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番外編 レイグリッド
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目の前に女神がいたら、偶像崇拝する者、女神だと認めない者、眺めるだけ眺めて満足する者、色々いるだろう。
俺は、違う。俺はその女神に手を伸ばし、その全てを欲した。
実家の生業の関係上、仕方なく隣国王国の騎士団に潜入した俺、レイグリッド。
気兼ねなくレイと呼んでくれていい。そう言って人の懐に入るのが仕事だ。
騎士団に所属しているだけで、いろんな令嬢からの噂話、王城内の政情などを裸にできる。
俺の実家はそういうことを専門にした家だったから、潜り込むのも簡単だった。
なんせ、この王国内の貴族にも分家があるからな。
ただ、誤算だったのは。王太子の婚約者が、人の魂を抜くほどの美貌を持っていたことだった。
あれは騎士団に入って、数年程だろうか。やっと新入りを脱した頃だと思う。
俺にとって王国の騎士の鍛錬は生ぬるいものだったが、汗をかいていた為に皆で水浴びをしていた時だった。
偶然通りがかったのだろう、そこは訓練場に繋がる中庭で、花など植えている訳でもない、近くに医務室があるというだけの廊下で、見かけたのが、アリス・シュヴァルツ公爵令息だった。
彼は真っ白で金糸の刺繍を施された、神官服にも似た清楚なローブを羽織っており、その背中には妖精の粉でもまぶしたような輝く銀髪を垂らしていた。
そして汗臭い男どもが水洗いしているのを眩しそうに目を細めて、フッ、と微笑んだのだ。
ドッ!
心臓を撃ち抜かれた。
すたすたと去って行く彼の後ろ姿を、一秒も残さず、瞬きもできずに見つめていた。
なに、あれ、ちょっと待って欲しい、心臓の替えが必要だ。
それからだ。どこか適当だった訓練をがむしゃらにこなし、『王族にも邪な想いは抱きません』みたいな硬派な顔で、どうにかこうにか女神の護衛騎士を勝ち取った。
なんせめっっ………………っちゃくちゃな人気だったからな。王族より人気だなんて公には言えなかったが、あの凛とした、どこか冷たい美貌を持った彼。
ほとんど表情は動かさないけれど、騎士団の訓練に混ざって真面目に剣術を学ぶ彼には、その、申し訳ないが、どう取り繕っても欲情した。
なんせ、あの真っ白な肌に汗を浮かべ、頬を紅潮させるのだ。小さな唇は真っ赤に熟れて。
普段ほとんど露出のない禁欲的な服装を好む彼が、訓練中だけは暑そうに袖を捲ったり、胸元を引っ張って汗を拭って……ちらりと見えたヘソの形の良さ。
恐らく他にも見た者がいるだろう。
全員に目潰しを仕掛けたい程悩ましい光景だった。
そんな彼の護衛騎士となれた。
交代要員として他にも何人かいるが、光栄なことに、アリス様は俺に心を開いていった。
アリス様の笑顔が見たくて、お茶を淹れた。
ちゃんと練習をしたから大丈夫なはず……と不安げに見ると、ふんわりと微笑んで『美味しい……!』と感嘆したように言う。
訓練相手が俺だと『お手柔らかに』とふにゃりと笑うし、彼が疲れた時に指圧をしてやれば『疲れが取れました。すごいですね……!』と褒めてくれた。
どんどん、どんどん嵌っていく。
アリス様の好む物は片っ端から集めたし、彼の好む料理を作れるように練習もした。
何なら、アリス様に似合いそうな服や装飾品も勝手に買い集めてしまった。
俺の収入の殆どを費やして。
俺の趣味がアリス様と新婚ラブラブ生活を妄想しての買い物だとすれば、アリス様の趣味は魔道具作製で、俺の前では割とふにゃっとしている(ように見える、俺の願望も入っているかもしれないが)アリス様もその時だけはキリリと鋭い目になる。
それを横で舐め回すように――違った、温かく見守るのもまた良きである。
その内、アリス様は俺に自作のそれを贈ってくれるようになった。
物理攻撃無効の腕輪や、位置情報把握のピアス。
そして、国宝にするべき貴重な空間収納魔法の鞄まで。
……これは、ひょっとして。ひょっとするのかもしれない。
だって、アリス様。
俺がパッと見るとすぐに目を逸らす。
その耳が赤いことは全然隠せていない。
じっ、と護衛騎士らしく直立不動で構えていれば、胸元に熱い視線を感じる。
そこにあるのは、俺の胸筋だけ。
