして細く息を吐くと、僕を――――睨んだ。
「私がシオン様付きになりたいのは、シオン様をもっと知りたいからです。アルフが恋焦がれるシオン様はどれほどのものなのか、見せてもらうために。元王子妃なんて関係ないです。あんな低俗な人には二度とお仕えしたくない。けれど、シオン様なら、仕えてもいいと思えます。……今の所は」
「……随分と、偉そうな口を聞くね」
金髪をゆらめかせたグロリアスが、ケリーさんを敵認定した。こうなれば、お城に迎入れることも無い。そうぴしゃりと判断する。
「残念だけど、不採用です。他の難民と同じく簡易住居に住んで下さい。僕に敵意があるなら、エリアは領城から一番遠い所に行ってもらいます」
「ふふっ、いいのですか?そんなことをして。アルフは誰よりも強いのに。欲しいんですよね?彼を採用したいなら、私も」
「え?彼は、君とは関係なく採用しましたけど?」
「…………何ですって?」
麗俐に整ったケリーさんのお顔が、般若の形相となった。
怒れる彼女の背中を見送った僕たちは、アルフレッドさんにどうか幸あれと願った。
それから、アルフレッドさんからは独身寮に入ると連絡があったので、多分そういうことなのだろうと納得をした。
ケリーさんは面接を受ける前段階で、僕の過去のことは言えない状態になっているため、心配する必要もない。
難民の皆さんにはいくつか職も斡旋しているのだけど、ケリーさんはまだ決めかねているらしい。さっさと就職しないと人気の職は無くなってしまうのだけど……、忙しい僕は、彼女の心配をする時間も暇も無かった。
だってね、王子一行が、ウィンストン領に近付いてきたもの。
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