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フォルナルクは、領民を守るための高く硬い外壁で囲われている。

僕が商会を作ってからというものの、フォルナルクの経済は活発化し、民も増え、地価は上がる一方だった。つまり、もう街の中は飽和状態。

そこで僕が家を、それも従魔と共に住まう大きめの土地をどうしようかな、と相談したところ、外壁を追加で作り、街を広げることになってしまった。


「外壁を広げる……それはまた、大変なことになりましたね」

「他人事じゃないぞ、ロキ。でないと君の屋敷は犬小屋になる。嫌だろう」

「はい……、なんだかすみません……」


広い屋敷を建てる筈が、街の拡張工事になってしまった。そんなこと、ある?


「でも、いいきっかけになったと父上がニヤリとしていた。ロキもうちに定住してくれるとなると、街の価値も上がる」

「そんな……転移を使うので、いつもいる訳では無いのに」

「それでも、だ。星持ちAランク冒険者の住む町というだけで、安心して住めるというものだ」


何だか恥ずかしくなって俯いた。

本来ならレイ様の住む屋敷は、街の中心部、外壁から離れた安全な場所だ。一方で、僕たちは皆戦闘能力が高いし、屋敷にも防犯装置をたくさんつける予定なので、新区画でも全く問題ない。

つまり、レイ様が入り浸る予定の屋敷、という観点から言うと、相応しくない。

なのに、僕の屋敷(予定)の中に、レイ様も不自由なく使えるお部屋をいくつか作ることになった。本当は建物ごと別の方が良いんじゃないかと思ったけれど、防犯のためには同じ建物内にある方が安心みたい。

『星持ち冒険者の家に忍び込むやつなどいないだろう』とのこと。

大工さんやデザイナーさんもたくさん呼ばれて、僕の意見最優先で色々決まっていく。ええとね、僕は平民の冒険者だよ?と思うけど、皆がニコニコしているからいいか。雇用が生まれて嬉しいんだな、きっと。

僕の屋敷を建てるんだよ~、住みたい人もそうでない人も色々意見出してね、と言ったところ、本当にみんな遠慮なく、容赦なく出してくる。


「屋敷の周りにロキ商店街を作りましょう。社員寮も完備で。冒険者ギルドの支店も必須ですね、要請しておきます」


とシガールさんが。


「妾は色んなテイストの服屋を一気に見れる大型の店が良いですわ……いちいち会計するのも面倒なんですの」


とサンが。


「町民たちの憩いの場も欲しいです、噴水とか……あっ、出会いの場にもいいですし」


とククリが。


「泉と丘と川が欲しい!あ、温泉も!」


とオルが。それはちょっと無理だと思う。


「闘技場とか良くない?ちょっと殺伐とした雰囲気のさぁ、格好いい感じで」


とランスさんが。一体どんな街を想像してるんだろ……。

あとは『四方が全部ぷにぷにの部屋』『キラキラの藁の巣』『真っ暗な部屋』『水辺』『薬草畑』『広い舞踏場』『拷問部屋』と……僕の屋敷が混沌としてしまう……。どれが誰の要望かは、分かると思う。

従魔はともかくとして、それは領主の仕事だよ、と言う内容は、ロイド様によって許可されていた。いいの?

この街の拡張計画のうち、整地や外壁の形成を僕の魔法で協力することで、もれなく新区画の敷地を優先的にくれるみたい。くれると言っても元々は草原の広がる土地。もう、僕が好き勝手に街を作っても良いかなと思ったけど、領地経営知識なんて持ち合わせていないし、レイ様もノリノリなので乗っかっている。











そんな訳で僕が頭の中を忙しくしている間に、国王陛下からとある夜会の招待状を頂いた。
執務室に呼ばれて赴くと、ロイド様からそう通達されたのだ。


「クルトル伯爵も招待されている」

「えっ……」

「ブランドン侯爵家に、ロキと会わせてくれと要求が来た。……自領の未踏破迷宮を攻略した感謝を伝えたいと」

「そんなのどこの領地でもされたことないです……」

「ああ。しかしわざわざ貴族が平民に会いたがる理由としては、まぁ、妥当な口実だ。だからあえて、夜会で会うことになった。陛下が気を遣ってくれたのだろう」


今日のロイド様も凛々しくて貫禄があった。レイ様も歳を取ったらこんなにいい男になるのだろう、羨ましい。
そう思って頬を緩めた僕に、ロイド様は真顔で言う。


「ところで、君は女装も似合うと思うのだが。舞姫に作ってもらわないのか?」

「いえ、全く考えておりません」


全てを台無しにする台詞ってすごいな、と思ったのだった。












ヴァンクリフトもロイド様とは違う貫禄を持っている。長年生き続け眷属を支配してきた凄みというか。
その為人に仕えるのがあまりに似合わないので、僕の代役になってもらうことにした。商会長補佐という肩書きで。14歳な僕よりも、余程それっぽく見える。

仕立ての良いスーツを試着し鏡を確認するヴァンクリフトにうっかり見惚れていると、いつの間にか手に手を取られていた。


「何、我は主のものだ。そのような物欲しげに見るくらいならば、いくらでも……」


ちゅっ、と手の甲へと唇が触れる。この男は、本当に油断ならない……。


「僕にリップサービスは要らないです。大体、ヴァネッサさんを諦めるの早すぎませんか?」

「焼き餅か?可愛いな」

「違います!ヴァンクリフトは、ヴァネッサさんを恋人?にしたくて殺して眷属にしたのでは?と」


僕が胡乱げに言うと、ヴァンクリフトはふむ……と顎に手をやって少し考え、そして口を開いた。

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