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「よしっ、スッキリした。さぁ、視察させてくれ」

「はい。……んんっ」

「なんだ?ロキ。……うぉっ、なんだこれは!可愛いじゃないか!さすが俺、妙に似合っている。レイモンだろ、これは妹のために貰っておこう」

「どうぞご自由に。もっと恥ずかしがるかと思ったが、残念だ」


エメラルドグリーンの短髪に、きらきらしたイチゴのヘアピンを差している美丈夫。似合っていないのが一周回って、強烈なインパクトを残している。ハイセンスな方から見ればそれが似合っているということ……?


屋敷を出て、新区画へと移動した。今は外壁が少しずつ積み上がってきたし、道の舗装や僕の要塞(予定)のおおまかな区分けがされてきた所だった。


「今日は地形をちょっと弄ろうかと」

「ちょっと弄る……って?」

「土魔法を使います」

「そんな料理みたいな」


僕の要塞はなだらかな丘の上が良い。万が一水責めなんてされても大丈夫なように。
開発した際に、偶然存在していた小さな泉があった。オルやミズタマも希望していた水辺だ。そこを中心にして、拠点を作ることにしたのだ。土魔法を使って地面を盛り上げて、丘に形成していく。

気分は秘密基地。要塞の周りもまた、高い外壁と観測台を備え付けて、所々に設置型結界の魔道具を固定する場所も作る。

土魔法とギンの協力で出来た激強の石を、大工さんたちに渡しておく。


「なんだそれ……、ロキの土魔法も常識はずれな上に、シルバースライムでさらに強くしている……のか?」

「何を作るつもりなんでしょうね……」

「僕の家です」


僕が自信たっぷりに言うと、レイ様が遠い目をしていた。


「俺のロキは凄いだろう。スタンピードにも耐え得る家を作っている」

「僕の家の近所でスタンピードなんか起こさせませんけど……」

「じゃあ一体何から何を守るんだ……?」


そう言われると、むしろこのフォルナルクの町で一番の危険人物は僕かもしれない。そんな僕を守る要塞を作っているつもりで、町の人を僕から守っている?あれ?


「ロキは不思議と巻き込まれやすいから、いざと言う時はここに籠るのだろうな。今度は迷宮じゃない分、俺も安心だ」

「……籠る?へえ、ロキは籠る習性を持つのか」

「そうですね。長期間籠城しても大丈夫な作りにしますので、レイ様もぜひ」

「楽しみにしている」


僕がお誘いすると、レイ様は嬉しそうに微笑んだ。ふわ、目を細めて笑うレイ様の顔は珍しくて、僕まで嬉しくなった。


「おいおい、ロキ、俺は誘ってくれないのか?」

「………………」

「だんまりか。まぁ、勝手に押しかけるけどな!」

「そういう性格だからロキも誘わないんですよ、ダニエル様」


そうだなぁ、僕の要塞に入っていい人は、シビアに決まっている。

トア爺、ランスさん、シガールさん、ククリ、レイ様、ロイド様、オル。
僕の素顔でも泥のような顔でも、態度の変わらなかった人たち。

それから従魔のギン、ジジ、ピピ、サン、ネロ、ケルン、ミズタマ、ヴァネッサ、ヴァンクリフト。

だから、社員寮も要塞の外なんだ。そちらはそちらでちゃんと外壁も作るけれど、僕の要塞とはまた別。

こうして考えると、意外と少ないような気もする。でも、僕の心休める場所だから、僕の好きにしていいよね?


「さて、社員寮の付近も行かなくては……」

「話を逸らしたな」









ダニエル様とエリオット様は、今日はブランドン侯爵家でお泊まりだ。
その為、使用人たちは既に万全の用意をしていたの、だが。


「ロキのウォーターベッドにどうしても寝たい」
「ロキの夜食が食べたい」
「アオザイと浴衣、気に入った!買うから家の方に送ってくれ」


と、要求がすごいのだ。

一つ一つは特に手間のかかるものではないダニエル様の要求なのだけど、息を吸って吐くたびに言いつけてくるので、使用人と僕の従業員皆んなが忙しくなった。

エリオット様は恐縮して、大きな体躯を小さくしようとしていて……笑ってしまった。エリオット様は何にも悪くないのにね?

さりげなく高額商品を混ぜてみたけど快く購入して下さったので、文句はない。

ダニエル様とレイ様は同じ客室に寝台を並べて寝る予定だったのだが、深夜にレイ様が『話疲れた、無理だもう寝る』と言って自室へ戻って行った。


「ロキ~~、レイモンが冷たい。代わりに話し相手しろ」

「はい……明日も視察の予定ですが?」

「寝ている場合じゃないだろ!?」


僕も寝る直前だったので、アオザイを着ていた。いそいそとレイ様の寝る予定だった寝台に登ると、ダニエル様の目がギラつく。


「ワオ。それ、いいな。すごくいい……」

「お触り禁止です。そもそも、ダニエル様はご婚約者がいますでしょう」


伸びてきた手を容赦なく叩き落とすと、ちっとも痛くなさそうなのに大袈裟に手を押さえている。ご自分だってアオザイを着ているのに、なぜ僕のアオザイを欲しがるのか。


「あ~……婚約は、白紙になったんだ。言ってなかったか……。チャムリー男爵令嬢の呪具騒ぎがあっただろ?あれの後からギクシャクして、俺もどうすればいいのか分からなくて、挽回できないうちに、向こうから申し出があって。新しい婚約者とは仲が良いみたいで良かったよ」

「そ……う、なのですか……、そんなことが……」

「ハハッ!俺の自業自得だから、ロキがそんな顔をするんじゃない。まぁ、幼馴染ってだけで、あんまり相性が良くなかったんだ」

「へぇ……」


僕があまり喋らずとも、ダニエル様はペラペラと話していく。まるで鬱憤を晴らすように。

ダニエル様は軽薄に見えるけれど、不埒な遊びをしている訳ではなく、人脈を作るために話しかけやすい雰囲気を心掛けているのだそう。そうして色々な人と交流していくと、ダニエル様は自分の欲求に素直な人の方が分かりやすくて、一緒にいるのが楽だと感じたそう。

……確かに、その点は、チャムリー男爵令嬢は分かりやすかっただろうなぁ……、と僕はぼんやり思い出す。よく言えば素直、悪く言えば単純。それで簡単に魅了されてしまった訳だ。

逆に、元婚約者の令嬢は大人しく、ダニエル様の後ろをしずしずとついてくるようなタイプだったようで、『何か不満があっても勝手に我慢して突然噴火するんだ。後で言われたってどうしろって話なのに……』と言う。僕は正直、その令嬢の気持ちは分かる。

あれでしょう。僕も、不満を感じても言えないタイプ。そして何も言わずに視界からフェードアウトする。そういう所は、日本人らしいと思う。

不満というか、『僕に合わない人なんだなぁ』ということだし、僕が『こうして欲しい』と言って変えさせるのも烏滸おこがましいというか、そこまでの情熱を持てないというか。

あ、でも、オルには言ってしまうかもしれない。ちょっと水浴びだけじゃなく湯浴みもしようとか、声が大きすぎるから今は小さくして、とか。それをオルは何も考えずに、すぐに受け入れてくれると分かっているからかな?

なので、ダニエル様の主張には、『言えるほどの関係じゃなかったのでは……』と思ってしまった。


「僕も、そのご令嬢に似たタイプだと思います」

「……そうか?いや、俺には分かりやすいタイプだと思うぞ。ロキは」

「……え?」



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