どうも、アリス様は筋肉がお好きなようだった。
俺の血管の浮いた腕や、太い首筋を良く眺めておられる。
俺は歓喜し、ますます鍛錬に気合が入った。
だから何だ、と言われるかもしれない。
彼は俺の身体を鑑賞として気に入っているだけ。彼には正式な、この国で最も尊い地位の婚約者がいる。俺からすれば青すぎる小僧でしかないが、それでも彼は奴のもの。
それでもいい。一時でもあの人の視線を奪えるのなら、いくらでも見て欲しい。
そう思っていた頃だった。
「……あなたは?初めまして、ですね」
アリス様は、俺の記憶を失った。
初めて忘れられた時には、何か頭を強く打ったのだとか、衝撃的すぎる出来事が起こったのだと思った。
慌てて自己紹介をして、ほら、このカバンをくれたのもあなたですよ、レイと呼んでくれていましたよ、と思い出させようとした。
アリス様にそう伝えると、キョトンとした顔で『信頼は出来るらしい』と思ってくれたようだった。
しかし、以前のようなどこか甘さを含んだ視線をくれることは無くなった。
悲しかった。そこで初めて気付いた。
俺は、あの人を俺だけのものにしたい。失って気付くなどなんて俺は愚か者だったのか。
『一時だけでもいい』なんて嘘だ。
これからのアリス様の全てを全部、欲しい。
あの小僧なんかには勿体無い。
それから何度も、アリス様は俺の記憶を失った。
それは必ず、俺を愛おしそうに、蕩けるような目で見つめた後のこと。
彼は潔癖だ。だから、婚約者がいるのに俺へ向ける気持ちをどうにかしたくて、巧みな魔術を使って忘れようとしたのだろう。
切なくて、痛くて。その肩を抱いてやりたくて仕方なかった。
小僧に愛人が出来た。間諜として使えるものを最大限使って、愛人を支援した。
愛人は男爵令嬢で、殆ど平民。
貧相な身体に乗っかった童顔のどこがいいのか理解は出来ないが、アリス様を蔑ろにする小僧には似合いの相手だ。
愛人に好意的な噂を流し、愛人の見目をそれ以上損なわないよう資金を援助し。
その一方、祖国には『トン、と背中を押すだけで一国手に入ります』と報告し、準備を進めた。
幼馴染の皇子は、俺の連絡を聞いた瞬間GOサインを出した。いいのか、皇子。簡単だな。
アリス様を婚約者という柵から解放させる。そして『やっぱり戻ってくれ』なんて言わないように愛人と婚約、婚姻をさせる。
その間に手が出せないところへ保護してしまう。
アリス様が殆ど執務を行っていたおかげで、彼が抜け、さらに愛人という毒を喰らった王家は面白いほどボロボロに崩れていった。はは。いいザマだ。
文官も大臣も腑抜けすぎる。残しておいても使い道はなさそうなので、全取っ替えが必要だ。
まぁ、元はと言えば王が、優秀な婚約者を捨ててこの王妃を娶った時点で間違っていたのだろう。
生まれた王子はあまりにも頭が足りなかった。
国外追放されたアリス様は、冷静なようでいてどこか現実逃避をしているような、そんな危うい雰囲気を醸し出していた。しかも、前日に俺の記憶を消したばかりだったらしい。
クソ、こんな時に、と思いつつも、もう何度も忘れられて慣れてしまっていた。
アリス様が俺を忘れる時は、忘れたい程感情が昂ってしまった時なのだ。
そしてやはり、甲斐甲斐しく世話をする内に、アリス様は俺に心を許す。恥ずかしがって目元を朱に染めるアリス様の、可愛らしさといったら。
……あの人が俺を憎からず思っていることは自覚しているから、強気に攻めた。狡い?いや、これまでめっちゃくちゃ我慢してきたのだ。
褒めていただきたい。
どうにか丸め込んで抱いた夜は、頭が破裂するんじゃないかと思うくらい興奮した。
滑らかな白い肌。長い手足。うっすらと割れた筋肉に、肌の薄い箇所は桃色に色付いて。
もう、余すところなく全部舐めて味わった。
魔力の相性がいいのか、どこもかしこも甘くて痺れそうだった。
精液すら『はちみつミルク』なのか?と思うくらいには甘いのには驚いた。何故、この人は、こんなところまで俺を魅了するのか?
いや、違う、俺でなくても魅了するだけで、こんな姿を見せてくれるのが、俺だけだという事実。
どうにも興奮が収まらず、気絶したアリス様を横に手慰みし、眠らずに迎えた朝にまた抱いてしまった。
「もう、も、らめ、レイ!む、」
「ん~、アリス。まだ、いけますよね?」
「やっ、あ、ら、あああっ!」
どちゅ、どちゅん!
