125 / 158
124
しおりを挟むあれ、痛くない……?
オルが、僕の上にいたヴァンパイアロードを薙ぎ払ってくれたのだ。
ニヤリと笑ったままの頭が床へ落ちていく。転がる前に霧のように消えて、また元通りになった。
「邪魔、だな……、小僧が」
「ロキ、立てるか!?」
「あ、ありがと、オル……っ、もう大丈夫」
立ち上がり、体勢を整える。周りは着実に、眷属を減らしていた。これなら……!
「今度こそ、隙は見せない。オル、みんな、……力を貸して」
信頼する仲間たちと一緒に。彼らの力も頼りにさせてもらえば、この強敵も倒せる!
そう思った時だった。
『ロクスウェル!』
ヴァネッサさんの声に励まされると同時に、漲る魔力!
くらりとよろめく程の、力の奔流。御しきれないほどの強大な魔力が僕に注ぎ込まれてくる……!
今なら何でも出来てしまいそうな全能感。自分の周りが淡く光り輝くのも気にせず、驚いているヴァンパイアロードに接近し、四方八方へと切り飛ばした!
僕の剣の先には、ヴァンパイアロードの胸元だけ。その心臓部である魔石に切先を当てた。
切り飛ばされた頭部は、ギンが確保してくれている。
腕は、ランスさんが氷漬けにして。
足は、オルが火で炙って。
胴体は、ミズタマが水膜の中に閉じ込めて。
「だから、無駄だと……我を切り飛ばしても意味は」
「随分と余裕ですね?……あなたの、眷属はどこへ?」
「はっ?」
立っているのは、僕たちだけになっていた。
死屍累々の上で、オルが豪快に燃やし尽くして楽しげにして、ランスさんは延焼しないよう優しく見守って。
ギンとミズタマは小さなスライムも使って魔石や素材を回収し、ケルンが1箇所に集めて。
サンは高いたかい天井にいつのまにか巣を張って、女王らしくふんぞり返っている。ネロはこの薄暗い部屋全体の影に潜んで息を殺している。
「な……っ!身体が、戻らない……っ!」
「眷属が全滅し、あなたの力が減っていくのを感じました。無駄話をしすぎましたね」
「ま、待て……っ!」
分断されたヴァンパイアロードの身体は、集合させないために仲間へと託した。
僕の狙いはこの胸の魔石だけ。切先を押し当ててーー。
「分かった!息子よ!我も従魔に降ろう!どうか!」
「……はい?」
息子じゃないけど……。
ギンに確保されているヴァンパイアロードの頭部が、必死になって懇願し始めた。
眷属が居なくなったとは言え、ヴァンパイアロード。戦力としても申し分ない。それに……ヴァネッサさんに謝らせたい。
「あなたは、先ほど、僕を眷属にしようとしていましたね。すぐに殺すことはしなかった。それに免じて、従魔にします。僕に従ってーーヴァンクリフト」
情けなく頭を垂れる彼にそう名付けると、ヴァネッサさんとは違い、片腕に紫の刺青が入った。
従魔になったことで、もう彼は僕に危害を加えられない。バラバラだった身体を解放すると、瞬く間に元通り、長身痩躯の美形となった。
「はぁ……仕方ない。長年かけて育てた眷属がいなくなっては……」
「言っておくけれど、もう人間は襲わないでくださいね」
「ああ。我は主の命令に従う」
おお……美形がビシッとしたジャケット姿で恭順を示していると、様になる。ランスさんもギョッとするほどに。
「また増えた……本当に、ロキの魔力はどうなっているんだい?こんなにたくさんの従魔を養えるほどあるって……」
「秘密の特訓をした成果と、魂の強化を多数こなしているので……、あぁ、帰還の魔術陣と宝箱が。やっぱりヴァンクリフトが迷宮主だったんですね」
「そうだ。普通の人間は五層にたどり着けただけで褒めてやるというのに……」
「褒めてやるって……っ、」
すこしふらつきを感じて、よろめく。オルの逞しい腕に支えられて体を預けると、眠気に抗えなくなってきた。
「オル、後はお願い……」
「無理しすぎだ、この……、任せろ!安心して休め」
ニカッと笑ういつものオルの顔を見て、僕は安心して力を抜いた。
83
お気に入りに追加
682
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる