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しおりを挟むマシューは貧民街の幼な子に、甘い言葉を囁いて誘拐しようとしている所をぷちギン精鋭隊が見つけた。
ギンの金属性の薄い膜で覆った。こうなるとどこへ攻撃をしても全部反射するため、マシュー(悪魔)はボロボロになって項垂れていた。
そのまま駆けつけた僕たちによって拘束、連行だ。
『イヤ、マジこれは無理っしょ人間んん……』
「中身は案外、俗物っぽいのですね」
『まぁねぇ、来世で頑張るわ~、どうせまた魔界に帰るだけだしぃ』
そんな、少し可哀想とすら思える悪魔はロイド様に引き渡し、領地内にいた平民ということもあって、手続きもそこそこに処刑台で首を刎ねられていた。マシューの体から黒いモヤが抜け出て地中深くに潜っていったのを、見えたのは僕だけだった。
呪具の代償として、魔物になってしまうなんて。一応は血の繋がりのあるという人だけど、全くもって同情はできなかった。
謎だったのは、マシューが呪具を購入した店。あんな危険なものを売っているのは違法なのだが、探しても見つからなかった。ぷちギンの情報通りの場所には、長年やっている全く別の店があり、まるで幻に騙されたようだった。
クルトル伯爵領も落ち着いてきたことだしと、僕はフォルナルクの新区画計画に大忙しだった。
「オル!こっちお願い~!」
「おうっ!任せろ!」
地を均したらオルに雑草を根から焼いてもらって、綺麗にする。外壁建設予定地に、僕がモリモリと真四角の石を生み出せば、ギンがぱくっ、ぷちゅ!と吐き出す。これは鉱石を混ぜ込んで補強しているんだって。そうして出来た激強の石のブロックを、職人たちが組み合わせながら壁を形作っていく。
フォルナルクと新区画は、やや潰れた雪だるまのように、丸を二つくっつけたような形だ。つまり新区画もかなりの広さがあると言うこと。
土地代を払わなくていい代わりに、新区画に指定した全ての未開拓森林を伐採しろって事なんだけど、自分でも呆れるくらい魔力が異常に多かったために、たった数時間で見通しが良くなった。レイ様はぽかんとして、『改めて鳥肌が立つほど頼もしいな』と、引いていた。
そこまで大規模に地形を変えたということで、つまり、フォルナルクというかブランドン侯爵家というか、注目が集まったのは仕方のない事……だよね。
「ロキ。今度俺とエリオットで開発中のところを見たいのだけど、いい?」
「レイ様へ言って下さい」
「もちろん言ったさ。それが、『本人が良いと言えば許可する』ってレイモンが。良いだろ?」
「面白さとは無縁の地味な作業ですけど、それでも宜しければ」
「つれないなぁ。でもオッケーってことで、よろしく頼むぞ!」
ダニエル様とエリオット様が、とっても楽しみにしているみたい。その接待はレイ様に振りかかり、そして僕へと来るんだろうなと分かる。まだ、ダニエル様はお話ししやすい方なので良かったかな。
学園が休みの日。レイ様は僕の遠距離転移でブランドン侯爵領のフォルナルクに帰る。本当は王都のタウンハウスでお兄様やお母様と過ごされるはずなのだけど、遠距離転移が使い放題ならサクッと帰れてしまうものね。
そういう訳で、今回はダニエル様とエリオット様も連れて、転移を発動させた。
「うぉ……っ」
「ぐ……」
「懐かしいな、そういえば初めて転移した時は大変だった」
ブランドン侯爵家の屋敷前。到着したと同時にお二人は崩れ落ち、レイ様はウンウンと頷いていた。魔力酔いというやつかなぁ。でも、学園のある王都からここまで馬車で来た場合の疲労感よりは、随分マシだと思う。
ブランドン侯爵家に入った二人は、やはりフィッツロイ公爵家――たぶん豪邸――に慣れているのか、このお城みたいな屋敷に驚くことは無かった。
ロイド様も在宅されていたため挨拶を交わした後、何故か僕の自室に案内してくれと言われる。
「ロキの待遇の良さが伝わってくる部屋だ。確かにフィッツロイに迎えたとしても、このレベルの待遇が必要な重要人物ではある」
「あ、噂のお母様ですか。こんにちは~、ロキの友だちのエリオットですぅ、めちゃくちゃ美人ですね!」
「はぁい、こんにちはぁ。息子がお世話になっています~!」
僕の部屋で裁縫をしていたヴァネッサがニッコリと微笑み、エリオット様は流れるように褒め称えた。
「ロキも綺麗だけど、お母様はあどけない感じの可愛らしさも持っていらっしゃる。こんなに素敵な人は初めて見ました!」
「まぁ、うふふ、お上手なのね!私、魔物だけれど。嬉しいわ!」
「あ……」
言ってなかったっけ?とレイ様とダニエル様を見ると、『聞いたけど一瞬で吹き飛んだんだろ』と小声で囁かれた。エリオット様の笑顔は張り付いていた。
「エリオットは放っておいて、ロキ、とても良い部屋だな。ここで少し休ませてもらっていいか?」
「僕は構いませんよ。ただ、ここにいると色々な人が来ますので、それでも宜しければ」
「それもまた一興だな!」
ウォーターベッドならぬウォーターチェアを並べた。これは見栄えはあまり良くないけれど、座るともう二度と立てなくなる魔の椅子。あ、呪いではないよ。
お三方に紅茶やお茶請けを出している間にも、ずっぽりと沈み込んだダニエル様は寝落ちしており、エリオット様は睡魔に抗っているところだった。レイ様は魔力酔いもしていなかったので、軽くぽよぽよと弾んで遊んでいる。
「ふ、あ……、こ、これは……!だめです~……ロキ、替えてく、れぇ……!」
「シュッと休んでシャキッとして下さい。後で起こしますから。ね?」
「ふぬぅぅぅう……う……」
僕の言葉に、エリオット様は陥落していった。疲れている時にめちゃくちゃ効くのだ、このウォーターチェアは。
「……暇だ、復讐でもしておくか」
レイ様はクスリと笑って、ダニエル様の髪の毛に可愛らしいヘアピン(イチゴちゃん用)を付けていた。
幼少期、レイ様はよくダニエル様にこのような悪戯をされていたのだとか。学園でこんな復讐をするのは高位貴族として相応しくないため、この機会にやり返しているらしい。……仲が良いようでなによりだ。
お二人が体力回復に努めている間に、シガールさんやククリ、トア爺たちも代わる代わるやってきては商会の何が売れ行きが良いとか、新商品を開発したとか、素材が減っているから出せとか言うので、僕は全く休めないのだった。
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