最近、やっとアリスの最奥まで埋め込めるようになった。それを聞いたアリスは美麗な顔を顰めて驚愕していたけれど、やはり初回で全てを受け止め切れるとは、俺でも思っていない。
奥の奥、コツンとその扉をノックすると、アリスは全身痺れたように痙攣して白い喉を晒す。
のけぞったその曲線全てが愛おしくて、そこらじゅうに噛みつき、吸いつき、跡を残す。
力を失って投げ出された四肢を抱き込み、愛しい人の中心に俺の痕跡をしっかりと付けておかねばならない。
どうも、俺は性欲が強いらしい。知らなかった。
アリスによってどんどん変態の扉を開いていく俺は、おそらく世界で一番の幸福者だ。
本当に、すぐ婚姻して良かった。幼馴染の皇子野郎にもアリスを取られそうになった。
俺が大人しく『保護』だけする訳がない。初恋の君だなんて、知るか。婚約者いるだろうがお前。
正直な所、アリスの能力を一番発揮できるのは皇子の妃だろう。と、俺は思っている。
しかし、俺だって負けていない。俺の顔は強面寄りだし、常にそっけない為令嬢にモテる事はない。つまり、あのクソ小僧のような浮気を心配させることもない。
次期辺境伯爵なので田舎暮らしにはなるが、シンプルな装いと良質な素材を好むアリスにはうってつけだと思う。
鍛錬だって好き放題出来るし、彼の好きな筋肉は沢山いる。
これに関しては俺以外見ないで欲しいが。
アリス様……『アリス』と呼ぶようになってからは、彼に相応しい夫なのか常に自問自答している。
不安になった時、彼は裏庭にあの『秘密の隠れ家』を出して、俺を誘うのだ。
「ね、また……なにか悩んでます?レイ。」
「いや……俺は、ただ……」
「早く、きて?今日は、お風呂にします?それとも」
「両方で」
俺の妻は女神だ。世界一というよりは、俺の世界そのもの。
もう跡形もなく消え去った、彼の元婚約者に、彼を手放してくれてありがとうと心の中で笑ったのだった。
俺は、違う。俺はその女神に手を伸ばし、その全てを欲した。
実家の生業の関係上、仕方なく隣国王国の騎士団に潜入した俺、レイグリッド。
気兼ねなくレイと呼んでくれていい。そう言って人の懐に入るのが仕事だ。
騎士団に所属しているだけで、いろんな令嬢からの噂話、王城内の政情などを裸にできる。
俺の実家はそういうことを専門にした家だったから、潜り込むのも簡単だった。
なんせ、この王国内の貴族にも分家があるからな。
ただ、誤算だったのは。王太子の婚約者が、人の魂を抜くほどの美貌を持っていたことだった。
あれは騎士団に入って、数年程だろうか。やっと新入りを脱した頃だと思う。
俺にとって王国の騎士の鍛錬は生ぬるいものだったが、汗をかいていた為に皆で水浴びをしていた時だった。
偶然通りがかったのだろう、そこは訓練場に繋がる中庭で、花など植えている訳でもない、近くに医務室があるというだけの廊下で、見かけたのが、アリス・シュヴァルツ公爵令息だった。
彼は真っ白で金糸の刺繍を施された、神官服にも似た清楚なローブを羽織っており、その背中には妖精の粉でもまぶしたような輝く銀髪を垂らしていた。
そして汗臭い男どもが水洗いしているのを眩しそうに目を細めて、フッ、と微笑んだのだ。
ドッ!
