婚約破棄された銀の猫は、チートスキルと激甘伴侶をゲットしました

カシナシ

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本編

8 レギアスside

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「シオンが?……二度はないと言ったはずだ。仕方ない、侯爵と弟を呼べ」
「は、はい……っ」

 シオンが見つからないらしい。どこかで使ているか、隠れてサボっているのだろう。そう思ったレギアスは適当に侍従へ命じると、動きを再開した。それはすなわち、アレアリアに嬌声を上げさせることだ。

「ああんっ!あんっ!あんっ!あぁん~っ!」
「……ふっ」
「レギアスさまぁっ!すきっ!あんっ!」
「……はは、そうか」

 それでいい。と言わんばかりに、レギアスは唇の片端を吊り上げた。豪奢な寝台の上で、好みの女を抱く。
 それは王子が精通した時からの習慣であり、もはや身に染み付き、顔を洗うのと同じで、しなければどこか気持ち悪ささえ覚えるもの。

 けれど数をこなせばこなすほど、反比例して落ちていく高揚感。王子を嫌がる者など居ないから、いかに優れた容姿で、いかに優れた身体と技術を持つか。それに加え、希少な光魔法のスキルの持ち主であり、王子の劣等感を刺激しない程度の頭の出来、ということで選ばれたアレアリアとは、長く続いている。

 容姿も抜群に好みのため手放す気はないが、おそらく一時的な愛人は今後も増えていくだろう。しかし、初めての時のように、血が沸騰するくらいの興奮はもう、得られないのかもしれない。レギアスは悲観しながら、習慣をこなしていた。


 しかし、だ。

 シオンの執務室へ出向けば、なかなかどうして、レギアスの気を昂らせた。

 シオンを抱く気は無い。王子が抱くということは、栄誉なことだから。しかし、上品で小さな口に咥えさせた時の悔しそうな顔や、きつく睨んでくる目つきは、レギアスの中の支配欲を、たっぷりと満足させた。









 シオン・ウィンストン。初めはその容姿の美しさに惹かれ、幼いレギアスは一目惚れをした。少年期は大事に、それこそ宝石箱に一等大きなダイヤモンドを入れるようにして囲っていたが、育っていくにつれ、段々と煩わしくなった。

 レギアスとて王子教育を受けているのに、シオンと比べられる毎日。勿論不躾に比べるような教師はクビにしてきたが、教師の質が落ちていくだけで劣等感は拭えない。
 ピンと背筋を伸ばし、長い銀髪を流したシオンに、隙は無かった。近隣諸国の言語を巧みに操り、大人しいと見せかけて強い芯を持ち、『あの人が王なら安泰だ』という言葉も聞いた。

(このまま婚姻しては、いつか主導権を奪われる)

 だからレギアスの中では、シオンはとっくに簒奪者だった。シオンという男に、徹底的に分からせることは、半ば使命のようにも思っていた。









 翌日になって、侍従が真っ青な顔で戻ってきた。

「あ、ああの、殿下。……ウィンストン侯爵家が、離反いたしました……」
「……ハァ!?」

 アレアリアから体を引き抜いた。
『ああんっ、』と名残惜しそうな声が上がるが、誰も気にかける余裕など無かった。

「ど、どういうことだ!?離反しないよう、互いに人質にしていたはず……、侯爵は領地か!?領地に戻ったとか……」
「はい。城内、王都内にはもうすでにいらっしゃいません。領地にお帰りになられたと考えて良いかと」

 侍従は門番や王都の通行履歴を片っ端から調べた。それなのに出ている記録は無い。それならまだ中にいるはずが、方々を探してもいなかった。きっと誰かが見落としたのだろうと考えると、職務の怠慢。しかしこれ以上仕事が増えるのは嫌で、侍従は黙っていた。

「……チッ。面倒だな。騎士団をウィンストン領へと送るか。弟は次期領主……だからな、侯爵を殺そう。首を打ち取り十日間晒せ」

「いかほど向けられますか」

「半分……いや、多いか?騎士団長に任せる。半分以下で行けるだろう。シオンは……シオンは見つかったか?見つかったらウィンストンに対する人質にするんだ。侯爵が出てくるまで領地の目の前に連れて行き、裸で晒してやれ」
「はい……」


(まさかウィンストンが離反するとはな。あれだけシオンを痛めつけてやったのに……いや、逆にやりすぎたのか?全く、情に厚すぎるのも難だな)


「レギアス様ぁ、軍師さまみたいで格好良いですぅ!アレア、ドキドキしちゃう……」
「そうか。ははっ、気分がいい。今日はアレアにドレスでも買ってやろう」

「わぁっ!嬉しい~!」

 馬鹿なことだ、とレギアスは笑った。

 ウィンストン家はほとんど武力を持たない。そうするように王家が命じてきた。だから離反するなど無駄死に、自殺行為だ。

 王家の持つ優れた騎士団に、負ける要素など一つも無い。
 そう、確信していた。







 
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