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レイ様の二回目の長期休暇は、殿下のパシ……側近任務から開放されたらしい。
とはいえ、卒業後の進路を決めるため、まずは代官としてのお仕事を体験するみたい。今の代官さんに教わりに行くと、寂しそうな顔をして、毎朝出勤していく。

そんなレイ様を見送ったら、僕は社員寮へ行ったり、新区画の方へ工事の手伝いをしに行ったりする。

まとまった時間が取れたので僕は魔導人形を追加作成した。これ、ものすごい長時間の集中が必要なんだ……。なんせ、つま先から頭のてっぺんまで、一度に作り切らないといけない。それに、外形にもこだわりたいし、機能も充実させたい。数日は引き篭もった。

やはり二回目ということもあって、イチゴちゃんよりは早く完成した。その勢いのまま、第三号も作ってしまう。

二号はニコ。三号はミミと名付けた。大きさ的には、太ももに頭がくるくらいの身長なので、モデルはやっぱりマシロになった。ただ見分けが付くように、目に見える所のほくろの数を変えてみた。

イチゴちゃんは目の下に一つ。
ニコはこめかみに二つ。
ミミは頬に三つ。

それ以外の容姿と基本機能は同じ。ただ、ニコはより隠密というか、気配を消す能力を上げられたし、ミミは打撃の強さを強化した。この子たちは、新しい家でも活躍してくれるだろう。それまでは店舗の方を巡回警備してもらうことになる。

イチゴちゃんたち魔導人形は、夜であろうと関係なく警備が出来るのが良い。一応お店でも夜間警備を雇ってはいるものの、大人数で来られたらなかなか厳しいものがある。
そこに魔導人形を置いておくだけで淡々と処理をしてくれるのだから、僕の心の安寧にも大いに寄与している。


フォルナルクの子供たちは、ニコとミミのお姉さんお兄さんになってくれた。その中でもイキの良い……ええと、とてつもなく元気を持て余している子たちがいて、僕は彼らを工事中の新区画の方に連れて行った。

ニコとミミが一緒なので安全面は担保されている。町のそこかしこに立派な遊具を作ってあげると、喜んで滑ったり登ったりしていて、ほっこりする。僕の記憶の中の公園や、遊び場にあったようなものだから、こちらの世界では斬新に映るだろう。

何回か遊具を作り直して、彼らを疲れさせるのに最適なものに調整。大雑把に作ったので、細かい所はロイド様がなんとかしてくれるだろう。
心配で着いてきたご両親の休む所も作ってあげると、『こっちに移住しようかな……』と真剣に悩まれていた。うんうん。ほっこり家族風景は大歓迎だよ。








そして片手間に、コタツも作った。作ったというか魔導人形に比べればポン、カチャン、と組み合わせただけのようなお手軽さだった。

ブランドン侯爵家では基本的に椅子生活なので、これは馴染まない。だから、僕はこれを社員寮へ持って行き、使っていない部屋を土足禁止にして、設置した。
ついでにもこもこ絨毯やクッションも敷き詰めて。

やっぱりコタツには蜜柑みかんだよね。ということで、僕の亜空間の薬草畑で実っていたミカンをカゴに入れて置いてみると、瞬く間に従業員の憩いの場になったよう。ミカンは秒で無くなった。いいんだ、これも社員の特権だもの。


「ほう……このまま天に召されそうじゃ……」

「トア爺、いつもいるね?気に入ってくれたんだ、嬉しい」


トア爺はここの主になったみたい。コタツに入って弟子たちの提出したレポートを添削しながら、ミカンの汁を飛ばしている。
それに頻繁に従業員たちが休みに来るから、和気藹々と話したり、話し過ぎると業務に戻るよう促したりしてくれていた。


「ここは良いのう。はぁ、良いことじゃ……」

「どうかした、トア爺」


トア爺は幸せそうなのに、どこか憂いを帯びた表情をしているのが気になった。


「いんや、爺がこうして残り少ない余生を穏やかに、好きなことをして過ごせているのは、ロキのおかげじゃ。……ただ、街の貧民街の子供達もまた、気になってのう……キリは無くとも、な」

「トア爺は、今は診察はしていないものね……」


思えば、僕の魂が混ざってから、初めて会ったのはトア爺だった。トア爺は、本当に慈愛の人なんだなぁ、と再確認する。

ここでぬくぬくと安全にポーション類を作ったり、弟子を育てるよりも、貧民街に行って、どうしようもない状況に追い込まれた人々を救いたいと、思っているのかな。


「今のトア爺はきちんとした格好をしているから、貧民街に行くのは危ないと思う……身包み剥がされちゃうよ。それに、貧民街の住人の救済は、領主の仕事、だよね……?」

「もちろん、分かっておる。今の爺では、行けない……」

「それなら、ロイド様からちゃんと報酬を貰って、貧民街に行くのはどうかな。その分、うちの従業員として働く時間を短くして。……言ってみようか?」

「……それはいい考えじゃ。ロイド様とは爺も面識がある。爺から話をしてみることにするぞ。ありがとうな、ロキ!」


ほっとした様子のトア爺にぎゅうっと抱きしめられた。ふふっ、あの時よりもマシな匂いのトア爺。今はちょっとミカンの匂いもするのが面白くって、僕もくすくす笑いながらハグを受け入れた。


その後、トア爺は正式に『フォルナルク専任薬師』として任命されて、傭兵らに守られながら貧民街へ向かい、治療を施すことになった。




その頃になってようやく、マリーの移送が終わったと聞いた。
どれだけ遠くへ行ったのだろう?とにかく、絶対にそこから出てこれないということだけを聞いて、僕はすっきりした気持ちになったのだった。











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