3 / 67
本編
3
しおりを挟む僕の救いは、エリオットだけだった。
エリオットにも婚約者がいる。それは重々、承知している。
けれど押しに弱いエリオットに付け込み、僕はエリオットに抱かれることを唯一の逃げ場にしていた。
「……ハァっ……はぁっ……」
エリオットの呼吸と、衣擦れの音。僕の体はあんまり反応しない。なんとなく、気持ちいいような気もする。一方でエリオットは気持ち良いらしく懸命に腰を振っているので、僕は雰囲気を盛り下げないために、少しだけそれっぽい声を出す。
「……んっ……、」
「もう、いいか?」
「うん、」
熱が放たれた。内部は満たされていくのに、僕は空っぽのままだった。儀式を受けていないので、妊娠することはない。つまり普通の男性と同じ体。そのまま放置すると腹を下してしまう。
中に出さない方法もあるのに、エリオットは知らないのかなあ。知らないはずはないと思うけど……まぁ、いいか……。後で、自分で掻き出せば。
「……愛している」
「…………ぼ、くも」
そんな、ベッドの上だけの睦言。けれど、それでもいい。エリオットは優しく、丁寧に僕を抱くから。
汚れた身体を上書きしてもらえるような。
甘く蕩け、現世から離れる時間。
けれど、その時間は長くは続かない。
「それじゃあ、そろそろ行く」
「もう?まだ……」
「……家に、もう来ているから。待たれているんだ」
口を噤んだのは、エリオットの婚約者の話だから。急速に現実でガツンと殴られ、夢から醒めていく。
卒業してから、数ヶ月か。確かに、嫁入り前に婚約者の家へ移動する者も多いし、エリオットの婚約者もそうなのだろう。
そそくさと衣服を身につけたエリオットは、申し訳なさそうに眉を下げて、手早く出て行った。
長くても小一時間ほどで、いつもエリオットは帰ってしまう。婚約者が待っているから。分かる。分かっている。僕にかける時間など、無いってことは。
会えば会うほど、エリオットとの時間は短く、行為はおざなりになっていく。
僕の食事は平民用に支給される硬いパンと、野菜屑のスープだけ。貴重な食糧のため残さず食べているが、行為によって吐く事も多いし、腹は頻繁に下す。
実際に粗相をしてしまったこともある。僕としては汚いのだから帰ればいいと思うのに、水魔法のスキル持ちは結構多いため、綺麗にされてしまう。もう、人としての尊厳はほとんど残っていなかった。
それでも、それでも、甘んじてこの役目を果たさなければ。父や弟の顔を思い浮かべて、耐えていた。憎らしいことに回復力だけは高い僕の体でも、肋骨の浮くほどに痩せ、自慢だったベルベットのような艶々の尻尾は毛が抜け、ひどく見窄らしい。
容姿は明らかに衰えているというのに、何故か、僕の身体を使う男たちは大胆になっていった。
「お前ら、俺に遠慮はしないのかよ」
「いやぁ、本当になかなか空いてなくて。さすが人気の、シオン様」
「ははっ!男娼より名器だからなぁ」
執務机に手をつけさせられている。ここでは、扉を開けた人にすぐに見られてしまうのに、もはや気にする恥じらいは持ち合わせていないらしい。
文官か、何らかの候補生か。分からないが、三人の男によって服は剥ぎ取られ、悪趣味な赤いリボンを首に巻かれていた。
「可愛い、似合いますよ!子猫ちゃん」
「こんな淫らな子猫ちゃんなんかいるか?っは、締まった!気持ちいい」
後ろから乱暴に貫く男により、出したくもない声が漏れそうだ。食いしばりすぎると歯が欠けてしまうので、唇を噛む。瘡蓋やアザの絶えない唇を。
「あっ……う、んん……!」
「シオン様ぁ、もっと、声、出してくれていいんですよぉ」
甘ったるく囁くのは、かつて僕を『尊敬しています』と言ってくれた男爵令息。乳首を強く抓りながら、僕の陰茎を咥えて恍惚としていた。
「ぐ……っ、」
「あ、シオンさま、こっちに集中して」
ぐい、と顔を引き寄せられ、キスをされる。べちゃべちゃと湿度の高い口付けが、気持ち悪い。けれど応じなければ、それもそれで面倒だ。差し出した舌は強く吸われて、吐きそうになるのを必死に堪える。
「唇、ガッサガサ。ちゃんとケアしてくれる?瘡蓋だらけじゃん」
「……では、やめてくれます?」
「辞めないけど。ははっ!」
鉄の味のするキスなど、何故したがるのか分からない。咥内をうぞうぞと這う虫のような舌の動きに、鳥肌がたった。
「あ……っ、すみません……」
扉を開けた人が、顔を真っ赤にしていた。その手に持った書類を置きにきたのだろう。ソロソロと机に紙を置き、退出するまで、犯される僕を舐めるように凝視していた。…………手を出さないだけ、まだマシなのかな。
ああ、こんな時。スキルさえ授かっていれば。
一人が満足しても、まだまだ終わらない。後から後から、欲望に飢えた男たちが執務室を訪れて、僕を犯していく。一度僕を抱いたら満足、という訳ではなく、むしろ何度も来るようになるから余計にタチが悪い。全員の息の根を止められたらいいのに、と思う性根が悪いからか、猫神様はいつまで経っても僕にスキルを与えてくださらない。
全身をどろどろに汚した僕が解放されたのは、夜も更けた頃。
「……シオン」
「………………えり、おっと」
エリオットは何も言わずに、温めた布巾で身体を清めてくれる。もしここで僕から口付けを強請れば、応じてくれる。口直しにエリオットの硬くなったモノを、与えてくれさえするだろう。
仕官してから半年が、経っていた。
137
お気に入りに追加
819
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる