139 / 158
138
しおりを挟むレイ様の二回目の長期休暇は、殿下のパシ……側近任務から開放されたらしい。
とはいえ、卒業後の進路を決めるため、まずは代官としてのお仕事を体験するみたい。今の代官さんに教わりに行くと、寂しそうな顔をして、毎朝出勤していく。
そんなレイ様を見送ったら、僕は社員寮へ行ったり、新区画の方へ工事の手伝いをしに行ったりする。
まとまった時間が取れたので僕は魔導人形を追加作成した。これ、ものすごい長時間の集中が必要なんだ……。なんせ、つま先から頭のてっぺんまで、一度に作り切らないといけない。それに、外形にもこだわりたいし、機能も充実させたい。数日は引き篭もった。
やはり二回目ということもあって、イチゴちゃんよりは早く完成した。その勢いのまま、第三号も作ってしまう。
二号はニコ。三号はミミと名付けた。大きさ的には、太ももに頭がくるくらいの身長なので、モデルはやっぱりマシロになった。ただ見分けが付くように、目に見える所のほくろの数を変えてみた。
イチゴちゃんは目の下に一つ。
ニコはこめかみに二つ。
ミミは頬に三つ。
それ以外の容姿と基本機能は同じ。ただ、ニコはより隠密というか、気配を消す能力を上げられたし、ミミは打撃の強さを強化した。この子たちは、新しい家でも活躍してくれるだろう。それまでは店舗の方を巡回警備してもらうことになる。
イチゴちゃんたち魔導人形は、夜であろうと関係なく警備が出来るのが良い。一応お店でも夜間警備を雇ってはいるものの、大人数で来られたらなかなか厳しいものがある。
そこに魔導人形を置いておくだけで淡々と処理をしてくれるのだから、僕の心の安寧にも大いに寄与している。
フォルナルクの子供たちは、ニコとミミのお姉さんお兄さんになってくれた。その中でもイキの良い……ええと、とてつもなく元気を持て余している子たちがいて、僕は彼らを工事中の新区画の方に連れて行った。
ニコとミミが一緒なので安全面は担保されている。町のそこかしこに立派な遊具を作ってあげると、喜んで滑ったり登ったりしていて、ほっこりする。僕の記憶の中の公園や、遊び場にあったようなものだから、こちらの世界では斬新に映るだろう。
何回か遊具を作り直して、彼らを疲れさせるのに最適なものに調整。大雑把に作ったので、細かい所はロイド様がなんとかしてくれるだろう。
心配で着いてきたご両親の休む所も作ってあげると、『こっちに移住しようかな……』と真剣に悩まれていた。うんうん。ほっこり家族風景は大歓迎だよ。
そして片手間に、コタツも作った。作ったというか魔導人形に比べればポン、カチャン、と組み合わせただけのようなお手軽さだった。
ブランドン侯爵家では基本的に椅子生活なので、これは馴染まない。だから、僕はこれを社員寮へ持って行き、使っていない部屋を土足禁止にして、設置した。
ついでにもこもこ絨毯やクッションも敷き詰めて。
やっぱりコタツには蜜柑だよね。ということで、僕の亜空間の薬草畑で実っていたミカンをカゴに入れて置いてみると、瞬く間に従業員の憩いの場になったよう。ミカンは秒で無くなった。いいんだ、これも社員の特権だもの。
「ほう……このまま天に召されそうじゃ……」
「トア爺、いつもいるね?気に入ってくれたんだ、嬉しい」
トア爺はここの主になったみたい。コタツに入って弟子たちの提出したレポートを添削しながら、ミカンの汁を飛ばしている。
それに頻繁に従業員たちが休みに来るから、和気藹々と話したり、話し過ぎると業務に戻るよう促したりしてくれていた。
「ここは良いのう。はぁ、良いことじゃ……」
「どうかした、トア爺」
トア爺は幸せそうなのに、どこか憂いを帯びた表情をしているのが気になった。
「いんや、爺がこうして残り少ない余生を穏やかに、好きなことをして過ごせているのは、ロキのおかげじゃ。……ただ、街の貧民街の子供達もまた、気になってのう……キリは無くとも、な」
「トア爺は、今は診察はしていないものね……」
思えば、僕の魂が混ざってから、初めて会ったのはトア爺だった。トア爺は、本当に慈愛の人なんだなぁ、と再確認する。
ここでぬくぬくと安全にポーション類を作ったり、弟子を育てるよりも、貧民街に行って、どうしようもない状況に追い込まれた人々を救いたいと、思っているのかな。
「今のトア爺はきちんとした格好をしているから、貧民街に行くのは危ないと思う……身包み剥がされちゃうよ。それに、貧民街の住人の救済は、領主の仕事、だよね……?」
「もちろん、分かっておる。今の爺では、行けない……」
「それなら、ロイド様からちゃんと報酬を貰って、貧民街に行くのはどうかな。その分、うちの従業員として働く時間を短くして。……言ってみようか?」
「……それはいい考えじゃ。ロイド様とは爺も面識がある。爺から話をしてみることにするぞ。ありがとうな、ロキ!」
ほっとした様子のトア爺にぎゅうっと抱きしめられた。ふふっ、あの時よりもマシな匂いのトア爺。今はちょっとミカンの匂いもするのが面白くって、僕もくすくす笑いながらハグを受け入れた。
その後、トア爺は正式に『フォルナルク専任薬師』として任命されて、傭兵らに守られながら貧民街へ向かい、治療を施すことになった。
その頃になってようやく、マリーの移送が終わったと聞いた。
どれだけ遠くへ行ったのだろう?とにかく、絶対にそこから出てこれないということだけを聞いて、僕はすっきりした気持ちになったのだった。
82
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる