泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

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ククリが買い出しから戻らない。

そう聞いて、即座にぷちギンたちをフォルナルク中に多数派遣した。

僕の商会を妬む商会は多いが、一通り報復し終えている。恐らく違うのだろう。

結局のところ、犯人は商会ではなく、ある一通の手紙によってすぐに判明した。

『ロキくん。そろそろ店舗も出来てきたし、一杯どうかしら?とぉっておきの茶葉を取り寄せたのよ。あなたの部下はもう、こちらに来ているわ。一人で来てくれないと、私ってば怖くて防犯装置が働いちゃうかもしれないの、気をつけてね』

そう書かれたメッセージの下には、やはり、セーラさんの名前があった。









僕は要求通り、単身、セーラさんの巣窟そうくつに向かった。旧区画の方の、忌まわしい記憶のある方に招待されているのは、わざとなのか。

セーラさんの薬屋だけは、ぷちギンも侵入出来ない。何か弾くような魔法が働いて妨害されてしまう。町中を探したのにククリがいないのなら、ほぼ確実に、セーラさんの縄張りの中。


「うふふ。さぁ、いらっしゃい」


バスローブ姿で出てきたセーラさんは屈託なく、悪気なく笑って僕をどんどん奥へと連れて行く。そこはあからさまなほどにプライベートな寝室。

小机に誘われて茶を淹れられたけれど、僕は気が気でなくて拒否をした。


「いえ、茶は結構です。早くククリを解放してください」

「ああん、そんなこと言って。ふふ。簡単に手に入らないから、愛しいのよねぇ。ね?ロキ、くん」


ゾッと波打つように鳥肌が立った。セーラさんの容姿はこれ以上なく美女だというのに、僕は嫌悪感しか浮かばない。

どうして、この人はこんなにも僕に執着するのだろうか。気持ちが悪い。セーラさんは、僕の顔の傷跡は全く問題視せず、恐らく、魔力とか精霊の加護とか、そういった能力面だけで判断している。それは僕にとって歓迎すべき評価だと思うのに、それでもなぜか、セーラさんに身を預けようとは思えなかった。

セーラさんの視線は、僕を通り抜けてどこかを見つめているようで。

普段以上に扇状的に崩れた胸元は、彼女の心の乱れも表しているようだった。


「貴方が悪いのよ?ぜんっぜん表に出てこないのだから、おびき寄せるしか無くなってしまって。ああ、今、あなたの部下は私のハクジュが付いてるから。私の意識を奪っても、危害を加えても神経毒を流し込むわ」

「……っ」

「そうなったら……体のどこか、一部だけ、完全麻痺に、なっちゃうかもしれないわね?可哀想に……」


僕をぽすん、と寝台に追いやって、セーラさんが上に乗っかり、ローブをはだけていく。うっ、やっぱり、気持ち悪い……!
吐き気を堪えても、出来るだけ冷静にならなくちゃ。魔力を薄く伸ばして、索敵の要領でククリを探す。2階、地下、隠し部屋。

その間にも、つ……、と素肌を弄られている。シャツのボタンを外され、ベルトを引き抜かれ、僕の、少年から青年に変わりゆく体を見つけたセーラさんはうっとりと微笑んでいた。


「はぁ、はぁ……っ、なんて、いい体なの。この柔らかな肌も、割れた筋肉も、まだ手垢がついてない。それに、とっても良い匂いだわ。エルフの血が騒ぐほどの……」


僕の方は血が騒ぐどころか、血の気が引いている。う、わ、僕の腰の上に跨ったセーラさんが、見せつける様に身体をくねらせた。

早く、早く見つけ……見つけた!

ククリと白蛇。セーラさんに気付かれないよう、最新の注意を払ってギンを召喚し、向かわせる。ククリを、助けて!


「あら……」


ピクリ。眉を上げたセーラさんが、動きを止めている。そして、僕を見下ろしてニタァと笑った。


「ロキくん。もう、いけない子ね。従魔をこっそり向かわせるなんて?お仕置きが必要なようね」

「……何故、気付いたんですか」

「ふふっ。侵入禁止の魔術陣よ。そのくらい描けなきゃ女一人で店は待てないもの」


下衣が引き抜かれて、下履きだけにされる。
どうしよう。ギンは、ククリのいる部屋に突進したけどびくともしない。なんて強固な結界!


「まぁ、私、人殺しはしないのよ。でも、そうね。あの子の下半身を、永遠に動かなくさせることは出来るわ。ああ、でも指先の方がお好み?世話する人をつけないと、まともに生活もできなくなるわね」

「非道な真似を……!何故、無関係のククリを巻き込んでまで、僕に執着するのですか!」

「無関係、ではないでしょう?あの子は、ロキくんの側で働いているんだから。……羨ましいことにね」

「あなたは、何を楽しんでいるのでしょうか。僕の子種が欲しい?いや、違う。あなたに子供を育てられる資格があるとは思えないし、僕もそう。ご自分の本能に従うのなら、僕の本能も尊重してくれませんか?『セーラさんとの子供は欲しくない』という」

「…………は?」


ドスの効いた低い声。

整った美女の顔は、恐ろしいくらいに無表情だった。


「ロキくんて、結構頑固よねぇ。もう本当に、腹立たしいわ。大丈夫、うまく出来なくったって、教えてあげるから」

「あなたのやっていることは、僕の虚像に自分の欲望をぶつけているだけです。僕の気持ちなんか要らないのでしょう?」

「なにを……」

「あなたにも、あなたの考えがあるのでしょうが、僕を巻き込まないでください。不愉快です」


僕の言葉に煽られたのだろう。セーラさんが怒りの形相で、僕の下履きに手を伸ばそうとした時――。

ズガァァァァンッ!

建物が大きく揺れ、凄まじい爆音!

どこかが確実に破壊された。

びくりとしたセーラさんが、慌ててローブを引っ掛けて走る。だが、部屋の扉が、明らかに逆側に開いて、セーラさんはべしゃっと叩きつけられた。


「ロキッ!」

「あ……、レイ、様……?」

「うわ、なんて格好を……!ロキ、大丈夫!?」


レイ様と、それから遅れて現れたのは、ランスさんだった。


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