心臓を撃ち抜かれた。
すたすたと去って行く彼の後ろ姿を、一秒も残さず、瞬きもできずに見つめていた。
なに、あれ、ちょっと待って欲しい、心臓の替えが必要だ。
それからだ。どこか適当だった訓練をがむしゃらにこなし、『王族にも邪な想いは抱きません』みたいな硬派な顔で、どうにかこうにか女神の護衛騎士を勝ち取った。
なんせめっっ………………っちゃくちゃな人気だったからな。王族より人気だなんて公には言えなかったが、あの凛とした、どこか冷たい美貌を持った彼。
ほとんど表情は動かさないけれど、騎士団の訓練に混ざって真面目に剣術を学ぶ彼には、その、申し訳ないが、どう取り繕っても欲情した。
なんせ、あの真っ白な肌に汗を浮かべ、頬を紅潮させるのだ。小さな唇は真っ赤に熟れて。
普段ほとんど露出のない禁欲的な服装を好む彼が、訓練中だけは暑そうに袖を捲ったり、胸元を引っ張って汗を拭って……ちらりと見えたヘソの形の良さ。
恐らく他にも見た者がいるだろう。
全員に目潰しを仕掛けたい程悩ましい光景だった。
そんな彼の護衛騎士となれた。
交代要員として他にも何人かいるが、光栄なことに、アリス様は俺に心を開いていった。
アリス様の笑顔が見たくて、お茶を淹れた。
ちゃんと練習をしたから大丈夫なはず……と不安げに見ると、ふんわりと微笑んで『美味しい……!』と感嘆したように言う。
訓練相手が俺だと『お手柔らかに』とふにゃりと笑うし、彼が疲れた時に指圧をしてやれば『疲れが取れました。すごいですね……!』と褒めてくれた。
どんどん、どんどん嵌っていく。
アリス様の好む物は片っ端から集めたし、彼の好む料理を作れるように練習もした。
何なら、アリス様に似合いそうな服や装飾品も勝手に買い集めてしまった。
俺の収入の殆どを費やして。
俺の趣味がアリス様と新婚ラブラブ生活を妄想しての買い物だとすれば、アリス様の趣味は魔道具作製で、俺の前では割とふにゃっとしている(ように見える、俺の願望も入っているかもしれないが)アリス様もその時だけはキリリと鋭い目になる。
それを横で舐め回すように――違った、温かく見守るのもまた良きである。
その内、アリス様は俺に自作のそれを贈ってくれるようになった。
物理攻撃無効の腕輪や、位置情報把握のピアス。
そして、国宝にするべき貴重な空間収納魔法の鞄まで。
……これは、ひょっとして。ひょっとするのかもしれない。
だって、アリス様。
俺がパッと見るとすぐに目を逸らす。
その耳が赤いことは全然隠せていない。
じっ、と護衛騎士らしく直立不動で構えていれば、胸元に熱い視線を感じる。
そこにあるのは、俺の胸筋だけ。
どうも、アリス様は筋肉がお好きなようだった。
俺の血管の浮いた腕や、太い首筋を良く眺めておられる。
俺は歓喜し、ますます鍛錬に気合が入った。
だから何だ、と言われるかもしれない。
彼は俺の身体を鑑賞として気に入っているだけ。彼には正式な、この国で最も尊い地位の婚約者がいる。俺からすれば青すぎる小僧でしかないが、それでも彼は奴のもの。
それでもいい。一時でもあの人の視線を奪えるのなら、いくらでも見て欲しい。
そう思っていた頃だった。
「……あなたは?初めまして、ですね」
アリス様は、俺の記憶を失った。
初めて忘れられた時には、何か頭を強く打ったのだとか、衝撃的すぎる出来事が起こったのだと思った。
慌てて自己紹介をして、ほら、このカバンをくれたのもあなたですよ、レイと呼んでくれていましたよ、と思い出させようとした。
アリス様にそう伝えると、キョトンとした顔で『信頼は出来るらしい』と思ってくれたようだった。
しかし、以前のようなどこか甘さを含んだ視線をくれることは無くなった。
悲しかった。そこで初めて気付いた。
俺は、あの人を俺だけのものにしたい。失って気付くなどなんて俺は愚か者だったのか。
『一時だけでもいい』なんて嘘だ。
これからのアリス様の全てを全部、欲しい。
あの小僧なんかには勿体無い。
それから何度も、アリス様は俺の記憶を失った。
それは必ず、俺を愛おしそうに、蕩けるような目で見つめた後のこと。
彼は潔癖だ。だから、婚約者がいるのに俺へ向ける気持ちをどうにかしたくて、巧みな魔術を使って忘れようとしたのだろう。
切なくて、痛くて。その肩を抱いてやりたくて仕方なかった。
小僧に愛人が出来た。間諜として使えるものを最大限使って、愛人を支援した。
愛人は男爵令嬢で、殆ど平民。
貧相な身体に乗っかった童顔のどこがいいのか理解は出来ないが、アリス様を蔑ろにする小僧には似合いの相手だ。
愛人に好意的な噂を流し、愛人の見目をそれ以上損なわないよう資金を援助し。
その一方、祖国には『トン、と背中を押すだけで一国手に入ります』と報告し、準備を進めた。
幼馴染の皇子は、俺の連絡を聞いた瞬間GOサインを出した。いいのか、皇子。簡単だな。
アリス様を婚約者という柵から解放させる。そして『やっぱり戻ってくれ』なんて言わないように愛人と婚約、婚姻をさせる。
その間に手が出せないところへ保護してしまう。
アリス様が殆ど執務を行っていたおかげで、彼が抜け、さらに愛人という毒を喰らった王家は面白いほどボロボロに崩れていった。はは。いいザマだ。
文官も大臣も腑抜けすぎる。残しておいても使い道はなさそうなので、全取っ替えが必要だ。
まぁ、元はと言えば王が、優秀な婚約者を捨ててこの王妃を娶った時点で間違っていたのだろう。
生まれた王子はあまりにも頭が足りなかった。
国外追放されたアリス様は、冷静なようでいてどこか現実逃避をしているような、そんな危うい雰囲気を醸し出していた。しかも、前日に俺の記憶を消したばかりだったらしい。
クソ、こんな時に、と思いつつも、もう何度も忘れられて慣れてしまっていた。
アリス様が俺を忘れる時は、忘れたい程感情が昂ってしまった時なのだ。
そしてやはり、甲斐甲斐しく世話をする内に、アリス様は俺に心を許す。恥ずかしがって目元を朱に染めるアリス様の、可愛らしさといったら。
……あの人が俺を憎からず思っていることは自覚しているから、強気に攻めた。狡い?いや、これまでめっちゃくちゃ我慢してきたのだ。
褒めていただきたい。
どうにか丸め込んで抱いた夜は、頭が破裂するんじゃないかと思うくらい興奮した。
滑らかな白い肌。長い手足。うっすらと割れた筋肉に、肌の薄い箇所は桃色に色付いて。
もう、余すところなく全部舐めて味わった。
魔力の相性がいいのか、どこもかしこも甘くて痺れそうだった。
精液すら『はちみつミルク』なのか?と思うくらいには甘いのには驚いた。何故、この人は、こんなところまで俺を魅了するのか?
いや、違う、俺でなくても魅了するだけで、こんな姿を見せてくれるのが、俺だけだという事実。
どうにも興奮が収まらず、気絶したアリス様を横に手慰みし、眠らずに迎えた朝にまた抱いてしまった。
「もう、も、らめ、レイ!む、」
「ん~、アリス。まだ、いけますよね?」
「やっ、あ、ら、あああっ!」
どちゅ、どちゅん!
最近、やっとアリスの最奥まで埋め込めるようになった。それを聞いたアリスは美麗な顔を顰めて驚愕していたけれど、やはり初回で全てを受け止め切れるとは、俺でも思っていない。
奥の奥、コツンとその扉をノックすると、アリスは全身痺れたように痙攣して白い喉を晒す。
のけぞったその曲線全てが愛おしくて、そこらじゅうに噛みつき、吸いつき、跡を残す。
力を失って投げ出された四肢を抱き込み、愛しい人の中心に俺の痕跡をしっかりと付けておかねばならない。
どうも、俺は性欲が強いらしい。知らなかった。
アリスによってどんどん変態の扉を開いていく俺は、おそらく世界で一番の幸福者だ。
本当に、すぐ婚姻して良かった。幼馴染の皇子野郎にもアリスを取られそうになった。
俺が大人しく『保護』だけする訳がない。初恋の君だなんて、知るか。婚約者いるだろうがお前。
正直な所、アリスの能力を一番発揮できるのは皇子の妃だろう。と、俺は思っている。
しかし、俺だって負けていない。俺の顔は強面寄りだし、常にそっけない為令嬢にモテる事はない。つまり、あのクソ小僧のような浮気を心配させることもない。
次期辺境伯爵なので田舎暮らしにはなるが、シンプルな装いと良質な素材を好むアリスにはうってつけだと思う。
鍛錬だって好き放題出来るし、彼の好きな筋肉は沢山いる。
これに関しては俺以外見ないで欲しいが。
アリス様……『アリス』と呼ぶようになってからは、彼に相応しい夫なのか常に自問自答している。
不安になった時、彼は裏庭にあの『秘密の隠れ家』を出して、俺を誘うのだ。
「ね、また……なにか悩んでます?レイ。」
「いや……俺は、ただ……」
「早く、きて?今日は、お風呂にします?それとも」
「両方で」
俺の妻は女神だ。世界一というよりは、俺の世界そのもの。
もう跡形もなく消え去った、彼の元婚約者に、彼を手放してくれてありがとうと心の中で笑ったのだった。
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ご馳走様でした❤
なぁ恋様、感想ありがとうございます!
ゲフンゲフン自覚してますね(´∀`;)笑
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最高です
ご馳走様でした
シノア様、感想ありがとうございます!
他作品も見て頂けるなんて感謝感激です!ありがとうございます。゚(ノ□`。)゚。。