泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

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「これが僕の……!」


レイ様もランスさん、オルも並んで、聳え立つ門を見上げて言葉を失っていた。


「圧巻だな……。侵入する者を挫折させるのに打ってつけの見た目だ」

「規模の小さい砦みたいだね」

「爺んちよりでかい……!でも、あのキラキラの屋敷より親近感あるぞ」


そこは僕の要塞。
外壁の厚さだけで一軒家くらいあるかな。内部は廊下や、休憩室なんかもあって、万が一の際はここから攻撃出来るようになっている。もちろん結界の魔道具は設置済み。

トンネルのような門を越えたら、泉が見える。そこそこ大きい泉は周囲を綺麗に整備した。この周りを走るのも気持ちよさそう。ケルンとミズタマはここに住むみたい。

泉の周りを囲う様にして、大きな屋敷が建っていた。
大きな、と言ってもレイ様たちの住まうお城よりはもちろん小さいよ。
けどね、この屋敷の下には迷宮も真っ青なくらいに広い地下室がある。そこは主に僕の従魔用のスペース。

サンがアラクネ姿で寛ぐには体育館レベルの部屋が必要だった。ギンは地下室……というよりも地中の鉱石を探して勝手に掘って吸収しているみたい。所々にギンの小さな隠し部屋が出来た。可愛いので放置。

ヴァネッサもハーフヴァンパイアの特性か、地上より地下の方を好んだし、ネロもそう。ヴァンクリフトには拷も……趣味の部屋を作ってあげた。ただしあまり褒められた趣旨の部屋ではないので、地下の中でも目につかない、入り組んでいる所にね。

アリの巣みたいに複雑な作りの地下室は、僕の地図書には全て描き出されていた。そこから一本真っ直ぐに伸びる線がある。出た先はブランドン侯爵家の地下だ。
これはロイド様のご要望で、侯爵家に何かあった時にこっちに避難させて欲しいみたい。もちろんお世話になっているから構わないけど、願わくばそんな万が一は起こらないことを願う。
一応鍵は、僕だけしか開けられないように『真実の鍵』で閉めている。あちらの屋敷に不届者がいないとも言い切れないから。


地上は一室一室、すべてに結界を張っている。別に貴族の家でもなんでもないし、お客さんをもてなす時はここではなく社員寮の方の屋敷を使うので、客室は無い。余っている部屋はあるけどね。

僕はもちろん、レイ様、ランスさん、オル、シガールさんとククリの部屋もあって、レイ様以外はみんな同じ家で暮らすことになる。
その為、一人一人の部屋は四つずつあって、寝室、衣装室、茶室、簡易浴室がある。気兼ねなく快適に過ごせるように。アパートみたいな感じかな。

レイ様は、卒業後はここか、侯爵家の往復になると思う。どちらにしても、……えへへ、嬉しいな。

ウリエルの部屋が一番面倒だったかもしれない。とにかく綺麗な部屋がいいとうるさかったので、天井がガラス張りかつ一面ステンドグラス、残った三方が鏡張りで床は大理石という、僕から見たら何とも落ち着かない部屋になっていた。ウリエルはうっとりして、ごろごろ転がっていった。

個室の他に一番力を入れたのは、お風呂。とにかく大きくて、温泉風を目指したんだ。ジャグジーのようにポコポコと吹き上げる魔道具まで作り、岩盤浴室まで作ってしまった。僕のリラックスに対する執着心が伝わってくるだろう。みんなで一緒に入るのも楽しそうだ。


屋敷の手入れ兼警戒には、魔導人形のニコとミミを。ぷちギンもミズタマも『清掃』を使えるから、汚くなることはないと思う。

各所にカメラというか『目玉』がこっそりあって、それを二人に接続しているから、侵入者がもしいたら即座に駆けつけて排除するから、ヴァンクリフトの餌食になる。えっと、後で治してあげるから問題ない……かな?多分。


屋敷の周りには木を残していて、ジジとピピが自由に飛べる様にしている。あっ、卵だけはその辺に放置ではなく亜空間部屋の方にするようにお願いしている。踏んで割ってしまったら悲しいから。

トア爺も誘ったけど、社員寮の方が良いみたいで断られた。『爺には介護要員が沢山いる方が良いんじゃ』なんて笑っていたけど、単純に人が好きだものね、トア爺は。


「最高だな。安心感が半端ない。人がいないのもいい。そうか、平民だと使用人を雇うのも難儀するか……」


レイ様に褒められると嬉しい。レイ様は使用人のいる生活をしてきたけど、冒険者生活もこなせるくらい身の回りのことは出来る。


「はい。従業員はともかくとして、使用人になる人は貴族に仕えたい希望の人が多いみたいですし、今の所は雇う予定はありません。ここはその、信頼のおける人しか入れたくないので」


照れてしまって目を伏せると、オルに抱き付かれてしまう。ランスさんもオルごと抱きしめてくれるし、シガールさんやククリも感慨深そうに瞳を潤ませていた。


「ロキのそのスペースに入れてくれて、この上なく嬉しい。その信頼を裏切ることの無いよう尽力する」

「れ、レイ様……、そんな、こちらこそ身分不相応なことを言ってすみません」

「ローキー、ほんと、オレ、めっちゃ嬉しい!荷物は殆どねぇけど、徐々に増やしてこうかな」

「俺も、冒険者だし私物はあまり増やしてこなかったけど、それもいいね。ロキと観光地行って土産を買うのも楽しそうだ」

「それはいいですね!」


この四人は武力も申し分ないし、シガールさんとククリも元冒険者で、一般人よりも余程度胸が座っている。

だから、安心していたのだ。



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